第3話,悪夢のB ~後編~

 僕の症状を知った兄上は、すぐに心配してきた。やっぱり何が起こったのかわからない。でも父上は、焦りも驚きもせず、何か知っているかのように、ただ黙っているだけだった。まさか、父上は、何かを知っているのか?だとしたらなぜなんだ...。考えてるだけでは分からない。少し調べてみればわかるかな?いや考えすぎか?いろいろな考えがよぎって、混乱する。とりあえず...忘れよう。

 朝のゴタゴタが終わり、僕は城を探索することにした。廊下を歩いているだけなのに、以前とはみんなの様子が違うようだ。この目を見たらみんな僕を避けるような振る舞いをする。まぁ、人避けにちょうどいい。気味悪がられても、今は、この状況をどう対処すべきかを考えることだ。とりあえず、手がかりが必要だ。片眼が紅くなっていることから、まだ完全な魔族ではないということだろう。だが、これが進行して、完全になるのかどうかはわからない。あとは、身体全身に流れる体力が格段に上がっている気がする。いや、気がするとかじゃない。確実に上がっている。以前までとは違う!やはり、魔族になっているというのは確実だな。でも、魔族は、常族の覚醒種とは違う。昔に栄えていた、魔物達の放つ魔法の影響で、魔力量の急増により誕生した種族。常族に大量の魔力を入れるだけでは、魔族になることはない。第一、魔法など、現代の研究でも解明されていない。だとすると僕は、もともと魔族か魔物だったやつから得た大量の魔力を吸収したということになる。その魔族が、アロンだとすると。....繋がる。あとは、どうやって彼から魔力を僕に移したのか。これが1番分からない。


「おい、エクス。大丈夫なのか?さっきから下を向いて、なんだかこう...考えごとだらけに見えるぞ?」


いつの間にか兄上が目の前にいた。


「ご名答。兄上は見抜くのがお上手で。」

「冗談は抜きだ。大丈夫なのか?」

「まぁ...はい。僕は大丈夫です。

それより、父上がよくいるところってどこか分かります?」


僕の思うに多分研究室だろう。それも秘密基地のような隠れ家だと思う。そこが分かれば、秘密が掴めるかもしれない。兄上。あなたは知っているのか?


「父上のことか。でもなぜ?」


秘密を知っているのか?だが、知らなくても真意を知ろうとするところは、いつもの兄上ですね。


「私の予想だと父上は、隠れて何かを研究している。それも、骸骨仮面が見つかってからのことです。父上は、私の目が見えなくなったとき、私に『眼を治してやる』と言っていました。思うに、父上は何らかの結果から、この自信を得て、私にこのようなことをしたと思うのです。」

「...父上が、お前を改造したとでもいうのか!?」

「はい。」

「だから、父上のいる場所を探して、魔族化の謎を解こうというのか!?」

「そうです。」

「そんなことが、できると思っているのか!?」

「できるかできないとか、そういうのじゃないですよ。やらなければ、僕でない気がしてしまうのです。だから、お願いします。」


僕は深々とお願いした。


「...分かった。父上は、図書室の近くにある謎の部屋で、よくお見えになる。それ以上は知らないよ。」


やはりな。兄上は知っておられた。


「ありがとうございます。では、私は早速その部屋まで向かいます。」

「無茶なことはするなよ。」

「分かってますよ。」


それでも、やり切る必要がある。俺の今後のためにも。

 兄上に言われた通り、謎の部屋まで向かった。この部屋は、入ると呪われると言われて、昔から口止めされてきた。でも、もうこの眼になってるから呪われてるも同然。入っても変わりはしない。そう思い、周りを確認してからドアを開けた。

 ドアを開けると、中は暗い研究室だった。なんというか、怪しい。一台だけ電源が入っているパソコンがあった。でも、パスワードが入力されていない。仕方ない、パターンから、パスワードを解読するしかない。だとすると1番は、begin224これだろう。

始まりを意味するbeginに昨日は、2月24日だ。入力すると、ジャスト。完璧に当てた。中のファイルをじっくり見てみると、あらゆるデータが入っていた。何のデータかは分からないけど、きっと何か関係があるのだろう。スクロールしていくと、「白魔術はくまじゅつ」と書かれた資料と、骸骨仮面が映っていた。これが一番関係あるのかもしれないな。調べようとしたら、足音が聞こえてきた。誰か来る。急いで別の机の下に隠れた。


「ふんむ。だれかがこっちの部屋に、入ってきたようだな。しかも、ファイルの中まで見られたという事か。」


父上か。これはまずい。あの一瞬ですべてを見通したというのか?今探されたらきつい。どうしようか。


「まぁ、エクスじゃなければよかったが...残念だ。こそこそと隠れおって、バレないと思っているのか?」


え?バレたのか?早すぎる。なぜ分かったんだこの一瞬で!何か手は...。!?


「簡単な事よ。お前さんの居場所は、このわたしが、とうに熟知しているのさ。無駄なことはせず今すぐ出てこい!そしたら、まだ許してやらんでもない。」


よし準備できた。これなら...。僕は立ち上がった。


「父上、いつもあなた様には驚かされます。尊敬します。」

「素直だな。今更この父をおだてても無駄だぞ?」


ええもちろん。全く尊敬してません。そしてあの目は、許しはしない眼だ。相当大事なことがあれに書かれてたんだろうな。だが、このエクス・ケレスは、こんなところでくじけるたまじゃないことを示してる!


「ㇷッ...」

ポチッ

「んん?」


ボタン押した。すると、緑色の煙が出てきた。そう、あのときの睡眠薬を入れ、ちょうど近くにあった機械でガスにした。この睡眠薬は、片付け忘れだったのだろう。僕はそのすきに体をかがめ、ガスマスクをつけた。


「愚かなり!!このような小癪な手を使うなど、王子として恥を知らぬのか!!!」


何と言われようと、あなたがしたことは、王として恥を感じなかったのか?そっちの方があってると思う。でも今は急いでこの場を離れなくては!

 とりあえず、隣の部屋の図書館まで逃げてきた。身をかがめながら、『魔術』に関する本を探した。それで何か手掛かりがつかめたら完璧だけど、うまくいくかな?

まぁ、見つけ出すのみか。隅々まで探し、時間が経っていった...。

 日もすっかり落ちたとき、本を見つけた。しかし、時間をかけすぎた。あの睡眠ガスもどこまで持つか...。とりあえず、これを持って僕の部屋に戻ろう。父上が起きてないことを願うよ。廊下に出ると、とりあえず誰もいなかった。よし、行ける。僕は慎重に部屋に向かった。

 部屋に入ってひとまず、座った。神経がカチカチになりそうだった。そして、いくつかの魔術の本を読んでみた。どれも、魔力を消費して使うことは書いてあるが、詳細なことは分からないようだ。それに、『白魔術はくまじゅつ』についてはどれも書かれていない。まだ研究途中なのかもしれない。悔しがっていたら、ドンドン!と音がした。


「いるのは分かっている。さっさと出てこい!もし出てこないなら、力づくでもきてもらう!これは、王であるヴァルディの命令であるぞ!」


そうとうおかんむりだ。それに秘密情報を見てしまったのだ。タダじゃ済まない。秘密を知られたら殺す。これが父上のやり方。急いで、逃げなくては!どこか、ないか...あった!

僕は窓を開けて、そこから一冊の本と共に出た。後ろでは突撃して確認している音がした。僕を殺しに探している。兵士に見つかってはまずい。急いで走った。以前だったら、こんなこと無理だったが、魔族の力のおかげで、だいぶ楽だ。だが目の前に、大きな塀が立ち塞がった。ここさえ出れれば勝ちだ。入り口は、兵士で塞がっているだろう。塀の外にもきっと兵士が並んでいる。だが、それもバレなければ意味もなさない。僕は、高い塀を乗り越え、あらかじめ持ってきた煙玉を投げて、その中に突っ込んだ。視界は真っ白だが、行ける!目が冴えてる。真っ直ぐ木につかみ、そのまま次の木と、渡った。後ろでは大騒ぎだった。母上、それに兄上ごめんなさい。僕は、ここにはいられない。

さようなら。外は悪夢のように真っ暗な夜だった。

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