辺境薬師はVtuber異世界攻略の裏でスキルを鍛え世界最強へ〜無自覚最強の薬師は異世界で回復薬密売カルテルを結成する〜
第9話 植物園の夢とファミパン女ーーWelcome to the family, PAPA
第9話 植物園の夢とファミパン女ーーWelcome to the family, PAPA
◇初日:???にて◇
「えっ」
「おっと、客人クン、気付いたようだね」
あれ? なんだ、これ。
俺は気付けば、おしゃれな白い椅子に座っている。
目の前には、丸い白いテーブル。
カフェのテラス席みたいな……。
対面には、見た事もない美人が座っている。
「どうぞ。ヴェノムグラスの紅茶だよ。毒喰らいが出来る者のステータスを少しづつ上げてくれるものだ。よかったらどうぞ」
「あ、どうも」
差し出されたティーカップ。
優しい湯気がほわほわと昇る紅茶を一口。
ふむ、スパイシーな味だ。嫌いじゃない。
空は薄暗い。
明るい月が、薄い雲を照らしている。
夜明け前の空だ。
「……本当に飲んでしまったの?」
緑がかった琥珀の長髪。
丁寧な編み込みの意匠を黒い薔薇の髪飾りが纏める。
小さな卵形の顔。
陶磁器のような白い肌、少し垂れ目気味の深紅の瞳。
造形の良すぎる顔が一瞬、暗い表情を見せる。
「……味に問題はなかったけど」
「プフッ……ははははは! 怒りも怖がりもしないの? キミ、面白い子だね。はははは、パーラハーラー3世が気に入るのもわかるよ。ようこそ、我が植物園に」
植物園……。
辺りを見回す。
たくさんの花々、奇妙な形の木や植木、ガラスの温室、白磁の石で作られた池や小川。
確かに、植物園だ……。
「……アンタは誰だ?」
「エルマ。気軽にエルちゃんって呼んで欲しいな」
「……俺はトモムラトモヒト。宜しくエルちゃんさん」
「あは。キミ、本当に良いね。落ち着いて冷静で、それでいてイカれてる……いや、違うか。何かのお手本をなぞろうとしてる?」
「えっと……」
エルマと名乗った女の勢いについていけない。
それより本格的にここはどこだ?
ムカデを倒して、限界が来て寝たような……
俺は、眠っている間に運ばれたのか?
犬は、どうなった?
「ああ、ごめんごめん。来客なんて数百年ぶりでさ。ついテンションが上がっちゃって……ここは、僕の世界。まあ、限りなくプライベートな空間って感じかな。気絶したキミの意識だけを少し、招待した感じさ」
何をいっているんだ、こいつは。
いや、だが……。
異世界ならこんなめちゃくちゃな事が出来る奴がいてもおかしくない、か?
慎重に対応しよう。
今の所、俺の異世界人への印象は最悪だ。
「俺に何か、用か?」
「うん、君にお礼を言いたくてね。あの子を助けてくれただろう? 可愛い、僕の家族をさ」
「家族……?」
「そう、家族。彼には悪い事をしちゃった。最後まで面倒を見ると言ったのに、結局独りぼっちにしちゃった。パーラハーラー3世を助けてくれた恩人だよ、君は」
「まさか、あのわんこの事を言っているのか?」
「それ以外あるかい? ありがとう、トモムラ。君に深い感謝を」
エルマがぺこりと頭を下げる。
どうやら、あのわんこの前の飼い主、らしい。
……ネーミングセンスどうなってんだ、コイツ。
「……僕は訳あってこの場所から出られなくてね。現世に遺した数少ない悔いがあの子だったんだ。あの子が魔物商人に捕まって、死王の死体クソバカの手下に痛めつけられる姿をこの場所から眺めるしかなかった。……だから、本当に君には感謝している」
赤い瞳が俺を見つめる。
穏やかな口調に朗らかな雰囲気。
だが俺はエルマから、あの大ムカデ以上の圧を感じていた。
この女ーー。
〜〜〜〜
外敵の察知:発動
戦力評価
"神話に挑むに等しい"
〜〜〜〜
恐ろしい程強いぞ……。
ぞわわわ。背筋が泡立つ。
この女の機嫌を損ねると非常にまずい気がする。
「あっはっは、そんなに身構える必要はないさ。君に敵意は一切ない。むしろ、君の手助けをしたくてここに呼んだんだ」
「手助け?」
「そう。ねえ、1つ聞かせてくれないかい? 君はどうして僕の家族を助けてくれたのかな」
「え?」
「君を視てわかった。君、この世界の人間じゃないよね?」
「……ああ」
「やっぱり。ふふ、君が嘘をつかないでくれてうれしいよ。そう、だから気になるんだ、僕の事や、世界の事を知らないキミにとって、パラちゃんを助ける理由はないはずだ」
「……」
「なのに、君はなぜ己の命を危険に晒してまで僕の犬を助けてくれたんだい?」
エルマの赤い目。
本能か、それとも勘か。
ここでは嘘は許されない、そんな気がした。
なので、取り繕わずに。
犬を助ける理由なんて、一つだ。
「それが当たり前だから」
「……うん?」
「犬が虐められてたら助けるだろ。人として当然だ」
「……………」
そう、当たり前なんだ。
こんな時、主人公なら――みたいな事を考えなくても、ピンチの犬を助けるのは当たり前。
それ以外の理由なんてない。
あれ? エルマの表情。
なんかハトが豆鉄砲を喰らったような顔を……。
「…………なんという事だ」
「え?」
「ああ……本当に、なんという事だ……まさか、そんな……いや、こんな事って……」
「え?」
何? なんなの?
ミスった? 嘘?
死ぬ感じ? え? 俺、これでゲームオーバー?
「ああ、嘘はない……君は本当に嘘を言っていない……君の心は、魂は何1つ、嘘を言っていない……」
顔に手をやって天を仰ぐエルマ。
豊満な胸が、薄い抹茶色のローブを押し上げるように強調される。
セクハラと思われたら嫌なので、目を背けておこう。
「……ふふ、いいんだよ」
「え?」
胸に目が行ったのバレた?
死ぬ、感じか? 俺。
ビクビクしながら、エルマを見る。
彼女の頬は赤く、深紅の瞳は潤んで。
……なんで?
「君にならどれだけ視られても構わない。下らない配下や有象無象には欲情された瞬間に毒で溶かし殺したくなるが、君は別だ」
ええ……やだ、怖い……なんなのこの人。
「どうしよう、僕は既に、君の事が躰を視姦されても気にならない、むしろしてほしい程に好きになってしまったようだね」
自分の肩を抱いてなんかくねくねし始めるエルマ。
え、何、何何何?
「聞かせてくれ。君は、あの子を、パラちゃんをこれからどうするつもりだい?」
「え……いや、行く場所ないなら俺が世話するつもりだけど……。犬、好きだし……」
「あの子みたいな大きくて少し狼っぽい犬でもかい?」
「いや、俺、どっちかと言えば中型犬~大型犬くらいのサイズが好きだし……」
「ァアッ……」
うっとりとした顔で、椅子の背もたれに深く身体を預け、天を仰ぐエルマ。
深紅の瞳から、涙を一筋流して。
「どうやら僕と君は……あの子のママとパパ」
「え?」
「我々は――”家族”だったらしいね……」
「今会ったばかりだろ」
ちょろすぎるうえに怖い。
なんなの、この女。
「ちょろすぎるうえに怖い」
「あは、君にだけだよ」
満足そうにほほ笑む女。
いかん、つい口に出してしまった。
目の前の女はあのムカデよりも強い生き物だ。
機嫌を損ねないようにしないと。
「あっは、ちょろいだなんて、君にだけさ。ああ、神々は本当に残酷だ。あと数百年、君との出会いが早ければ……。まあ、言っても仕方ない、か。君、いや、あなたへのお礼を用意した、受け取ってくれ」
呼び方が"あなた"になっている……!
常用の貴方じゃない方の響きなんだけど!?
あ↓な↓た↓、じゃなくてあ↓な↓た↑なんだけど。
最悪だ、変態に目をつけられてしまった。
「……あ、どうも」
テーブルの上に差し出されたのは、くたびれた書物。
ぎょろ……。
気のせいか。
表紙に描かれている目のマークが動いたような……。
不審者から何も受け取りたくはない。
だが、受け取らないと、ずっとここにいないといけない気がする。
しぶしぶその本に触れると。
~~~~
”厄王の調合本(種別:伝説のアーティファクト)”
《効果》
・特殊な薬の調合が可能になる
・失われたレシピの場所を所有者に知らせる
・教会指定の特級禁書である
・このアイテムは破棄出来ない
《アイテムテキスト》
かつて神々に挑んだ王達の1人、厄王。
彼女がその生涯を賭けて創り出した全ての薬品の調合レシピが記されている本。
教会から禁忌の知識、悪魔の業として封印対象とされている特級禁書。
持つだけで聖人裁判に掛けられる。
破けているページがあり、そのページのありかを所有者に知らせる機能もある。
厄王は、神の枷の破壊を望んだ。
すなわち、人間から死を除く事を望んだのだ。
それが人と魔の境を溶かす愚行と知っても。
~~~~
「……えぇ」
ものすごい嫌な説明文……。
このアイテム、どちらかと言うと呪いのアイテム的な奴なのでは?
だが、エルマがキラキラした目で見てくるので、会釈して薬師のカバンに放り込む。
「ふふ、喜んでくれて嬉しいな、パパ。じゃあ、あの子を頼んだよ。あ、そうだ、名前は自由につけてあげてね。あと、毎日1食は毒入りの餌を食べさせてあげて。それとブラッシングは毒手スキルを使う事ね」
パパ!?
待て、脳内で最悪のままごとを初めてないか!?
「待て、情報が多い、情報が」
「あとそうだ。パパには死んでほしくないから、もう一つ、ボクから贈り物があるんだ」
「え?」
「運命、だね。まさか、ボクと同じスキルを持つ者が薬師としての力を持ち、こうして出会えるなんて。ーースキルにはまだまだ多くの可能性がある。これからパパのスキルの可能性、その一つの完成をお見せしよう」
「え?」
エルマが立ち上がる。
夜明けの空の下に佇む彼女。
その美貌と相まって、本当に神話の女神が目の前にーー。
「ーー"
「は?」
エルマの右腕に緑色のオーラと毒液が一気に集まる。
凝縮された毒液とそれ以外の力。
夜明けの空を照らす妖しい輝きはやがて収束し、彼女の右腕に完全に馴染んだ。
「この地は敵が多くてね。冒険者、騎士、怪物、教会、神……薬師の敵は多すぎる」
「待て、エルマ、何を……」
外敵の察知スキルが身体中の細胞を震わせて。
「少し痛むからね、あなた。大丈夫、大丈夫だから、大好きだからね」
「は?」
ずっ。
エルマが緑のオーラを腕に宿したまま、近づいてくる。
「耐えてください、ボクのあなた」
「いや、待っーーッグエ!!??」
腹!?
内臓押し上げられ、え、脊骨!? ある!?
殴られ、た!?
気付けば、エルマの右腕が俺の鳩尾に刺さって。
「がはっ」
思わず両膝を付き、その場にうずくまる。
息、息が出来ないっ!
よだれが垂れて、涙が溢れる。
クソ、息、息ッーー
夜明けの空、遠い朝日、エルマのとろんとした赤い目……?
「あ……?」
「んっ……」
視界一杯にエルマの顔が映る。
空気を求めて間抜けに開く俺の口。
彼女がそれを唇で、塞いだ。
「!?!?」
暖かくて、湿っていて、柔らかい。
ナメクジのような舌が、口の中を這い回る。
「ん、もう、暴れないで……」
そのまま、押し倒され、彼女の暖かな身体にのしかかられる。
舌を絡め取られるたび、甘い香りの唾液が口の中に。
彼女の体を押し除けようとすると。
「ふふ、困った子だね」
「んっ!?」
信じられないほど強い力で手首を押さえつけられる。
諌めるように更に深く舌を口の中に入れられた。
腹を殴られた苦しさから逃れようにも、口がエルマに塞がれてどこにも逃げ場がない。
絡まる女の舌を避けようとも、生き物のように蠢くソレは舌を絡め、歯の裏側をなぞり、唇を舐める。
息が、出来ない。
そうだ、鼻から息を吸えばーー。
うわ、すごい甘い匂いがする!!
高いシャンプー……?
いや、甘い花の蜜のような香りだ……。
脳みそを直接愛撫されるような感覚。
なるほど、これはラブシーンを書く時の良い経験にーー。
「……もう。ボクに集中して」
「ひっ!」
ねろり、じゅ。
耳穴にぼ、ぼぼ、じゅ、妙な音が響く。
ぞくっと身体が跳ねる。
耳を、舐めやがった!?
この女!! バカか!?
かと思えばまた顔を掴まれて、唇をーー。
「お口開けて、死んじゃうよ」
「死ぬの!? あっ」
唇をペロリと舐められる。
それが合図。
食べられるように唇を唇で噤まれ、そのまま、彼女の舌が口の中に。
エルマの舌が俺の口の中で動き回る。
目を瞑っていると、舌の感触や、極上の肢体の感触がよりダイレクトに伝わる。
目を開ける。
至近距離でこちらをじっと見つめる赤い目と目が合ってーー。
「もう、えっち。見ないで……」
「あ……」
じゅ、くちゅ……ごくん。
腹の痛みが消えた頃、ようやくエルマから解放された。
「ふう、ご馳走様……」
満足そうに自分の唇を人差し指でなぞるエルマ。
「……イカれ女め」
「ふふっ、怒らないでよ、パパ。でも、良かった。無痛薬のおかげかな? 脳みそは壊れてないようだね……」
「……後から俺、訴えるとかないよな? 美人局とか……」
「ふふ、可愛いね、ボクのあなた」
エルマが椅子に座り直し、ペロリと桜色の唇に舌をほんの少しだけ這わす。
まずい、舌の感触が口の中に残っている。
……ちくしょう、童貞をバカにしやがって。
「ふふ、これね、ファミリーのパンチとキスだよ」
「お前は本当に何を言ってるんだ」
やっぱコイツ頭がおかしい。
気付けば遠く空が白んでくる。
みるみるうちに空に、赤が差し、明るく。
「おっと名残惜しいが、もう朝だね。パパ。次の夜にまた植物園で」
「は? また? おい、待て、まさかお前、また夢に出てくるつもりか!?」
「当たり前じゃないか。家族にようこそ、パパ」
「お前……何、何がしたいんだ? なぜ、こんな真似を……」
「ううん? 言ったじゃないか。あなた《パパ》。ボクはもうすでに」
視界が朝日で埋め尽くされる。
最後に見えたのは、エルマの顔。
赤い瞳が昏く輝く。
白く透明な肌は朝日に照らされ透けてしまいそう。
豊かな胸にくびれた腰、理想的な肉体はマシュマロのように柔かく。
魔性。
それが笑って。
「君の事が大好きになってしまったからさ」
◇◇◇◇
◇2日目・友村友人 トアイラ世界樹林◇
「ヤバ女……が……」
「たぼ!! わふ!!」
「むご!」
生暖かく、やわらかい感触が顔を這い回る。
ふっ、ふっ、と聞こえる鼻息。
ぺちょっと冷たい水気のある冷たさ。
わんこが鼻先を俺の顔にくっつけ、ペロペロと顔を舐めまわしていた。
「……よお、おはよう、わんこ」
「わん!!」
くるくる回って、そのままお座りをする狼犬。
俺は、体をお越し、いつのまにか持っていた古ぼけた本を少し開く。
……この本が、ここにあるという事は。
あたりを見回す。
緑、大樹、小川。
うん、今日もしっかり異世界の森の中。
ログアウト出来ている様子もない。
清涼な朝の空気を思いきり吸いながら、頷く。
俺の異世界転移、やはり。
「……やっぱ夢じゃないか~」
「わん!!」
目が覚めても、異世界。
はい、2日目開始。
「ん?」
なんだ……やけに、身体が熱い……。
熱?
でも、不快感や倦怠感はない。
むしろ、身体が軽いような……
〜〜〜〜
イベント発生
"魔力の目覚め"
魔人による適切な魔力攻撃を受けた為ステータスに"魔力"が追加されました
〜〜〜〜
「……………えぇ」
「わんわん!」
……まあ、レシピ本もあるということは、あれも、夢じゃなかったのかあ……。
――あなた《パパ》
「最悪極まる……」
異世界生活2日目にして。
多分、不審者に目をつけられてしまった。
夢に出てくるタイプの。
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