七、友人と愚痴吐き会なう
とりあえず、七月最終週の時点で、持ち駒は三つだ。今日面接のヤマベスーパー、それに運良くオルガンジョーズ。あんな志望動機でよく受かったものだと、嬉しい反面、どこか納得のいかないふしがあった。一緒に面接した太田が「面白かった」と言っていたから、もしかしたら面接をした佐藤氏も同じ考えだったのかもしれない。そして、一番合格して理解に苦しんだのが、テビロークだった。はっきり言って、グループディスカッションではまともに発言していない。声を上げた箇所といえば、発言権を無視して一喝されたところだけだ。これでなぜ合格する? 父に相談したら、「選んだ人間じゃないから、わかるわけないだろ」とこれまた冷たくあしらわれた。
就活とほぼ同時に家に転がりこんできた稲森は、やっと自分のアパートに戻った。それでもつぶやきやSNSで繋がったので、近況を知ることができる。夏休みは遊びまくるのかと思いきや、実家の新潟にずっと戻っているらしい。まだ河野が恐いのだろうか。
持ち駒は少ないが、秋になったらまた採用シーズンが始まる。そしたら増やすことにしよう。三つとも全て内定がもらえればベストだが、特にオルガンジョーズは落とせない。コピーライター職なのは、ここだけなのだ。オルガンジョーズが落ちた時点で、明はコピーライターへの夢をあきらめなくてはならなかった。
今週は忙しい。今日はヤマベスーパー、明日はテビローク。一日空けて、オルガンジョーズだ。
暑い中、今日もリクルートスーツを着て外出しなければならない。もちろん背広は会社前まで着ないが、結構これが荷物になる。「就活生にもクールビズを!」と、どこかの政党が訴えてくれないだろうか。水色の薄手のハンカチは、すでに汗で湿って透きとおっている。焼けたアスファルトの上、革靴の裏のゴムが溶けるのではないかと不安だったが、無事にヤマベスーパー本社にたどり着いた。
前回と同じように、入り口に置かれたイスに座って、呼ばれるのを待つ。腕時計を見る。予定の時刻を三分ほど過ぎて、明は案内された。
「失礼します」
通されたのは、前回の会議室ではなく、社長室と書かれた札のついた部屋だった。社長と会うことをたった今知り、急に心拍数が上がった。これから会う人が、ヤマベスーパーの社長か。ということは、これが実質的に最終面接。これさえ乗り切れば、内定が確定だ。
「根武大学法学部法学科、田口明です。本日は宜しくお願い致します」
初めての面接のときと同じように、挨拶をして、座ってもいいという合図を聞くまで待つ。山辺社長は六十代くらいだろうか。白髪だが、毛はふさふさとしており、オールバックにしている。立ちっぱなしの明に、手で席に着くよう指示した。
「えー、田口くんね。君、住まいはこの近くなんだ」
「はい。小さい頃からヤマベさんにはお世話になっています」
照れて笑うと、社長も微笑んだ。好印象だ。
「どんな点で、うちを志望したの? そこんとこはっきりしとかないとね」
物腰柔らかだが、頑固な面が言葉の端に見え隠れする。彼の一言で、自分がここまで頑張ってきたものが消える。明は背筋を伸ばして、山辺社長の目を見据えた。
「履歴書では店内のレイアウトに興味があると書きましたが、それ以外にも理由があります。小さい頃から慣れ親しんだこの御社の強みは、地域密着性だと私は思います。近年では、お年寄りが一人で暮らしている家も多くあります。そこで、お客様と店員の距離を近くして、お年寄りが買い物をしやすい環境を作りたいと思いました。そういった環境作りは、社会への貢献へと繋がります。私は御社の店舗に育ててもらいました。ですから、今度は私が恩返しをしたいのです」
大きいことを言っているようで、内容はあまりない。でも、そこは必死な表情でカバーだ。演技をしてでも内定をもらいたい。
山辺社長はうんうんとうなずくだけだ。この間のピアニカクラフトの黒ぶちメガネも、よくわからなかったが、山辺長も何を考えているのかわからない。
「もしね、君に内定が出たら、来る?」
間髪入れずに答える。ここで躊躇してはいけない。
「ご期待に添えるよう、精一杯頑張ります!」
「じゃ、結果は追って連絡するから。お疲れさん」
「はい、本日はありがとうございました!」
立ち上がって、最敬礼。内定をちらつかされても、落ち着け。相手は海千山千の社長だ。結果は最後までわからないのだ。
昨日はひとつの物事を最後まで何とかやりきったという充実感で、胸がいっぱいだった。だが、気持ちはすぐに切り替えねばならない。今日はテビロークの筆記と面接だ。昨日の面接よりも、緊張している。オルガンジョーズの初めての面接ほどではないが、胃が痛む。何より、前回のグループディスカッションで好き放題しすぎた。
東京の、コンクリートジャングルの中のひとつに身を潜め、エレベーターで受付階まで行く。名前と学校名を告げると、前回グループディスカッションを行なった場所と同じところへ案内された。
もうすでに何人か到着していたが、用意されていた席は九つ。前回のグループディスカッションが、六人一組で三グループあったから、十八人。半分に減らされたのか。そして、なぜその半分の中に自分がいるのだ。ともかく席につく。最初は筆記試験のようだ。周りを見渡すと、前回同じグループで、書記をやっていた女子と、発表者をにらみつけていた男子学生がいた。二人に突き刺すような目で見つめられているような気がして、胃痛が激しくなった。
時間になり、試験官が入室して試験問題を配る。時間は九十分らしい。その間、同時進行で面接が行なわれるらしい。試験開始の合図とともに、一斉に紙をめくる。問題はSPIでもなさそうだ。簡単な算数と英語、漢字と時事問題だ。怪しい箇所はあるが、難しくはない。
三十分経過した頃だろうか。明の名前が呼ばれ、荷物は置いたまま、応接室に向った。
ノックして「失礼します」と挨拶したあと、ドアを開けると、先日明を一喝した男性がいた。
筆記が思いのほか難しくなかったので、気が緩んでいたところ、背中に氷を入れられたような気分だ。名前を告げると座るように指示されたので、ソファーに背筋を伸ばしたまま静かに腰を下ろす。
「田口くん、先日はどうも」
すっかり覚えられてしまったようだ。それでも柔らかな笑みを浮かべている。あんな無礼な発言をしたのに、好意的に接してくれるところをみると、テビロークの人事は懐も深そうだ。安心すると、自然に胃痛が引いていった。
「正直、本日こうやってお目にかかることができるなんて、思いませんでした」
素直に言うと、人事の男性は声を出して笑った。だが、すぐに笑いを止め、質問に移す。やはりプロだ。こちらにも軽い緊張がはしる。
「では、弊社への志望動機をお聞かせください」
「はい」と返事をすると、一呼吸おいて話し始める。面接も何度か体験して、少し慣れてきた気がする。
「貴社はSP会社という特性から、様々な人との出会いを経験できるところであると思います。クライアント企業はもちろん、制作会社やイベントを行なう場所には、色々な職種の方がいらっしゃいます。そういった方々と話し合い、ひとつのものを作り上げることで、多種多様なものの見方ができるようになり、人間的にも成長できると思います。私は、御社で働く皆様のように、他人を認め、高めあえるような懐の広い人間になりたいと思い、志望致しました」
後半はアドリブだった。テビロークの人事の懐の深さに、感銘を受けすぎた。弱っているときに向けられる優しい笑顔ほど、人の心をわしづかみにするものはない。
「それでは、結果は電話、若しくはメールでお知らせします。続いて筆記も頑張ってください」
「ありがとうございました」
実質十分もかからなかっただろうか。頭を下げると、また元の会議室に戻り、問題を必死に解いた。
連絡が来ない。ヤマベスーパー辺り、連絡が来てもおかしくないはずだ。早ければ、テビロークも来るはずだ。
バイトや就活で外出していないと、携帯やパソコンが気になってしょうがない。気がおかしくなりそうだ。これでは蛇の生殺しだ。何も手につかない。今日何十回目かわからないメールチェックをする。新着、一件。
「きた」
思わず声が出る。メールを開くと、ヤマベスーパーからだった。明は言葉を失った。いけると思った。社長からも内定をちらつかされた。それに踊らされないようにと頭でわかっていても、心の奥ではもらったと高を括っていた。とんだ誤算だ。
夕飯を終え、再度メールチェックをする。悪い報告は連続では来ないだろう。それに、テビロークの面接は、昨日だった。面接だけじゃない。筆記もあった。お祈りメールがくるとしても、明日だ。自分に言い聞かせて、ブラウザを開く。新着メールが、ある。こんな早く結果が出るわけがないと思いながら、クリックする。
「嘘だろ……」
今日は厄日だろうか。テビロークからもまさかのお祈りメールだ。
誰もいない部屋で、自分を責める。明日のオルガンジョーズが最後の持ち駒だ。しかも、明日で終わるとは限らない。涙で、就活レースのゴールが見えない。あと数メートルだと思ってラストスパートをかけたら、「残り百キロです」と横から言われた気分だ。楽しく、最後まで走りきる。それさえもできなくなってしまうんじゃないかと不安になる。
また、夜に逆戻りだ。
帰ってきた父に、就活状況を報告する。持ち駒ひとつ。以上だ。父は自分でほっけを焼いて食べていた。香ばしいにおいがする。いつもなら、一口わけてくれと言っている場面だが、今日はそんな気も起きなかった。
「オルガンジョーズでコピーライター職に就けなかったら、秋採用に賭けるしかないな」
「ずいぶん不満気だな。お前は何だ? 肩書きが欲しいのか?」
箸を休め、明に向き合う。アドバイスはできないと最初に宣言した父だったが、話は聞いてくれている。冷徹な宇宙人である父だったが、ちゃんと息子のことを考えてくれていた。それだけでも感謝の気持ちでいっぱいだ。
明は投げかけられた質問を正面から受け止め、もう一度ゼロから考えてみた。なぜ、コピーライターになりたいと思ったのか。養成講座に通ったから? 忍者専門学校で校長秘書をやっている酒田のため? 夢を逃げ場にして、就職から逃げている? 全部違う。ただ頭にあるのは、高校のときに見た佐伯の姿だ。緑の髪に、黄色いTシャツ。照明も、客席の視線も独り占めで、こぶしを震わせていた、あの熱い男。
「……コピーライターじゃなくても、よかったのか?」
仕事はロマン。別に広告だけが仕事じゃない。ロマンはどこにでも転がっているじゃないか!
「飲むか? 少しなら、いけるだろ」
父が冷蔵庫から缶ビールを二本、取り出してきた。稲森と飲む用に買いだめしておいたものの残りだろう。明は受け取ると、ごくごくと音を立てて豪快に飲んだ。
「あーっ」
小さくつぶやくと、父がにやりと笑った。二人で飲むのは、成人式以来だ。
今日も暑い。大門駅からオルガンジョーズまでの道のり、「ここの道を毎日通るようになれればいいのに」と思った。今日のこの面接で落ちれば、コピーライターの夢はなくなる。なくなっても、ロマン溢れる仕事はある。けれども、またそれを一から探すのは大変だ。
途中の自販機で、今日はブラックのアイスコーヒーを買う。苦味で刺激を与え、脳内を活性化させようと努力する。本当は糖分を取るべきなのだろうが、飲んだあと、口の中が甘ったるくて余計に水が欲しくなってしまう。
オルガンジョーズは元から偶然受かったようなところだ。期待しちゃいけない。でも、ベストは尽くす。強気になりすぎるな。かといって、弱気にもなるな。フラットな状態で臨もう。そうすれば、おのずと結果はついてくる。
ミーティングルームで待っていると、また太田と再会した。
「お、久しぶり!」
相変わらず、軽快な口調で話しかけてくる太田に、明はまぶしさを感じずには入られなかった。だけど、自分も一次面接を突破した人間だ。卑屈に思うところなんて、ない。
自分も多少胡散臭いが、笑顔で挨拶した。
「次も二人で面接かな。ちょっと緊張するね」
「うーん、比べる対象がいると、やりやすいのかもな。こっちは困るけど」
後半の部分は小声だった。太田は携帯をいじって、今度は電源をオフにした。
「職種が違うからさ、お互い受かるかもしれないし。そうなったら頑張ろうな!」
白い歯を見せて言うと、ドアをノックする音が聞こえた。
面接官は今日も佐藤氏だった。挨拶して席につく。この間のような緊張感は全くなかった。ざっくばらんな性格の太田が一緒だからだろうか。彼は携帯ばっかりいじっているという点を除けば、明るいタイプで、嫌味がない、好感が持てる人間だった。
「二人とも暑いよね、スーツ。俺はポロシャツだけどさ」
「いや、でも外ではさすがに脱いでますよ。三十五度を軽く超えてますから」
すかさず太田がリアクションを取る。明もそれに同調して、うなずく。
「ま、ともかく来てくれてありがとう。今日は弊社に入社できたら、どんな仕事をやりたいかを聞こうかな。この間は太田くんからだったから、今度は田口くんからで」
「はい」
返事をすると、気分を楽にして、自分の思っていることを素直にぶつけた。
「私は高校のときから憧れている人物がいます。その方もコピーライターで、渋谷や新宿をジャックするほどの大きなプロジェクトに関わったりしていました。私はそこまで大きな仕事をやるには、まだ経験もありませんし、勉強不足です。なので、御社に入社しましたら、まずは広告という仕事の基礎をしっかり固めるために、先輩や社員の皆さんからたくさんのものを吸収していきたいと思います。そして、それができるようになったら、テレビコマーシャルやネットと連動した企画を練っていきたいと思います」
少し抽象的だっただろうか。佐藤氏は「そう」と一言だけつぶやき、太田の方を向いた。
「太田くんは?」
「そうですね。私は人が喜ぶ仕事をしたいです。コピーライターのように、モノを作る仕事ではありませんが、自社の商品……この場合、デザインだったりキャッチコピーだったりしますが、それを売ることで、製品も売れ、経済効果が期待できると思います。製品が売れるということは、クライアントも嬉しいですし、間接的に自分が関わったことによって売れたと、結果が残ります。私自身にもその喜びが返ってくるので、そうなったら嬉しいなと思いますね」
にこにこと笑みを絶やさず話す太田は、聞いているこちらも気分がよくなる答えを返した。表面的にきれいな言葉を並べることはたやすいかもしれないが、彼の場合、それが本気に見える。
佐藤氏にちらりと目をやると、平静を装ってはいるが、機嫌がよく見えた。
面接が終わると、また浜松町まで一緒に帰ることになった。
「いやー、今日も面白かった! 人と会うっていいよな」
「太田くんはすごいよな。きっと君は受かるよ」
ははは、と大声で笑うと、彼は携帯を出した。彼といえば携帯。特段気にはしなかった。
「あのさ、携帯」
「へ?」
太田は明にも携帯を出すように促した。言われるがままに取り出し、番号を交換する。
「この間、訊くの忘れてたからさ。あとつぶやきとかやってたら、教えて! 田口くん結構面白そうなやつだからさ」
面白そう。普段は地味でどちらかと言えば暗い自分が、面白い。明は照れた。同年代の同性に、ここまで無条件に褒められるとこそばゆい。今時こんなストレートに自分の思ったことを伝える人間がいることに、驚いた。
そっちの方が、面白い人間だよ。
内心そう思ったが、声には出さず、駅で何事もなかったかのように別れた。オルガンジョーズに受かれば、また彼に会えるかもしれない。落ちたらもう、二度と会うこともないだろう。彼のような人間と、仕事がしたい。
就活を始めてから、初めて「こいつと一緒に仕事がしたい」と思えるような人間と出会えて、明は高揚した。
「でも、自分が落ちちまったら、意味ねぇよなぁ……」
松木はアイスココアの生クリームをストローですくい、溜息をついた。
明は結局、オルガンジョーズも落ちて、とうとう持ち駒はゼロになった。コピーライターの夢は水の泡と消え、今日は秋採用に向けての愚痴吐き会を、松木と一緒に学校の近くの喫茶店で開いていた。
「俺も大体、二次面接辺りで消えるな。最終まで行ったのも一つあるけど、なんでかはねられた」
「自己PRと志望動機は要見直しだよなー。ここの軸がブレてると、すぐバレる」
明はメモ帳に『自己PR、志望動機』と大きく書き、丸で囲んだ。
「だけどさ、自己PRはともかく、何社も受けるのに、志望動機なんていちいち考えられないよな。『ここの会社じゃなきゃ嫌なんです!』って強い思いがあればいいけど、俺にはないんだもん」
生クリームを食べ終わったあとは、ココアをストローでかき混ぜる。
志望動機がなければ、採用のものさしがなくなる。学生がどれだけ自分の企業に入りたいかを熱烈に語ってくれないと、人事も困る。だが、「会社についての印象」よりも「業界・業種についての希望」についての方が書きやすいというのが本音だ。
「ところで、今も感じてるのか?」
「何を」
アイスコーヒーを吸うのを止め、松木の目を見る。彼は「忘れたのかよ」と半分笑いながら、明が言った台詞を再現してみせた。
「『新卒で就活できるのは最初で最後だ。がちがちに不安がってちゃ、面白いことが見つからない』だっけ。まだ面白いって思えてるか?」
コーヒーの海にストローをぐりんと一周させると、明は空を見つめた。しばらくの間、店内に流れるジャズと、夏の奥様たちの声しか聞こえなかった。
「……きついときは、やっぱり面白いなんて思う余裕はなかった。けど、全部ひっくるめたら、やっぱり面白いのかもしれない」
「は?」
「『就活でのた打ち回る自分』ってのがさ」
松木は頭に大きなクエスチョンマークをつけた。
「とうとういかれたか?」
「まさか」
目を伏せ、メモを再度見る。先ほどまで松木と言い合った話の内容を書き留めてあるのだ。
・ 自己PRの引き出しを増やす→書く用と、面接で喋る用を作る
・ 志望動機は具体的に→将来のビジョンを明確に
・ 筆記は百パーセント落ちないように勉強
まだ考える余地はありそうだ。夢をあきらめたと言っても、秋採用は待ってくれない。八月にだって求人はある。次に向けて準備しなくてはならないのだ。
「それより、さっきの太田ってやつは三次、受かったの?」
「今日辺り結果が出るって言ってたな。受かったらつぶやきにでも投稿するんじゃないか?」
そう言って、携帯を操作する。タイムラインを見ると、『内定ゲット! 来年から東京タワーの近くで働く!』と、浮かれたつぶやきが表示されていた。それを見た明は、二回しか会ったことのない人間だというのに、なぜだか嬉しくなった。ただ、自分が一緒に働けないことを考えると寂しくも感じる。あやふやな感情に戸惑いながら、松木に携帯を見せた。
「受かったらしい」
「どれ、見せて」
松木はつぶやきに参加していない。相変わらず面倒くさいことは嫌いらしい。明の携帯を手にした松木は、目を見開いた。
「おい! お前、そんなことより大変だぞ?」
「何が?」
松木は明の携帯の画面を指さした。つぶやきのタイムラインが表示されている。彼が指さしたのは、太田の投稿の下。
『人手足りないんで、社員募集します。とりあえず、つぶやきフォロワー数、五百人以上ってことにしようかな。相互フォロー禁止。職務内容は、便利屋。面白いやつ、待ってます』
投稿者名を確認する『M_SAEKI』。佐伯勝。
なんでこの人は、情熱の炎をいともたやすく自分にうつしてしまうのか。
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