【15話】祭りの知らせ


 成功とも失敗とも言えない食事会から数日後。

 

「フェスティバルだ!」

 

 旧校舎の空き部屋へ入ったリヒトは、入室早々、興奮気味に声を上げた。

 

「はぁ?」

 

 既に丸テーブルに座っていたリリーナから、怪訝な視線が飛んできた。

 ざらりとした声には、頭大丈夫? というニュアンスが込められている。

 

「いきなり騒々しいわね。フェスティバルがどうしたのよ。お祭り騒ぎなのは、あんたの頭の中だけにしてよね」

「次の作戦だよ。これを見てみろ!」


 バン!

 丸テーブルの上に、ポスターを叩きつける。

 

 ポスターのタイトルは『レーベンドフェスティバル』。

 毎年、王都の街で開催されているお祭りだ。

 

「この祭りに、クロードと参加するんだ!」

「お祭り……クロードと!」

 

 にんまりと笑うリリーナ。

 クロードとのお祭りデートを頭に思い浮かべて、楽しい妄想をしているに違いない。

 

 しかし楽し気な笑顔はすぐに、不安気な表情へと変わってしまう。

 

「これって、私とクロードの二人で行くの?」

「一応デートだしそれが一番良いと思うけど……無理そうか?」

「……うん。緊張して、変なことしちゃいそう。そのせいで、クロードに嫌われたらどうしよう。そうしたら私、一生立ち直れないかも」


 リリーナの唇がプルプルと震える。

 目元にはうっすらと涙が浮かんでいた。

 

(二人きりはまだ無理そうだな)

 

 今の状態のまま二人きりで祭りに行っても、良い結果を残せないだろう。

 仕方ないので、プランを変えることにする。

 

「俺も一緒に行ってやるから安心しろ。だからもう、そんな顔するな」

「いいの?」

「おう。レリエルにも声をかけておくよ」


 リリーナの表情が、一気に和らいでいく。

 

 少しばかり大変なことになったが、泣き顔を見ずに済んで良かった。

 安堵した彼女を見て、リヒトはそう思った。

 

 

 それから数日後。

 いつものようにステラと昼食を食べていると、「もうすぐフェスティバルが開かれるそうですね」と、彼女が話を切り出した。

 

「レーベンドフェスティバルのことだな。ステラも行くのか?」

「行くつもりはなかったのですが、妹に『連れてって』とせがまれてしまったんです」

「それじゃあ、妹と参加するんだな」

「……実は、それについて問題があるんです」


 困ったような顔で、ステラは視線を泳がせた。

 

「私、王都に来てから日が浅いので、ちゃんと案内できるか不安なんです。……それであの、リヒトさんにお願いしたいことがありまして」


 上目遣いで見つめてくるステラ。

 緊張しているのか、頬がわずかに赤くなっている。


(かわいい)


 頭に浮かぶ四文字。

 用件を聞く前から、リヒトは首を縦に振りそうになる。

 

「一緒にお祭りに行ってくれませんか!」

「いいぞ」


 即座に快諾。


 ステラの願いはできるだけ聞いてあげたい。

 リヒトはそう思っている。

 

 それは罪悪感によるものだ。

 

 本来――マジカルラブ・シンフォニックのシナリオ通りであれば、ステラはクロードと結ばれて幸せになる。

 だがリヒトはそのシナリオを無理矢理変更して、リリーナの恋を叶えようとしているのだ。

 

 大量虐殺を回避するためとはいえ、ステラの未来の幸せを奪おうとしているのは事実。

 せめてもの罪滅ぼしのため、できる限りのことをしてあげたいのだ。

 

(それだけじゃないけど)


 可愛い女の子が、せっかく頼ってくれたのだ。

 その気持ちが嬉しいし、だからこそ、ちゃんと応えてあげたい。

 

「ありがとうございます!」


 ステラの眩しい笑顔が弾けた。

 心なしか、いつもより輝いているように感じる。

 

「日中は用事があるので、午後五時からでも良いでしょうか?」

「ああ。大丈夫だ」


 正午に集合、午後二時頃に解散――フェスティバルの当日、リリーナたちとは、そんな予定を組んでいる。

 

 午後五時からであれば、予定が被ることはないだろう。

 

(今年のフェスティバルは忙しくなりそうだな)


 去年のフェスティバルはレリエルと二人で、のんびり回っていただけだった。

 それが今年は、前半がリリーナたち、後半にはステラ姉妹ときた。

 

 忙しくて疲れてしまいそうだが、嫌な気分ではない。

 楽しそうで、むしろ、ワクワクしていた。

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