浜田家③
―12月25日 22時50分頃―
二人の幼女と館を歩き続けること数分――
「ここが長男、
「…あぁ、そう…よかっ、た」
「あ〜、ダイジョブそ?」
あの一件の直後という事もある。もちろんあるのだが、聞くとこの家、兄弟全員で6人いる大家族らしく、現在出会った3人がアレな為、先が思いやられている所なのだ。
「大丈夫、ちょっとゲロ吐きそうなだけ」
「大丈夫じゃないじゃん!」
「ほら、
「サンタのお兄さん、大丈夫ですか?」
「だいじょう…ゔっ!」
「ちょっと! 袋ん中吐かないでよ?」
「……善処するよ」
「ちょっと!? ねぇ? …ねぇって!!」
◇
ひとしきり吐き気を発散し終わったので、部屋への侵入を開始した。
そしてすぐ外へと戻った。
あの
理由は単純明快。
部屋が謎の宗教一色に染まっていた。というか、この部屋の主…
(どうしよう、入ってすぐ気づいたから幼女2人を追い返そうとしたものの…)
◆
「あっ!?」
「ちょっ、ちょっと二人共…いいかな?」
「なに?」
「なんですか?」
「…ここまで案内してもらって悪いんだけど、部屋の外で待っといてくれない?」
「え? 嫌」
「み、
「
「そっ、かぁ〜」
「ちなみに、なんでか聞いてもいい?」
「あんな事があって、大人から離れられると思う???」
「ぐうの音もでねぇ…」
◆
(ドが10個つく程の正論を吐かれ、部屋の中まで着いて来ることを許してしまった…)
2人を連れてくるのは避けたかった。が、やる事は単純。相手の欲しい物を予測し、渡して去る。そこに、二人を危険な目に合わせず、変なものを見せないという条件が加わるだけ。
(うん…うん、なんとか……なるはず)
(しかし、兄までやばいとなると……――)
お腹が痛くなってきた。
トイレ…よりも、まずは部屋に入ろう
◇
再び部屋に戻った僕は、
少しづつベッドへと、
四隅に謎の盛り塩、150cm程あるヒビまみれの壺、カーテンもなく開け放たれた窓…見回す限り異様だ。
いや、こっちだって見渡す限り違法だ。臆することはない!
「しかしこれ、何の宗教なんだ?」
ふと目についた、やたらと毛羽立った靴下を、人差し指と親指の先で摘まみとってみた。その中には一枚の紙が入れられていた。
(……魔法陣?)
「どうしたの? 何か見つけた?」
「ねぇ、もうこれとってもいい?」
二人の声で正気に戻された。
そう、そうだった。何教だの、何が目的だの、そんなのどうでもいい、とっととプレゼントを渡して逃げるんだ。
「なんでもないよ」
「そうそう、何でもないよ?」
右耳に妙な声が聞こえた。
僕に相槌を打つ三人目の声。
聞き覚えのある声…
「あ、あ、あ…」
なんでだ…あの部屋に閉じ込めたはず…ちゃんと鍵は閉めたし、何なら二重にロックをかけたぞ…!
「ねぇ、あなた?」
「は、はい…僕っスか?」
「他に誰がいるの…?」
「…僕っすかぁ〜」
「プレゼント、とってもうれしかったわ」
「それは…それは…へへへ」
「腸が煮えくり返るくらい」
「へへ………へ?」
(あ、死んだかもしれない…)
半ば人生を諦めながら、最後の晩餐はケーキでよかったなんて妄想のついでに、さっきもらった南無阿弥陀仏を頭の中で復唱していると、
「ね、ねぇ? サンタさん?」
「なんかあったの?」
「……は? いや、聞こえっ、え?」
まるで
2人とも本気で混乱しているみたいだ。
「聞いてるの?」
「…―うわぁ!」
思考を遮るように声をかけられた。
振り被ることもなく、スローモーションのように少しづつ
しかしながら、なぜかそれは僕の胸を中途半端に突き抜け、痛みも無ければ血が出ることも無いまま、戦闘漫画の1コマのようにその場に留まった。
「…え?」
「何? どうしたの? サンタさん???」
「まさか来てるの!?」
「……
なんで手が、いや、なん…手がすり抜けた?
僕の胸を、僕とあいつ、どっちが、そもそも、これもあの変な魔法陣の……
待て待て待て待て…
一回確認だ。
「
「あ…そっかぁ」
「私、死んだんだったっけ」
「………まじか」
胸に手が刺さった瞬間、なんとなく察しはついていたものの、頭の整理がつく前に改めて言葉に直されると混乱するというものだ。
「そっ…かぁ〜〜」
幽霊だからといって、彼女が危険である事に変わりはない。警戒しつつも、言葉を続ける
「俺…死んでなかったんだぁ〜…」
安心したのも束の間、彼女が自分の死に気づいた瞬間、全身の穴という穴から血が流れ出す。綺麗だった白い服が真っ赤に染まる。
僕が二歩のけぞる間に、換気されてるはずの部屋が、生臭い血と腐臭で満ちてゆく。
「おい、二人共? 逃げる…―」
…あぁ、なるほど。思い返せば今まで誰一人、
だが違った。
…この女の存在を、僕だけが認識していた。
聞きたくない。聞いてはいけない。何となくそんな気がする。しかし、そうあってほしくない。そんなわけがない。という気持ちがそれを上回り、行動に表れてしまう…どうしてもこの恐怖には抗えない。
「逃げ……、いや…、」
「……もし、かして…君は、俺にしか認知できない。…のか?」
「うん。うんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうん!」
「そうだよ、そうだね? そうなんだ?」
「じゃあ君が…」
「うん!そうだよ(裏声)」
「決定した! 決定したね。 決定したの? 決定したよ!」
僕の言葉を聞いた途端に話し声が加速した。
まるで複数人が特定座標に固まって会話をしているような、自らの質問に、自らで答えることをひたすらに繰り返し始めた。
「どうする? でも、ホントにこの人でいいの? 私はどっちでもいいよぅ…。 僕はそんな事ない、ちゃんと見とかないと やっぱり!やっぱり!やっぱり!やっぱり!言う通りだった! 我慢できないぃ!! あぁああぁあぁぁあ…君の事ぉぉお!!殺しちゃうかもぉぉおお!!!」
会話だけにはとどまらず、見た目にも異常が見え始める。両の目玉は互いが互いと逆方向に回転し、焦点は合わず、髪は艶を失い、爪は零れ落ち、歯は歯茎が糸を引きながら喉の奥へと押し込まれてゆく。
今まで僕は幽霊を観たことがない。
一度もない。
だが、聞いてほしい。
今回ばかりは断言できる。
確信を持って、確実だと言える。
この幽霊は邪悪の化身だ。
「ま、まて…すこし待ってく―」
「…あっ、そっか。 ね? なら、もう…うん、何しても、うん、良いよね?」
少しづつ
不定形のスライムの様にドロドロと溶解し、体の周りをを蝋の様に落ちてゆく。
地面にたどり着いたそれはカーペットを黒く染め、ミシミシと音を立てた。
(これ…当たったら)
一寸、二寸ほど先にまで手が迫る。
心なしか体が溢れるスピードが速くなった。
臭い。臭い臭い臭い。ひたすらに腐臭がする。やはりこれらは二人にも分かるようで、
「何!? 臭い!!」
「うっ…おぅっ…!」
必死に胃液を吐き出し、不快感から防御を始めている。
「僕に近づくなぁぁああ!!!」
二人の手を離し、
しかし、それには目もくれず
「来るなぁぁあああ!!」
咄嗟に逃げ込んだベッドの中では体がガタガタと震え、背中の布団が変色し、綿でも漏れているのか、背中が軽くなってゆく。
数メートル先から凄まじく禍々しいものが近づくのを肌で感じる。
この状況でも深い眠りにいるのか、心中相手の
「永眠するくらいならっ…!!」
「痛ぁっ…!」
「お、目覚めた? ねぇ、起きてる!?」
「……うるさぁい!」
「ああ? 知ったことか!」
彼の不満を無視し、鼓膜を破らんとする勢いで起こし続ける。その度に少し目を覚まし、二言ほど罵り合うと眠りにつかれる。
「起きろ!!」
「うぅ…ん、うるさい! 黙れよ」
「あっ、寝やがった…」
しかし
なぜならもう後ろに、来ているからだ。
人生のろうそくがものすごい勢いで燃え尽きてゆくのを全身で感じてるからだ。
「……あぁ、もう!」
「いい加減起きろクソザル!! テメーの短い寿命、さらに短くしてやろうか?」
「……うる、……うるぅ、うるせぇ類人猿! こちとらヒト科霊長目ヒト族なんだよ! 人間様に楯突いてんじゃねぇ! 殺すぞ!!」
「ははぁーん? そんなに崇高なニンゲン様なら? とっとと起きてあの化け物退治なさったらどうなんですのん?」
「あ? 舐めんなクソガキ! バケモンなんてどこに居るってんだよマヌケ!!」
「ここにいるんだなぁ!! マヌケ!!!」
お互い余裕がないからか、コール&レスポンスに熱が入り、強めの悪口で殴り合う。
ヒートアップしすぎた感もあるが、これならほとんど起きてるだろう。
時間がない、これをあいつに…
こうなったらもう、
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