第9話 藤村達也の人生4
◇
それからというもの、俺は色々大変だった。誰かが呼んだ救急車が到着した後、友梨佳の死体を彼らに任せて、俺は同じく到着していた警察に事情聴取されることになった。とはいえ、俺に話せることなど殆どなく、友梨佳を目の前で刺されたということだけ話して帰宅した。だが、親に連絡が行ったのもあって、親にも同じような説明をさせられたのは面倒としか言いようがなかった。
その後は親に休んでいるように言われ、週明けの学校も休むことになった。そうこうしている内に、友梨佳の葬儀の日取りが決まった。向こうの親が、気を利かせて知らせてくれたらしい。学校関係者は限られた人間しか参列できないことになっていたが、俺だけは特別に参列してもいいとのことだった。俺は、やるべきことを思いついたので、葬儀に行くことにした。
当日、俺は親の付き添いは断り、親父のスーツを借りて、会場へ向かった。途中、コンビニである物を調達して、葬儀会場に辿り着いた。
葬儀会場では、受付をスルーして中に入った。受付の人間は忙しいらしく、しれっと「既に受付を済ませましたよ」って顔をしながら通ったところ、特に咎められることはなかった。親から持たされた香典の扱いに困ったが、適当な空席に置いておくことにした。これからやることを考えれば、俺は弔問客とは到底言えないだろうが、かといって金すら出さないのも不義理が過ぎるだろうから。
会場の奥には、棺が安置されていた。あの中に友梨佳が入っているのだろう。顔の部分にある蓋は開いている。まだ式が始まるまでには時間があるからか、人の姿はまばらだ。やるなら今だろう。
「藤村君……?」
途中、誰かに声を掛けられた。ちらりと目を向けると、うちのクラスの委員長だった。委員長だから参列を許されたのだろう。親しい仲でもないし、誰かと話している余裕もないので、無視して棺のほうへ向かう。
棺の窓を覗き込むと、そこには友梨佳の顔があった。死に化粧を施された彼女の顔は、元々の可憐さを更に際立てている。血の気がない白い肌の色がなければ、死んでいるとは思えないだろう。
「……ようやく死んでくれたな。だが、成仏してなかったら困るからな。念には念を入れないと」
言いながら、俺は調達してきた物を―――塩を取り出す。袋を開けると、窓から棺の中へと塩をぶちまけた。
「ちょ、あんた何やってんの……!?」
俺のやっていることに気づいた委員長が俺に掴みかかるが、もう既にそれなりの量の塩を掛けていた。……この辺でいいか。
「ちょっと、待ちなさいよ……!」
委員長の静止の声を無視して、俺は会場を後にした。
◇
「昨日のあれはどういうことよ!?」
翌日。久し振りに学校へ行くと、委員長に詰め寄られた。……昨日のことは親にも連絡が行って、さすがに散々怒られた。とはいえ、あれは必要なことだったし、事情を他人に話すつもりもなかった。だんまりを決め込む俺に、親は諦めた様子で、失望の視線を向けてきた。それと同じことが、今から始まるのだろう。
「……」
「いい加減にしなさいよ! やっていいことと悪いことの区別もつかないわけ!?」
委員長の言葉に、俺は昨日と同じくだんまりを決め込む。胸倉まで掴まれたので、ちょっと体勢がしんどいが。
「どうしたんだよ委員長、何があったんだ?」
すると、クラスの男子が仲裁に入ってきた。確か、委員長の幼馴染なんだったか。友梨佳以外の人間と関わる機会が少なすぎて、人間関係が曖昧だ。
「こいつ、昨日の桃園さんのお葬式で……桃園さんのご遺体に塩をぶちまけたのよ」
「……は?」
それから委員長は、昨日の一部始終をクラスの連中に話した。その内容に、連中もドン引きしているようだった。
「藤村……それ、本当なのか?」
それは、仲裁に入った男子も例外ではないようだった。正直これにも答える義理はないが、そろそろ面倒になって来たな……。
「……関係ないだろ」
「……は?」
だから、ちょっとだけ弁明―――というか、こいつらに釘を指すことにした。
「これは俺とあいつの問題だ。他人がしゃしゃり出るな」
「……っ! このっ……!」
すると、俺の返答が気に入らなかったのか、委員長が空いている手で俺の頬を張ってきた。胸倉を掴む手を離したかと思えば、そちらの手でももう一発。
「……」
解放された俺は、自分の席に座った。頬は痛むが、あまり気にならなかった。
「普段から酷いと思っていたけど、ここまでとは思わなかったわ……この人でなし! クズ!」
暴力に訴えた委員長だったが、まだ気が済んでいないらしい。まだ問い詰めようとしてくる。
「何とか言ったら―――」
『―――二年二組、藤村達也君。至急校長室に来てください。繰り返します。二年二組、藤村達也君。至急校長室に来てください』
だが、それを遮るように校内放送が流れた。半ば予想していたことだったが、どうやら昨日のことで学校側からも問い詰められるらしい。
「……はぁ」
さすがに仕方がないこととはいえ、面倒になったなと思いながら、俺は立ち上がって教室を出た。
その日、俺に一ヶ月の停学処分が言い渡された。
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