【黎明】の魔法使いと、夜明けの無いセカイ──朝が嫌いな異世界人が"何故"か救世主に……

ななつき

第0話 社畜、異世界転生

 一般的青年、鈴宮志津(すずみや しず)は朝が嫌いだ。それゆえほぼ毎朝、来訪を恐れながら眠りを謳歌するのだ。


「ピ、ピ、ピ、ピピピピピピピピピピピ……ピ!」


 嗚呼残念。恐れていた鐘の音が鳴り響く。


 普遍的一般社会人25歳鈴宮志津(社畜)は死ぬ程嫌な顔をしながら目を覚まして、そしてナレーションを読むかの如く淡々と言葉を心の中で書き出していくのだ。


 ……本当に、朝というのは何故来るのだろうか?特に頼んだ覚えもないのに、毎日毎日わざわざ嫌がらせかってレベルでやって来るあたり、きっと朝を擬人化したら死ぬ程性格の悪いチンピラみたいな奴だと僕は思う。


「全く反吐が出る。やっぱさ、朝とか無くなっても良いんじゃないかな?」


 そんな事を僕はぼやきながら家の鍵を閉める。ちなみに朝ごはんは栄養満点のゼリーひとつ。自炊などしている訳もなく、そして食べる時間すら無い。


 季節は冬。そして空模様は生憎の雪。───即ち地獄。


(全くさあ、会社ってのはすっげえ馬鹿だよな。朝っぱらから仕事なんて社員の離職率を上げるだけだってのにさ!)


 僕は白く染まった吐息を掻き消しながら駅までの道を歩く。


「っと!?あーぶねぇ!?」


 一瞬気を抜いた僕は雪に殺されかけた。やはり朝は雪が怖さを増す時間帯だ。


(凍りついてカッチカチの雪なんて需要何処にもないだろマジでさ!)


 呪詛の言葉を吐きながら僕は再び駅を目指して歩き出した。


(はー、朝っぱらから仕事するメリットis何処?絶対嫌がらせだろ!)

(だいたい社会人になってから12月がカスに思えて仕方ないんだが?何だよ年末調整って!国がやってくれよ!)


 寒すぎて口を開きたくない僕は内心死ぬ程愚痴を零しながら駅の改札に差しかかる。辺りには既に死んだ目をした同じ様な社会人が溢れかえっていた。


(ぐうう、やっぱり地獄はここからなんだよなぁっ……)


 そうして僕は、人の波に飲み込まれながらエスカレーター方式で狭苦しい電車牢獄の中に押し込まれた。


(暑い。クソ、理不尽だ!寒いからみんな防寒着を着て、駅側も善意で暖房オン。……その結果地獄が始まるのはなんだ、人間の業か?)


 ぎゅうぎゅうに押し付けられ、でも手だけはなるべく上に挙げながら僕は心の中で叫んだ。ちなみに手を上に挙げないと最悪の場合痴漢扱いされるのである。


(は〜クソクソ。 咳とかこっち向いてすんじゃねぇよ!ジジイ!)

(ってかまだか、まだなのか!?───後3駅、ああ死ぬう゛)


 暫しの地獄を経て僕は漸く解放された。が、そこから先もまた仕事という名の地獄が待ち伏せているので、結局お終いである。


(早く辞めたい。この仕事、辞めたい。夜に仕事したい)


 そう思いはするのだが、いざ就活をしようとしても面倒くささが勝ってしまっているこの5年間なのである。


(ま、今日は夜から推しのVTuberの箱企画がありますからね。そこまでひたすら耐えの時間って訳)


 気合いを入れるために、コーヒーのブラックを自販機で買い、それを飲み干しながら僕は地獄に向けて歩き出した。


「ドンと来い地獄仕事!僕は負けねぇからな!!」

「───鈴宮さん、会社の前で叫ばないでくださいね」


 ……見られてた。泣きたい。


 冷徹な目で僕は専務の女性に睨まれた。すごすごと僕は方を落としすくめ、そうしていつものように首に掛けた会社のタイムカードをタッチするのであった。


 ***


(……あれ?僕は……えっと?)


 ふと、気が付くと僕は変な場所にいた。

 そこはよく見なくても違和感ばかりを感じる空間であった。具体的に言うならば、完結しない夢の中みたいな?


(寝てしまったのか僕。 いや待てよ───確か……僕は、仕事中に倒れ………………)


『おお、見つけたぞ死んでしもうた哀れな魂よ』


 自分がまるでミニチュアになったのかと錯覚する程の巨大な光の手が、僕を突然掴んだ。


(?!は、え?特撮?)


『おお、おぉ!!この者は素晴らしき才能を有しておる!じゃが、じゃが───なんと惜しい事を!!』


 耳の中で老人の声が響く。でかい光の手に掴まれている僕は呆気に取られる他なかった。


(何だこの展開!?夢にしてはなんか気持ち悪いな……)


『其方、鈴宮 すずみや志津しずであっておるな?───』


(え、はい。……なんで知ってるんだ?)


 光の手が僕をどんどんと持ち上げて、そして目の前に突然巨人が現れた。


『我は異界の神、そしてお主は我が世界から零れてしもうた残滓に適合した者。 じゃがのぉ、その力を使うには些かこの地球とか抜かすちっぽけな世界では荷が重すぎるようじゃ』


(異界の神?残滓?適合?なんかこんな展開小説とかで見たぞ?)


 謎にワクワクするワードが並びだし、僕の心は僅かに昂り始めた。最も心臓はあるのかは知らないが。


『故にお主をあるべき場所に返そうと我は思う。そなたが最も輝ける場所────即ちこの世界の言葉で言うならば……にのぉ』


(異世界、マジ?嘘、え?!───おいおいこれってこれってさァ!?)


『その世界は、そうじゃのう……お主らの世界の言葉に直すとであり、が支配する世界───名を【ナハティスノウム】その世界の言葉でを意味する世界じゃ』


 ……ナハティス……ノウム……。何故か分からないけれど、僕にはその言葉が感じた。多分きっと昔どこかの小説か何かで見たのだろう。


『ではあるべき場所に行くが良い。 うむ、待て。 餞別と言ってはなんではあるのだがのぉ、お主の力をに調整しておいたぞ。 ふぉっふおっふおっ、さぁ楽しむが良い。お主のを』


(最高の力、ぜってーそれチート能力じゃん!え、まじ?まじ!?異世界転移?異世界転生?どっちにしてもコレって────うおぉぉぉ?!)


 光が僕の体を包み込み、そうして僕は眩しさに目を閉じてしまった。

 そうして彼の魂は異世界【ナハティスノウム】に飛ばされたのである。



 ******

 志津が旅立ったあと、その様子を眺めていた老人は軽く愚痴っぽく呟いた。


『……んん、そろそろ建前を考えるのも面倒くさくなってきたわい。 もう次のヤツからは異世界転生したそうだったからって理由にしてやろうかの!!』


 周囲の魂がびりびりと震え、消えていく。


『まぁそれはそれ。……ふふふふ、しっかしあの男わくわくしとるのぉ。……ま、あの世界の難易度は桁外れじゃし、チートでも持たんとやってられんし。 何よりした力じゃと精々───むう、楽しくなってきたわい!!』








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