25 ガパオライス
「ハルトルクの城で聞いた話では、もうマロスの砂漠に向かったような話じゃなかったか?」
「いや、いまは砂嵐が一年でいちばん激しい季節だ。しばらく逗留してもおかしくない」
ジュリアスは考え込んでいる。ターニアが首を傾げる。
「じゃあなんで街道や宿屋で見つからなかったのかしら」
「あの武器をそろえにきた荒くれ者たちなら、裏山に長いこと天幕を張っていましたよ」
小僧さんがそう言い、ギルド長が頷く。
小僧さんの案内で裏山に連れていってもらった。
裏山、と呼ばれていたのは、金属を取り出した鉱石の残骸を捨てている山だった。その陰には確かに野営した痕跡があったが、おそらく今朝にはすべて片付けて出ていったのでは、と思われた。
「ジュリアス、もしかしたらラケル姫を救い出せば、よろいも戻ってくるかもしれないぞ」
「あのよろいなしでどうやってラケル姫を救い出せばいいのだ」
「いますぐお体に合わせたよろいを仕立てましょう。石火矢の弾もはじくよろいです」
ギルド長に提案され、大至急でよろいを用意することになった。
本当によろいは一瞬でできた。体に合うパーツを選んで組み立てるだけだからだ。
「本当にこれで石火矢の弾をはじけるのか?」
「もちろんです。我が金属加工ギルドのよろいは全世界で用いられております。我々もあの金のよろいが失われたことは大変惜しいと思っているのです。取り戻せることを祈っております」
「ありがとう。――よし、イルデルベルトに戻ろう」
一同は、また飛行艇に乗り込んだ。
飛行艇でイルデルベルト方面に向かう道中、ジュリアスはずっと爪を噛んでいた。
「あんまり爪を噛むな。肉まで噛んだら痛いだろう」
「しかしこうでもしていないと落ち着かない。ええい、酒を持て、酒を」
「お前は下戸だろう」
「全て忘れて気絶していないと精神が持たない。ああ……どうしよう」
「ちょっと待ってね」
ターニアがジュリアスの横に座り、背中に手を触れた。
「ゆっくり息をして。大丈夫、怖いことはなんにもない」
ターニアの手のひらが、蛍のようにゆっくり点滅する。ジュリアスの怯えていた顔は、少しずつだが穏やかさを取り戻していった。
「すごいな、『慈愛』のタレントは。精神の不調にも効くのか」
カイルは自分も、恐ろしい夢を見たときに治してもらったことを思い出した。
そして、ジュリアスが癒されているのが羨ましく思えた。
ジュリアスはこてんと寝てしまった。カイルは頭をポリポリして、きょうの夕飯のメニューを考える。
なにかジュリアスの好きなものを作ってやりたい。
しかしここまで旅をしてきて、ジュリアスの好物を貝のフライ以外特に知らないことに気付いた。ターニアも然り、だ。
あくまで自分本位だったのだな、とカイルは反省する。
そりゃもう、見世物小屋の人語を解するサルみたいに反省する。
反省したところでなんにもならんな、とターニアに夕飯はなにがいいか尋ねると、なんでもいいと言われてしまった。
腕の半端な料理人としては、「なんでもいい」というオーダーがいちばん困るオーダーだ。
ふつうのおかみさんの作る日常の料理なら、それこそ肉野菜炒めみたいな簡単なものをぱっと作って出せば済む。しかしそれはカイルの料理人根性が許さない。
カイルの料理はだいたいイルデ風なので、たまに異国風のものを作ってみようとウサギゴメに炒めたひき肉と目玉焼きを乗せたプレートを考えたが、沸騰する温度が低いのではウサギゴメは炊けない。どうしたものだろう。
あんまり悩んでいては夕飯に間に合わなくなる。飛行艇の台所を探してみたら圧力鍋とやらが出てきた。よく分からないが理屈をちょっと考えてみる。
要するに高いところを飛んでいるので、空気の圧力が足りないのだ。だからすぐ水から蒸気が逃げていく、つまり低い温度で沸騰する。
圧力を加えて料理できるならイケるのではないか。ウサギゴメを計って圧力鍋に入れ、水でよく研いで、適量の水を加えて圧力をかけ、火にかける。
コメが炊ける前に、ひき肉を炒める。たっぷりハーブを加え、スパイスも加える。ひき肉を炒めた鍋からひき肉を器に移して、目玉焼きを作る。
ジュリアスがやっと起きてきた。
「なんだかいい匂いがするな」
「夕飯は異国風だ。初挑戦だが味見する限りうまいはずだ」
ちょうどコメが炊けるころだ。開けてみるとふんわりと炊きあがっていた。
皿に盛りつけ、炒めたひき肉と目玉焼きを乗せる。ぱらぱらとハーブを散らしてできあがりだ。
「おお、なんというかエキゾチックな料理だ」
「へえ、こういうのも作れるんだ」
「俺は怪力料理人だからな」
「怪力って関係なくない?」
みんなで食事する。うまい。幸せだ。
飛行艇はノキエス山脈を越えて、イルデルベルトが目前に迫っていた。
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