地球まるごと異世界転移!~教習所にホウキ免許取りにいったらオレだけ適性が「大型特殊竜」ってなんすか?

代々木夜々一

第1話 異世界地球

 いつもの「高津たかつ」という駅。


 渋谷しぶやから二十分ぐらいの駅だけど、ホームに人は少ない。


 まあ、この「高津駅」は「田園都市線」のなかでも急行が停まらない駅だしね。


 おれはホームに立って、電車を待った。


「ポー!」


 という汽笛きてきが遠くから聞こえた。


 そうだ「電車」じゃねえや「汽車」だ。


 電気のあったころがなつかしい。


 そう、まだ電気というものが存在したあのころ。今から五年前か。おれは十三歳だったから、その時代の記憶もある。


 まさかねぇ、オカルト信者たちが言ってた「ハビタブルゾーン」とかいう宇宙のエネルギー帯。あれを地球が通過したら、別の宇宙にいっちゃうなんて、いったいだれが予想できたでしょうか。


 ホームの白線を見つめていたけど、おれは顔をあげ、青空を見た。


 南の空。太陽がある。それが二つも。


 青い太陽と赤い太陽。いまではおなじみの「二連太陽」だ。


 銀河系でもない、まったくちがう宇宙。いやそれこそ「宇宙」と言っていいのかすらわかんない別の世界。


 地球まるごと異世界にきちゃったわけだけど、まえにいた銀河系とくらべ、なにもかもが一夜にして変わってしまった。


 おぅ、そんなことを考えてたら、となりにサラリーマンのオッサンがきた。オッサン、懐中時計のネジをまわしてやがる。


 そうなのよね。「電気」というものがなくなって不便なんだよね。


「ああ? ドタキャンかよ。おめマジざけんなよ!」


 おおぅ、反対のとなりにヤンキーがきた。


 ヤンキーはコップをふたつ持っていた。片方は口もとにつけ、もう片方は耳だ。


 口と耳にあるふたつのコップは糸でつながっている。そう糸電話。よく見ればコップは紙コップじゃない。陶器のコップで、幾何学模様きかがくもようがえがかれている。


 魔導具だ。魔導具のケータイ。うわさには聞いてたけど、もう発売されたんだ。


 日本が世界にほこる魔導具。日本人のおれにとって、日本のすぐれた魔導具を見るのはいい気分だ。


 地球がまるごと異世界にきたのが五年前。その一年後だ。あの有名な「奇跡の大合併」がおきた。


 豊田自動車と三菱電機。ふたつの大会社が合併し「トヨビシ魔導器具株式会社」ができた。


「こういうことができないから、日産はダメなんだよ」


 ってなセリフを、おとなたちが言ってたおぼえがある。


 そしてさすがというべきか、トヨビシに何千人もいる研究者たちが総力をあげて、この世界の物理法則をかした。


 たったの四年で、トヨビシは「電気」にかわる「魔力」というエネルギー法則を見つけ、魔導器具を製造、そして販売している。


 おれの左にヤンキーがいて、右にはサラリーマンのオッサンだ。ケータイ糸電話を見るオッサンの目が、めっちゃうらやましそうな目つき。


 気持ちわかるわぁ。魔導具ってバカみたいに高いから。


「ヤマトくん!」


 おれの名が呼ばれた気がした。いや、気のせいだろう。おれ友達少ねえし。


 同級生だったとしたら、きっと呼ぶときは「黒崎くん」とか名字だろうし。


 黒崎くろさき大和やまとがおれの名前。イニシャルはKY。おかげでおれのあだ名は「空気K読めないYヤマトくん」だ!


「ヤマトくん!」


 いや、おれだ。だれだ下の名前で呼ぶやつは。


 ふり返って、おどろいた。


「おお、愛川あいかわ萌瑠める!」


 おれの幼馴染おさななじみ。たしかに、この子なら「ヤマトくん」と下の名前で呼ぶね。


 この子がとなりの家だったことが、おれの人生でゆいいつ運がいいところ。そのほかおれは運がない。


 スポーツが人よりできるでもない、成績はクラスで半分より下。そんなおれがほこれるただ一点、かわいい子がとなりに住んでた。これがあればいいもんね。おれ勝ち組!


「ねぇねぇ、メルル~♡」


 ふふっ、メルルって呼んじゃうぜ。


「ヤ、ヤマトくん、鼻の下がのびて顔が変だよ」


 おっと、したしき仲にも礼儀あり。気持ち悪がられてはいけない。


「メル、偶然だな。汽車でどっかいくの?」

「うん、教習所に。黒崎くんは?」

「教習所、マジで?」

「うん。いまマジカルカーペットの教習中でね」


 おお、さすがメルル。空飛ぶ絨毯じゅうたんですか!


「おれも、今日からホウキ!」


 通称「魔付まつき」と呼ばれる「魔導器付きホウキ」の教習へ、おれはまさに今日から申し込みにいくところだ。


 これはあれだ、今日から「かわいい幼馴染といっしょに教習所」という夢の生活がスタートするぞ!


「ヤマトくん、一番かんたんなホウキの免許取るの?」

「そう、就職活動に必要だから。なるべく手っ取り早くね」

「あっ、退学になったから?」

「うぃ。親父に働けって言われてさ」

「すごい、えらいね、ヤマトくん!」

「いや、これからお金かかりそうだし?」

「あっ!」


 メルがなにかを思いだした顔をした。


「ごめん、わたし無神経だ」


 メルがうつむいた。深刻そうな顔をしている。そんな顔のメルルもかわいいけど。


「ヤマトくん、退学になって、さらに裁判なんて、あんまりだよね」


 泣きそうなメルとは対照的に「ポー!」と元気な汽笛を鳴らして、ホームへ汽車が入ってきた。

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