【24話】どうやら悪役令嬢は手料理を振る舞いたいらしい


 期末試験から、一週間ほどが過ぎた。

 

 リリーナに勉強を見て貰った甲斐あってか、ステラは何とか期末試験を乗り切った。

 彼女が退学にならなくて本当に良かった、とリヒトは心の底からそう思う。


 そして、クロードの気持ちのことだが、リリーナには伝えていない。

 伝えるかどうかかなり悩んだが、結局はめた。

 

 クロードの前だと緊張してしまうリリーナのことだ。

『クロードはお前のことを好きになっている』なんて伝えようものなら、どんな奇行に走るか分からない。


 それが原因で、クロードの気持ちが変わってしまったら最悪だ。

 リスクを考えた結果、リヒトは黙っておくにことにした。

 

 それに、焦る必要はない。

 

 リリーナとクロードは両想いなのだ。

 二人が結ばれるのは、時間の問題。

 じっくりゆっくり待っても、その結末は変わらないだろう。

 

 うんうんと頷くリヒト。

 

 そうしていると、空き部屋の丸テーブルに座るリリーナから、

 

「ちょっとあんた! 私の話ちゃんと聞いてるの!?」


 と、大きな声が飛んできた。

 

「いきなりでかい声出すなよ。耳がキンキンするだろ」

「あんたが悪いんじゃない! 私の話を聞かないからこうなるの! 自業自得よ!」

「聞いてたよ。クロードに持ってく弁当のことだろ?」


 初めて自作弁当を作っていったあの日から、一週間に一度、リリーナはクロードに昼食を渡している。

 リリーナの自作、ということになっているが、真実は違う。

 

 作っているのはリヒトだ。

 料理が出来ないリリーナの代わりに、クロードの弁当を作っている。

 

「明後日は弁当を渡す日だもんな。大丈夫、忘れていない。いつも通りしっかり作ってやるから安心しろ」

「そうじゃないわよ!」


 勢いよく言ってみせたリリーナ。

 

 しかしその勢いはすぐに消失。

 なにごとかと思えば、急にもじもじし始めた。

 

「……明後日のお弁当は、私が作りたいのよ。私が作った料理を、クロードに食べてもらいたいの」

「それはいいけどさ、お前、料理できないんだろ?」

「ええ。だから教えて欲しいのよ……あんたに。ダメ……かしら?」

「いいや」


 好きな人のために、やってこなかったことにチャレンジしたい。

 そんな健気な想いを、リヒトは純粋に応援したいと思った。

 

 

 翌日の放課後。

 

 今日の恋愛相談は料理づくり。

 いつもの空き部屋を飛び出して、シードラン子爵邸のキッチンで行われることとなった。

 

「まずは俺が一通り手本を見せる。リリーナはそれを参考にして、料理を作ってみてくれ」

「分かったわ」


 リリーナは、何でもできるハイスペック万能美少女だ。

 一通りしっかり教えさえすれば、料理もすぐにマスターできる――そう思っていた。

 

 それから、約一時間後。

 

「こいつは、天才的な味だな。……逆の意味で」


 リリーナの作った料理を一口食べるてみると、何とも形容し難い不快な味が口の中に広がった。

 何でもできるハイスペック万能美少女にも、できないことはあったらしい。

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