第15話 二日目
奥多摩の朝、二日目だ。
昨日は、ちょっと飛んだだけ。それからすぐに帰った。
「では、二日目の練習をおこないます」
おれが声をかけたので、まるまって寝ている黒竜の目がひらいた。あいかわらず怖そうな赤い眼だ。
「んで、昨晩に説明したように、この社会では火の玉をはくと捕まっちゃいます」
ひと晩かけて、この世界のことを説明した。とにかく人を殺しちゃダメ。それをすると、また捕まっちゃうよと。あなたがいた自衛隊の基地みたいなところに閉じこめられちゃうよと。
『敵ハ、フタリデ倒ス』
黒竜はそう答えた。うんうん。こいつの理論だとそうなるよね。「
「人間って数が多いんです。一億とか。まず勝てないので、とにかくいまは、人を殺さないでください。あなたは逃げれても、おれが捕まっちゃいます」
納得はしていないようだったけど、言葉としては伝わった。
「くれぐれも、火をはかないでくださいね」
重要なので繰りかえし注意しておく。
『ヲ前モ、火ヲ使ウデハナイカ』
黒竜は、近くにある「たき火の跡」を見て言った。
たしかに。黒竜の気持ちもわかる。おれも子どものころに親父から「無駄づかいするな」とよく言われたが、それを言っている親父は酒を飲んでいた。
まあ、とにかく、火をはきたくなったらおれに聞いてくれとお願いした。
『ワカラヌ。コノ世界ガ、ワカラヌ』
そう黒竜はつぶやいた。この世界がわからないか。なんだか哲学的な問いだ。おれに答えられるわけもなく、
「ふたりで、がんばって生きていきましょう!」
とだけ答えた。
さて、そんな二日目。
今日の目標は、山のふもとまでおりること。親父とオカンにむけて手紙を書いた。あなたの息子は元気ですよと。
ここの住所を書いて親が見にきてもややこしい。住所は書かず「竜の適性試験に合格したので自衛隊の施設にいます」と伝えることにした。
もう一通、
小屋の引きだしにあった切手をはり、二通の手紙は軍用のリュックに入れた。
そのリュックを背負い、さあ出発。今日の目標は「ふもとの郵便ポストにいって帰る」だ。
「道なりに低空飛行でお願いします。赤いポストを見つけないといけないので」
おれの言葉がわかったのか、どうなのか。黒竜は面倒くさそうに黒くて大きな頭を地面につけた。「乗れ」という合図だ。
「さーせん、失礼します!」
よいしょと、首にまたがった。
「いてて!」
頭をあげられて、首の根もとまですべる。またケツをこすった。
ばさり、ばさり。ゆっくりと
「あの道です。あの道ぞいに!」
小屋の屋根を越えたあたりで、まっすぐのびる林道が見えた。
林道のほうへ指をさしたけど、おれがいるのは首の根もとだ。黒竜にはおれが差す指なんて見えない。
「面倒ダ。感覚ヲ共有スル」
「はっ?」
なに言ってんだおめ。そう思った瞬間だ。おれが座っている首もとの大きな
ズブズブとおれの足が鱗に沈んでいく。ウソだろ、おれと竜が合体してるぞ。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!」
おれの視界が変わった。なんだこりゃ。
下を見ると、小屋の屋根だ。小屋だけは黒い影としか見えない。
「おれの視界と、おまえの視界の同化か!」
竜は魔力を見る。けど人工物は見えない。この視界は、両方を同時に見ているということか!
『コレガ人間ノ眼カ』
黒竜も飛びながら周囲を見ているようだった。
そうか、前任者は早々と自殺した。この「感覚の共有」というのは、黒竜も初めてなのか。
『ヲ前ノ言ウ道トハアレダナ』
林道の一本道はアスファルトだ。つまり人工物。この視界で見ると、ただの黒い道だった。
「っていうか、おまえ!」
この視界で見る黒竜だ。魔力が見える世界での黒竜。きらっきらだ。なんかもう翼にしろ胴体にしろ、ダイヤモンドが光ってるみたいだった。
それに対して、自分の手を見てみる。なんていうか、ダイヤモンドにくらべたら水晶みたいな感じだ。ぜんぜん光ってない。
つまり「魔力」とは「生命力」みたいなものか。
『ユクゾ』
黒竜が風をうしろへかくように翼を動かし始めた。ちょっと平泳ぎの動きにもにている。
「うっお!」
極彩色の世界が流れていく。すごい速度で動いていく。
「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
ゲロった。カラフルな世界が動くことで視覚酔いした。おれのゲロにも少し生命力があるのか、ゲロはきらきら光りながらうしろへ流れた。
「すいません、黒竜さん。ゆっくりでお願いします。おれ落ちそうです」
目はまわるし、速いし、リュックからタオルは取りたいしだ。
『固定スル』
黒竜さん固定ってなんですか。そう聞くまえに、わかった。
またがるおれの足は、ゼリーようにやわらかい
「いってぇ!」
固くなったウロコで、チンコはさんだ!
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