【第135回】 活動報告・分かち合いのトーク
「今⽇は《活動報告》の回にします。と言うのも、ご存じの通り、この前の⽊曜⽇に、藤井さんには、われらが「センチMENTALクラブ」を代表して、北川さんのラジオ番組に、出演していただきました。今⽇は、藤井さんに、その時の模様を、ご報告していただきます。なお、随時、北川さんも、補⾜説明に⼊ってください。」
そう。私の番組に百海ちゃんが出演してくれたのである。もっとも、収録というよりは、単に2⼈で、1時間「はしゃいだだけ」で終わってしまったんだけどね。だから、報告することなんてあるのかしら。百海ちゃん、⼤丈夫かな。
ところで、今⽇の出席者は、牧⼝さんを除いた5⼈。牧⼝さん、私のダメ出しが、よっぽどお堪(こた)えになったらしくて、「修⾏し直してきます!」っておっしゃって、しばらくこっちには、顔をお出しにならないらしいのよ。なんか、悪いことしたな。
「それでは、藤井さん、お願いします。」
「はい。えっとぉ……」
百海ちゃんは、報告を始めようとするが、⾔葉が浮かばない様⼦だ。それはそうだ。⼥⼦2⼈で、はしゃいでいただけなのだから。
でも、番組のスタッフには、意外と受けてね。私は総カットになってもおかしくないと、思ってたんだけど、逆にノーカットで放送されることになったの。スタッフが⾔うには、
「たまには、こういうおふざけがあったほうがいい。」
とのことだ。確かに、私の番組は、普段は非常にまじめな、どちらかというと、「お堅い」と⾔ったほうがいい番組なのだ。「ねじ緩め」も、たまには必要なのかもしれない。
さて、どうしよう。百海ちゃんのサポートに⼊ってあげなければいけないんだけど、⾔葉が浮かばないのは、当然、私も同じだ。どうしたものか。正直に⾔うか。すると、百海ちゃんは……。
「すみません! みなさんを代表してせっかく⾏かせていただいたのに、あたし、全然、覚えてないんです! すみません!」
と、いきなり謝り倒すではないか。これはやばい! と思った私はすかさず、
「いえ、百海ちゃんは、何も悪くありません。正直に⾔いますが、実は、収録中、私たち、雑談をしていただけなんです。番組スタッフが《今⽇は⽣き抜きしなよ》って⾔うもんですからつい。すみません!」
スタッフよ、ごめん! 悪者にしてしまった。
「そういうことだったんですね。いいんですよ。番組の⽅針なら仕⽅がありません。しかし、お2⼈は、ほんとに仲がよろしいんですねぇ。⾒ていて実に微笑(ほほえ)ましい。」
林先⽣は、満⾯の笑みをお浮かべになって、そうおっしゃった。うっ 、罪悪感が。
「では、《活動報告》は中⽌にいたしましょう。みなさん、何かほかにやりたいことはありませんか?」
「どうでしょう。藤井さんには《罰》として、悩み事を提供していただいて、《分かち合いのトーク》の時間にしませんか?」
と、桝井さんが意地悪そうに⾔う。ったく、こいつは。あたしの百海ちゃんに何をする!
林先⽣は、
「桝井君、冗談でも《罰》はよろしくないですねぇ。藤井さんは、何も悪くないんですからね。そうでしょ、北川さん?」
「は、はい。」
またまた罪悪感に襲われる。むろん百海ちゃんは、全くの無罪だ。完全に、パーソナリティである私の責任である。すると、林先⽣は、
「どうですか、藤井さん。桝井君の悪ノリに、乗っていただけませんか? でも、無理なら無理と、⾔ってくださって結構ですよ。」
「いえ、⼤丈夫です。ちょうどお話ししたいことが、1つあるんです。」
「そうですか、ではお聞かせください。」
「はい。」
ほっ 。何とかおさまったみたいね。百海ちゃんが悩みを持っていてセーフ。でも、悩みって何だろう? 全然そんな素振り、⾒せてなかったのに。私に⾔えない悩みなんて、あるのかしら。すると……。
「実は、あたし……来⽉、イタリアに引っ越すんです。」
「えーーーーーーーーーっ !!!!!」
全員たまげてしまった。⼀番たまげたのは、恐らく私だろう。そんな。私はどうなるの。
「そうですか。来⽉にお引っ越しですか。またそれは急ですねぇ。しかも外国なんですか。」
と林先⽣。
「はい、実は、勤め先の居酒屋の⼤将、今、2代目なんですが、⼤将がひそかにずっと、レストランの⽴ち上げを考えておられて。てっきり和⾷だと思っていたんですが、なんとイタリアン、しかも《本場の》イタリアンレストランだったんです。それで……。」
「それで?」
「⼤将が、⼀緒にイタリアに来てくれないかって。」
「それってつまり……?」
「はい。プロポーズされちゃいました。」
「えーーーーーーーーーーっ !!」
そういうことなら、ものすごくおめでたいことじゃない。なんで、私に隠すのよ。私、なんか悪いこと、したのかな。
「そうかぁ。じゃあ、もうお別れなのね。」
と、森さん。続けて、
「でも、《クイック・ダイアリー》や《サイン》があるから、いつでも連絡は取れるわよね?」
すると、百海ちゃんは、
「それが……この2つのアプリ、海外仕様ではないらしいんです。」
ガーン!!!
でも、メールや電話もあるわけだし、全く連絡が取れなくなるわけではないか。
「この《センチMENTALクラブ》のみんなとお別れするのは、本当に⾟いです。でも、あたしは、やっとつかんだ運命の⼈と、共に⽣きたいんです!」
「ちょーーーーっと待ったぁーーーーー !」
そこに割って⼊ってきたのは、桝井さんだ。
「《お別れ》なんかには、絶対させませんよ。今はテクノロジーが発達しているから、イタリアにいながらミーティングに参加する⽅法は、いくらでもある。それに、いざとなったら、俺のプログラミングで、なんとでもしますよ。」
「そうね。桝井さんのスーパーブレインがあれば、今まで通りよ。安⼼してイタリアに⾏ってきて。」
と私。そして……。
「ひとつだけ、聞かせて。なんで私に黙ってたの?」
「それは……⾔ったら美⾹ちゃん、《私を捨てて、男のところに⾏くんだ》って怒ると思ったから。怒っている美⾹ちゃんの姿を⾒るのは、できるだけ短い間がいいと思ったから。だから、ギリギリまで⾔わないつもりだった。ごめん。」
そうか。この⼦なりの私への配慮でもあったのね。
「そっか、こっちこそごめん。私のことは⽚隅に置いといて、ダーリンとお幸せに!」
「ありがとう!」
「さあさあ、これまでと変わらず、藤井さんは《センチMENTALクラブ》のメンバーなんですから、⾟気臭(しんきくさ)いのはやめにして、楽しく送別会の企画でもしませんか?」
と、森さん。確かにおっしゃる通り。
「そうしましょうよ。」
と私。みんなもうんうんうなずいている。
私たちは、今⽇は、特別に、ミーティングを延⻑して、その時間を、百海ちゃんの送別会の企画に充(あ)てた。マスターにも、事情を説明して、特別にこの⼤テーブルを、貸し切りにしていただいた。マスターは、
「私からは今⽇、ごちそうさせていただきますよ。」
とおっしゃって、百海ちゃんのオーダーを、「飲み放題・⾷べ放題」にしてくださった。
「ありがとうございます!」
と百海ちゃん。送別会本番は、もっと盛⼤に、やってあげなきゃね。
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