第3―2夜 魔境からの脱出
どうやら俺達は一億年〜6000万年程前の地球と思わしき時代、つまり中生代白亜紀、恐竜の時代である。
俺は、幼い頃は恐竜が好きだった。大きくて、カッコイイ。男のガキが何かを好きになる理由はこの二つだけで十分だ。
そんな俺はよく博物館に行ったり、図鑑を見たり、絵を描いたりと、生活の中に恐竜が住んでいた。恐竜を想わずに生活することなど、考えられなかっただろう。
当然、実際に生きている姿をみたいと言う想いを常に心に秘めていた。夢の中で何度空想を膨らませたのだろうか……夢の中で躍動する恐竜達を見て、さぞかし幸せだったに違いない。
彼の生物は、幼き俺にとって『アイドル』または『ヒーロー』的存在だったのだ。
だが……多少大人になった今の俺にとってはdinosaurという言葉の通り、『恐ろしいトカゲ』でしかないのだ。
そして、まさに今、その怪物と出くわそうとしているのだ!!
「どーして……どーして初期リスポーンがこんなアタオカなんだよ、わざとだろ!! 」
「知らない」
「チッ……」
フラグ建築士の資格が存在するならば、着実に取得への道を進んでいるのだろう。やっぱりあいつの機嫌を損ねるとこんな碌でもない展開にされてしまう。とってもめんどくさい。
恐竜の巣に居るということは、いつかは恐竜が来てしまうということなのだ。さらにこの巣の主は肉食恐竜と来た。草食なら踏まれ無けりゃなんとかなるのだが、肉食だったら食われてしまうじゃないか……
こいつの性格が歪んでいるのは、あんなけったいな部屋にずっと引きこもっているからじゃないか?いや、もしかしたら俺と同じように日中はただの人間として行きているのだろうか……
まぁ、いずれわかることだろう。
もう一度、あかりの顔を見るがどこか邪悪で、ちょっと楽しそうな顔をしてやがる。
こいつには文句を吐けばいいのか、媚びればいいのか……俺にはわかりかねる。こいつの取り扱い説明書があったら誰か送ってくれよ。
抵抗は諦めた。俺は深い溜息をつき、ゆっくりと立ち上がった。ちょっと身体を伸ばしたら準備完了だ。
「ここ、危ないだろ?ほら、さっさと立てよ。じゃねえと置いていくぞ? 」
「言われなくてもわかってる、こっちが待ってた位」
「お前は俺が動かずに怖がっているのを楽しんでただけだろ? 」
「速く出ないと食べられる」
「白けるのもいい加減にしやがれ! 」
俺はこう言って、走り出した。あかりも、すぐに俺を追ってくる。
出口までは500メートルはあるだろうか?そこまで競争だ。
スタートが俺の方が速かったのもあってか、あかりはまだ後ろだ。負けたら拗ねるのだろうが、たまには完全敗北を味わうがいい。
ここで俺は後ろを向いてあっかんべーをしてやる。煽ってみたが、気持ちがいいもんだなあ〜〜
それを見たあかりはしかめっ面を見せた。ずっと俺をいじり倒して来たんだ。これくらい受け入れろ!
500メートルは長いようで、短い。煽ったりしてればもうゴールは目の前だ。おれの勝利は確実だろう!!
再び後ろを向いて見る。あかりは、目の前に居るではないか……
「今度はどんなチート使ったんだよおお!!お前ええ!! 」
「……」
奴はだんまりを決め込む。畜生、ここで負けたらめちゃくちゃめんどくさい。勝たなければ……!!
そして俺もあかりもラストスパートをかける!!
「絶対に負けねえぇぇぇぇ!!」
俺はめいっぱい叫んでゴールした。そして、激追してきていたあかりも同時にゴールした。
「俺が勝ったな。あかりはちょっと後ろだった」
「いや、引き分け。すぐ横に居た」
「いやいや、そんなわけ――」
数分間口論したが、勝ち負け云々よりも疲れのほうが体に響いた。俺達は共に洞窟の入口付近で腰を下ろした。
とりあえず、確実に死へ追い詰められる状況から脱した。だが、俺達は食べ物も水もないし、だからといって無闇矢鱈と冒険すれば以前のような危機に会うだろう。
「なあ、色々チートみたいなことが出来るならさ、食べ物とか水とか生きる為に必要な物でも生成出来ないのか?」
「二人で取ればなんとかなる」
「あのなあ、現代に近い世界とは違ってここはほぼ完全に未知なんだ……安全なんてものはないんだ。頼むからさ、最低限のものは生成してくれよ」
「後悔はしない? 」
「しないよ。いきなり危機に瀕するならそっちのほうがマシだ」
こいつは、リスクを楽しんでいるのだろうか……それとも俺を弄びたいのか……困ったなあ、畜生。
説得の末、何故か瓢箪の形をした水筒と品種のよくわからないを渡され俺は水と食べ物にありつくことが出来た。
水は無味無臭で特筆することはないが、ベリーは甘みと酸味が程よく食べやすかった。おいしい果物なんてあっちでもまともに食ってないからか、ちょっと目頭が熱くなってしまった。
肉食恐竜の巣から脱出し、水と食べ物を得た。もうこの世界でリスクになるのは恐竜だけだ!!
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