侵略者、地球で詰む

んじゃらもん

侵略者、日本で詰む

宇宙からやってきた侵略者たちは、完璧な計画を立てていた。


宇宙からやってきた侵略者たちは、銀河系の覇者と呼ばれていた。

彼らは惑星間量子転送技術、重力制御システム、そして惑星気候改変装置を完成させ、

すでに七つの星系を征服していた。

アンドロメダ星雲の反乱軍も、プレアデス星団の連合軍も、わずか72時間で降伏を選んだ。

高度な技術力と圧倒的な軍事力の前には、どんな文明も屈服するしかなかったのだ。


地球の中で最も効率的に侵略できる国として、日本を選んだ。

その理由は、技術が発達していること、平和な国であること、そして島国であることだった。


威圧感を示すため、巨大な宇宙船団を東京上空に展開した彼らは、

最初の違和感を覚えることになった。


どの星でも空を埋めつくす船隊とその技術力の差に恐れを覚え、

人々は家にこもるか、我さきに逃げ出すのだ。その光景をみると優越感にあふれ、この星に生まれてよかったと思う。

しかし、今日はいつもとは違う光景が広がっていた。


地上では、人々が足を止めて空を見上げている。

しかし、そこには恐怖の表情はなく、

ほとんどの人がスマートフォンを構えて写真を撮影していた。

「(カメラをとりながら)映え!!」

「ヤバ、ライブ配信」

「AIじゃね?」

宇宙船からの観測では、すでにハッシュタグ「#宇宙船襲来」「#リアルUFO」「#プロモーション乙」が急上昇ワードになっていることが確認された。

さらに、数時間後には宇宙船をモチーフにしたご当地キャラクターが早くも登場し、

関連グッズの予約販売が開始されていた。

また、一瞬顔をみせた隊員はSNSで擬人化、女体化され地球人に理解できない言語を喋る動画がネットミームと化していた。


不審に思った司令官のZ-34は、威嚇射撃を検討したが、

「撮影スポット」として人気を集めている宇宙船の周辺には、

すでに露店が出店し始めており、混乱を避けるため、

正規の手続きを踏むことにしたのだった。


誤算1:マニュアル至上主義

「侵略通告書を提出しにきた」と宇宙人司令官のZ-34が報告した。

「申し訳ございません。」担当課長は鼻眼鏡を直しながら首を振る。「緊急侵略時における外惑星知的生命体対応マニュアルが、まだ策定されておりません」

「なにっ!では即刻作るがいい」

「ただちに検討委員会を立ち上げさせていただきます。まず、各省庁との調整会議を…」

「いや、我々は明日にも侵略を…」

「委員会設立準備会の事前協議が必要でして」課長補佐が割り込んでくる。「その前に有識者会議による妥当性の検証を…」

3ヶ月後、マニュアル策定のための準備会議の事前打ち合わせの日程を調整する会合が開かれることになった。



誤算2:過剰なおもてなし

「このたびは遠方より…」政務官は深々と頭を下げる。「まずは歓迎の懇親会を…」

「いや、我々は侵略しに来たのだが」

「お茶請けにお饅頭を…あ、もしかして和菓子がお口に合わない?洋菓子もご用意しておりまして」

「いや、その前に降伏の署名を…」

「署名の前に、地方視察をセッティングいたしました。各県知事がお待ちでして」

「我々は忙しい身で…」

「お土産に各県の銘菓を…」

視察後、宇宙人たちは各県の特産品で溢れる船内で途方に暮れていた。



誤算3:細かすぎるルール

「侵略届出書類でございますが」書類審査課の係長が山積みの書類を指さす。「いくつか修正をお願いしたく」

「なんだと?」

「はい。まず、侵略時の騒音データが旧規格での記載になっておりまして。新書式での再提出を」

「我々は光線銃で…」

「光線銃の使用は、改正環境アセスメント法の第47条3項に…」

「では戦闘ロボットを」

「ロボットの場合、AI利用届、二酸化炭素排出量申告、近隣住民への事前説明会、それから…」

「やむを得ん、生物兵器で」

「その場合、外来生物法に基づく審査が必要になりまして。ただし、委員会が今年度の受付を終了しておりますので、来年度4月以降…」

宇宙人たちは、次々と積み上がる申請書類の山をただ呆然と見つめるばかりだった。


最終的に侵略者たちは、

「この国の『常識』は我々の想像を遥かに超えている」

という報告書を本部に提出し、

侵略計画の中止を決定した。


ところが、これは新たな問題の始まりだった。

母星に帰還した侵略軍の映像が流出すると、

若い世代を中心に日本文化が爆発的な人気を集めることになる。

「うちゅまる」のLINEスタンプは惑星間通信で海賊版が出回り、

Z-34司令官の「にゃーん」画像は

銀河系で最も有名なミームとなってしまった。

さらに、地球のアニメやマンガが密かに母星へ持ち込まれ、


「推し活」という概念が瞬く間に広がった結果、

若者たちは侵略の代わりに「聖地巡礼」を熱望するようになった。

本部からは極秘の追加報告が届いた:


「帝国軍最精鋭部隊の8割が、休暇申請に『コミケ参加』『アキバ観光』を希望。

このままでは軍の機能停止は避けられない」

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