第2話 詩乃

「ねぇ、ごめん。詩乃、それを取ってもらえるかな?」


 高校1年生の詩乃しのは、双子の妹の香乃かのの彼氏に片思い。学校の帰り道、駅のホームのベンチで隣に置いていたペットボトルの飲み物を取ってほしいと彼に頼まれた。帰る道は一緒。双子なのだから帰る家も同じ。彼氏の隣に自分もいる。叶わない恋とわかっている。隣にいるのは、いつでも苦しい。


「あ、はい。これ」

「詩乃、想汰そうたにすぐ取って」

「ご、ごめん」

「詩乃ちゃん、気にしないで。全然大丈夫」


 香乃は細かいところをすぐ指摘する。想汰にすぐにフォローしてくれて心救われた。誰にでも優しい。


「ありがとう」


 詩乃は、頬を赤くして返答した。香乃はその反応に面白くない顔をする。


「想汰、向こうの駅着いたら、公園よっていこうよ」

「あ、うん。いいけど、詩乃ちゃんは?」

「いいよ。2人で行っておいで。私は1人で大丈夫」

「当たり前だよ、たまには2人にさせてよね」

「香乃、そういうこと言うなって、姉ちゃんだろ。大事にしろって」

「えーーー、ひどい。私は想汰と2人になりたいだけなのに」

「ごめんな。詩乃ちゃん」

「うん、大丈夫。ありがとう。想汰くんは香乃のことを大事にして」


 詩乃の心の中が、涙でだだ漏れだ。

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