地球まるごと異世界転移!~教習所にホウキ免許取りにいったらオレだけ適性が「大型特殊竜」ってなんすか?
代々木夜々一
第1話 異世界地球
いつもの「
まあ、この「高津駅」は「田園都市線」のなかでも急行が停まらない駅だしね。
おれはホームに立って、電車を待った。
「ポー!」
という
そうだ「電車」じゃねえや「汽車」だ。
電気のあったころがなつかしい。
そう、まだ電気というものが存在したあのころ。今から五年前か。おれは十三歳だったから、その時代の記憶もある。
まさかねぇ、オカルト信者たちが言ってた「ハビタブルゾーン」とかいう宇宙のエネルギー帯。あれを地球が通過したら、別の宇宙にいっちゃうなんて、いったいだれが予想できたでしょうか。
ホームの白線を見つめていたけど、おれは顔をあげ、青空を見た。
南の空。太陽がある。それが二つも。
青い太陽と赤い太陽。いまではおなじみの「二連太陽」だ。
銀河系でもない、まったくちがう宇宙。いやそれこそ「宇宙」と言っていいのかすらわかんない別の世界。
地球まるごと異世界にきちゃったわけだけど、まえにいた銀河系とくらべ、なにもかもが一夜にして変わってしまった。
おぅ、そんなことを考えてたら、となりにサラリーマンのオッサンがきた。オッサン、懐中時計のネジをまわしてやがる。
そうなのよね。「電気」というものがなくなって不便なんだよね。
「ああ? ドタキャンかよ。おめマジざけんなよ!」
おおぅ、反対のとなりにヤンキーがきた。
ヤンキーはコップをふたつ持っていた。片方は口もとにつけ、もう片方は耳だ。
口と耳にあるふたつのコップは糸でつながっている。そう糸電話。よく見ればコップは紙コップじゃない。陶器のコップで、
魔導具だ。魔導具のケータイ。うわさには聞いてたけど、もう発売されたんだ。
日本が世界にほこる魔導具。日本人のおれにとって、日本のすぐれた魔導具を見るのはいい気分だ。
地球がまるごと異世界にきたのが五年前。その一年後だ。あの有名な「奇跡の大合併」がおきた。
豊田自動車と三菱電機。ふたつの大会社が合併し「トヨビシ魔導器具株式会社」ができた。
「こういうことができないから、日産はダメなんだよ」
ってなセリフを、おとなたちが言ってたおぼえがある。
そしてさすがというべきか、トヨビシに何千人もいる研究者たちが総力をあげて、この世界の物理法則を
たったの四年で、トヨビシは「電気」にかわる「魔力」というエネルギー法則を見つけ、魔導器具を製造、そして販売している。
おれの左にヤンキーがいて、右にはサラリーマンのオッサンだ。ケータイ糸電話を見るオッサンの目が、めっちゃうらやましそうな目つき。
気持ちわかるわぁ。魔導具ってバカみたいに高いから。
「ヤマトくん!」
おれの名が呼ばれた気がした。いや、気のせいだろう。おれ友達少ねえし。
同級生だったとしたら、きっと呼ぶときは「黒崎くん」とか名字だろうし。
「ヤマトくん!」
いや、おれだ。だれだ下の名前で呼ぶやつは。
ふり返って、おどろいた。
「おお、
おれの
この子がとなりの家だったことが、おれの人生でゆいいつ運がいいところ。そのほかおれは運がない。
スポーツが人よりできるでもない、成績はクラスで半分より下。そんなおれがほこれるただ一点、かわいい子がとなりに住んでた。これがあればいいもんね。おれ勝ち組!
「ねぇねぇ、メルル~♡」
ふふっ、メルルって呼んじゃうぜ。
「ヤ、ヤマトくん、鼻の下がのびて顔が変だよ」
おっと、
「メル、偶然だな。汽車でどっかいくの?」
「うん、教習所に。黒崎くんは?」
「教習所、マジで?」
「うん。いまマジカルカーペットの教習中でね」
おお、さすがメルル。空飛ぶ
「おれも、今日からホウキ!」
通称「
これはあれだ、今日から「かわいい幼馴染といっしょに教習所」という夢の生活がスタートするぞ!
「ヤマトくん、一番かんたんなホウキの免許取るの?」
「そう、就職活動に必要だから。なるべく手っ取り早くね」
「あっ、退学になったから?」
「うぃ。親父に働けって言われてさ」
「すごい、えらいね、ヤマトくん!」
「いや、これからお金かかりそうだし?」
「あっ!」
メルがなにかを思いだした顔をした。
「ごめん、わたし無神経だ」
メルがうつむいた。深刻そうな顔をしている。そんな顔のメルルもかわいいけど。
「ヤマトくん、退学になって、さらに裁判なんて、あんまりだよね」
泣きそうなメルとは対照的に「ポー!」と元気な汽笛を鳴らして、ホームへ汽車が入ってきた。
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