第74話 そろそろ終わりにしましょうか
目の前のサルヴェイタスは、先ほどまでの冷静な佇まいを保ちながらも、その体から放たれる魔力の量が明らかに増しておりましたわ。
「この姿を見てなお、貴様は戦う意志を保つか。」
彼の声が響き渡ると共に、空間全体が黒い霧と燃え盛る炎に包まれましたの。その中から無数の骸骨兵や亡霊たちが姿を現し、再び私を取り囲むように動き出しましたわ。
（まあ、また数で押し寄せるつもりですの？ 同じ手を繰り返すのは少々退屈ですわね。）
私は軽く嘆息しながら、次々と近づいてくる敵を吸収していきましたの。しかし、サルヴェイタスの次なる攻撃はさらに予想を超えておりましたわ。
「これを見よ。我が切り札たる召喚獣を――」
その言葉と共に、空間の中心に巨大な魔法陣が展開されましたの。そこから現れたのは、腐敗した肉と骨で構成された巨大なドラゴン――「デスドラゴン・レヴナント」。その全身から瘴気が溢れ出し、空気すら汚染するほどの圧倒的な存在感を持っておりましたわ。
「その力で、この竜を倒せるか試してみるがいい。」
サルヴェイタスの声には余裕が含まれていましたが、私はその挑発に微笑みを浮かべましたの。
（デスドラゴン？ 中々見ごたえのある相手ですわね。貴方の全力、見せていただきますわ。）
その瞬間、ドラゴンが咆哮を上げ、鋭い爪を振り下ろしてきましたの。その攻撃は地面を大きく裂き、迷宮の構造そのものを破壊するほどの威力を持っていましたわ。
（まあ、力任せな攻撃ですこと。でも、それだけでは私に届きませんわよ。）
私は軽やかにその攻撃をかわし、逆にその隙を突いてドラゴンの足元に向かって突進しましたの。そして手をかざして吸収を試みましたが、その肉体は硬化した瘴気の膜に覆われており、簡単には取り込めませんでしたわ。
「その竜の体は、瘴気そのものが防御の役割を果たしている。貴様の力でも簡単には崩せまい。」
（なるほど、少々手間がかかりそうですわね。でも、これくらいの試練で諦めると思われたら心外ですわ。）
私はドラゴンの動きを観察しながら、その防御を崩すための隙を探しましたの。そして気付きましたわ――瘴気が収束する胸部の一部が、僅かに弱点を露わにしていることに。
（ここですわね。）
次の瞬間、私は一気に距離を詰め、ドラゴンの胸部に向かって渾身の力を込めた一撃を放ちましたの。その結果、瘴気の膜が一部剥がれ、内部の魔力が露わになりましたわ。
「ふ……それだけではこの竜は倒れぬ。」
サルヴェイタスの声が冷静に響き渡り、ドラゴンが再び咆哮を上げましたの。その咆哮と共に、周囲の空間に新たなアンデッドが召喚され、私の動きを妨害しようとしてきましたわ。
（また数で押し寄せるつもりですの？ 本当にお変わりありませんわね。）
私はその場で身を翻し、次々と襲い来るアンデッドを吸収しながら、ドラゴンの弱点を狙い続けましたの。その間もサルヴェイタスは冷静に状況を観察し、さらなる策を巡らせている様子でしたわ。
「その執念……まるで不死者そのものだ。」
（ふふ、勝敗なんて最初から決まっていますわよ。私が勝つ――それだけのことですわ。）
私は再びドラゴンの胸部に狙いを定め、全力で攻撃を加えましたの。その一撃が核心に届き、遂にドラゴンが崩れ落ちましたわ。
「見事だ……貴様の力、確かに認めよう。」
デスドラゴン・レヴナントを打ち倒した私は、サルヴェイタスの眼前に立ちましたの。彼の赤い瞳は微かに揺れ、その中に驚きと興味が同居しているのが見て取れましたわ。
「ここまで来るとは……実に見事だ。貴様の力、その全てが規格外だ。」
彼がそう呟くと同時に、その周囲に漂っていた黒い霧がゆっくりと収束し始めましたの。彼の気配がさらに濃厚になり、この空間全体を支配するかのような圧力が高まりましたわ。
（どうやら貴方も本気を出すおつもりのようですわね。ならば、こちらも全力でお応えして差し上げますわ。）
「貴様がこれまでの試練を乗り越えてきたこと、確かに見届けた。」
その言葉と共に、彼の背後から無数の腕のようなものが伸び、同時に空間中に新たな魔法陣が展開されましたの。そこから溢れ出す光と瘴気は、これまでにない規模で、まるで空間そのものが崩壊しそうな感覚を覚えましたわ。
「押しつぶされよ――。」
彼の声が脳内に響き渡ると同時に、無数のアンデッドが再び召喚されましたの。その数はこれまでの比ではなく、地平線を埋め尽くすほどの規模でしたわ。
（まあ、どれほどの数を用意しようとも、私には関係ありませんわよ。それを打ち破る力が私にはあるのですもの。）
私は吸収の力を解き放ち、次々とアンデッドを無力化していきましたの。しかし、その群れは次から次へと湧き出し、一向に減る気配がありませんでしたわ。
「貴様の力がいかに強大でも、この無限の軍勢には勝てまい。」
サルヴェイタスの冷笑が響く中、私は心中で少しばかり苛立ちを感じましたの。
（無限に湧き出る軍勢……確かに厄介ですが、それを支えている貴方を倒せば終わりですわね。）
私は視線をサルヴェイタスに向け、その動きをじっと観察しましたの。そして気付きましたわ――彼が魔導書を通じてアンデッドを操っているということに。
（魔導書がその力の源ですのね。ならば、それを直接狙えばいいだけのことですわ。）
私は彼に向かって一気に突進しましたの。しかし、その瞬間、彼が魔導書を高く掲げ、全身から黒い瘴気を放ちましたの。その瘴気はまるで壁のように私の進路を阻み、私の動きを封じ込めようとしてきましたわ。
「我の全力を前に、果たして何ができるか試してみるがいい。」
その言葉に、私は冷静に周囲の状況を分析しましたの。瘴気は確かに強力で、一筋縄ではいかない力を持っておりましたが、それでも私を止めるには不十分でしたわ。
（この瘴気を吸収すれば、逆に私の力がさらに増すだけですわ。）
私は吸収の力を発動し、瘴気を一気に取り込みましたの。その結果、私の体がさらに強化され、周囲の闇が一掃されましたわ。
「その吸収能力……全く底が見えない。しかし、それでもこの戦いを終わらせることはできぬ。」
（本当にしつこい方ですわね……ですが、そろそろ終わりにしましょうか。）
私はその場で一息つき、全身に力を込めましたの。そして、全ての力を解き放ち、一気にサルヴェイタスとの距離を詰めましたわ。
「貴様、その力――！」
彼が驚愕の表情を浮かべる間もなく、私は彼の手元の魔導書に手を伸ばしましたの。そして、その瞬間に吸収の力を発動し、魔導書ごと彼の力を取り込みましたわ。
「見事だ……。」
彼の体が一瞬光に包まれ、そして崩れ落ちましたの。しかし、私はそのまま彼の力を完全に吸収し、新たなスキルとして体内に取り込みましたわ。
「貴様に敗れるとは……だが、これもまた運命か。」
最後の言葉を残した彼の姿が完全に消え去った瞬間、私は静かに手をかざし、新たな召喚の力を発動しましたの。そして、再び現れたサルヴェイタスは、かつての威圧感を保ちながらも、私に向かって膝をつきましたわ。
「貴方に忠誠を誓いましょう。これより、貴方の眷属としてお仕えいたします。」
彼の声は静かでありながらも、深い敬意が込められておりましたの。
（ふふ、貴方のような力強い存在を手中に収められて、満足ですわ。これからよろしくお願いいたしますわね。）
こうして、私はエルダーリッチ・サルヴェイタスを眷属に迎え、この迷宮での試練を終えたのでしたわ。次なる冒険に向け、私は新たな力を手に入れた喜びと共に、再び歩みを進める準備を整えましたの――。
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