断罪された悪役令嬢、現代ファンタジー世界の最弱スライムに転生しましたわ!規格外の力でモンスターやアイテムを吸収して無限に成長していたら、いつのまにか探索者からは災厄なんて呼ばれて恐れられていますわ!?

☆ほしい

スライムに転生したので、初心者ダンジョンで無双しますわ!

第1話(改) これが運命ならば、受け入れてみせますわ!

「私が扇動したですって? そんな噂を信じる方こそ、頭がおかしいんじゃなくって?」


学院の広間、いや、いまやまるで裁定場と化しているこの空間


――そこに並べられた席の中心、私は高座に立たされておりますわ。


名前はシャルロッテ・フォン・アストリア。


王国でも随一の名門貴族の令嬢にして、華々しい美貌と才覚を誇る、つまりは“選ばれた存在”ですの。


ところが、まるでわたくしが極悪非道の悪役でもあるかのように、周囲の者たちから向けられる視線は冷ややかで、獲物を狩る猛獣の眼光さえ連想させるほど。


ああ、なんという屈辱的な状況でしょう。


この私に対して、ここまでの無礼を許すなど、どれだけ度胸のある連中なのでしょうね?


けれど、今回の“断罪”のシナリオは初めから決まっているようなもの。


平民出身ながら“聖女”として持て囃されているアンジェリカ・リーヴェルとかいう小娘が発端となり、私があれこれと周囲を“扇動”しただの、彼女に嫌がらせをしただのと、くだらない噂をばら撒いているようですわ。


確かに多少、彼女の言動に腹が立って、ちょっとやそっとの言葉の棘は放ちましたけれども――それくらい、生意気な小娘相手なら当然じゃなくって?


「シャルロッテ・フォン・アストリア。貴女の行動は、貴族としての品位を著しく損ねたと判断します。」


壇上で告げるのは学院長代理の教師。


普段はもっと温厚そうな人だと思っていましたのに、こんなときばかり威厳たっぷりに構えていらっしゃる。


その隣に座っているのは第一王子、エドモンド様ですわ。


彼がこうしてわざわざ学院の“裁定”に加わるなんて異例の事態。


アンジェリカを守る、彼女の“騎士”気取りなのでしょうけれど、その姿がむしろ滑稽に見えて仕方ありませんわ。


「わたくしが周囲を扇動しただなんて、証拠がおありなのかしら? わたくしはただ、『彼女はあまりにも猫を被っているのではなくって?』と指摘したに過ぎませんわ。」


実際、アンジェリカが聖女と呼ばれるほど清廉潔白かと言えば、少なくとも私にはそうは見えないのですもの。


彼女が王子に擦り寄る姿は目に余るし、自分の“奇跡”とやらを人目につく形で見せびらかしては周囲の称賛を浴びようとする。


そんな者を快く思わないのは当然でしてよ。私のほうこそ被害者くらいの気持ちですわ!


「しかし、シャルロッテ。君が放った言葉は、度を越えた中傷であり、ほかの貴族の子女を巻き込んでアンジェリカ嬢を貶める行為に繋がった。これは見過ごせない。」


エドモンド様はあくまで厳しい口調。


その青い瞳が冷たく私を貫いているのを感じますわね。


でも、私には通用いたしませんわ。


彼がいくら正義を振りかざそうと、それが薄っぺらい思い込みに過ぎないと分かっておりますもの。


(どうせ、裁定の結果はわたくしが悪役に仕立て上げられるのでしょう? 茶番ですわ。)


ふと、アンジェリカの方に視線を移します。


小柄で華奢な身体、あどけない顔立ちに涙を浮かべ、いかにも“哀れで無辜の少女”を演じているではありませんこと。


その演技力の高さは、ある意味大したものですわ。


芝居がかった仕草と一滴の涙だけで、周囲の同情は総取り。


誰もが彼女の健気さに胸を打たれ、私こそが残酷な仕打ちをした悪女だと信じ込むのでしょうね。


「シャルロッテ、君に今から正式な処分を申し渡す。貴族としての身分剥奪、そして国外追放を……」


まるで筋書き通りですわね。私は思わず吹き出しそうになりましたもの。


けれど、その先を聞いた瞬間――


「だが、王国法に基づいて、これは更なる重大犯罪とみなされる可能性がある。よって、君には……処刑を言い渡す!」


……なんですって? 処刑?


追放くらいなら安いものと思っていたのに、このタイミングでまさか死罪を宣告されるなんて、頭が真っ白になりますわ。


周囲のざわめきが一気に高まり、私を凍り付かせるような視線が刺さります。


「処刑……。ご冗談でしょう? 貴族への罰としてはあまりに重すぎますわ!」


思わず声を張り上げましたわ。でも、エドモンド様は容赦しませんの。


その背後には、アンジェリカの“悲劇のヒロイン”然とした表情。


いえ、その目の奥に見え隠れする嘲笑――ああ、やはり私は罠にかかったのでしょうね。


「アンジェリカ・リーヴェル! 処刑の前に、シャルロッテに何か言いたいことはあるか?」


「……私、それほどまでに責めるつもりはありませんでしたの。けれど、シャルロッテ様があまりにも、私を悪く言うばかりだから……」


なんとも白々しい声。それだけで周囲が溜息まじりにアンジェリカを庇う空気になりますわ。


同情を一身に集めるその姿、反吐が出そうですわ。


しかし、どうしようもありませんものね。


ここで私が何を言ったところで、誰も信じるはずがありません。


――だったら、優雅に最期を飾ってみせますわ。


私のプライドまで押し潰されてはたまりませんことよ。


「――別に、あなた方に情けを乞うつもりはなくってよ。どうぞ好きにすればよろしいわ!」


できる限りの強がりを見せるため、私は笑ってみせました。


どうせこの状況は変わりませんし、少しは格好をつけたいのですもの。


そうして騎士たちに取り押さえられ、広間の外へと引きずられていく私。


それでも、最後まで声高に笑ってやりたかったけれど、胸を満たす恐怖が笑みを引きつらせますわ。


(本当に、これで……終わりなのかしら?)


王国の処刑――何度か見聞きしたことはありましたけれど、それがいかに残酷かは噂で耳にしておりました。


まさか、自分自身がその対象になるなんて。


名門貴族に生まれ、順風満帆な人生を歩んできたこの私が、こんな形で幕を下ろすなんて、ありえない結末ですわ!


しかし、現実は無慈悲。


そして――



気が付いたとき、私は漆黒の闇の中に浮かんでいるような感覚に襲われました。


手足の感触がありません。声を出そうとしても、口があるのかどうか分からない。


魂だけがどこかに漂っているような、不思議な浮遊感。


ああ、これが死後の世界なのでしょうか?


でも、やがて薄ぼんやりとした光が見え始め、私の意識が目覚めを迎えます。


次第に視界がはっきりしていくと、そこは見たことのない空間でしたの。


金属の壁が整然と並び、青白い光が模様を描き、未知の植物らしきものが床に生えている。


王国のどこにもこんな場所はなかったと断言できますわ。一体、ここはどこなの?


(……あれ? 私、処刑されたはずではなくって?)


ここが冥界か、あるいは異界の果てかしら、と混乱しているうちに、さらに衝撃的な事実に気づいてしまったのです。


(なんですの、これ? 私の体、手足どころか……人間の形をしていませんわ!)


透き通ったゼリー状の塊。それが私。揺れるたびにぷにゅんとした感覚が伝わる。


なんというか、これは――スライム?


(は、はあ……? 私がスライムですって?)


処刑された先で、どうやら私はスライムとして転生してしまったようですわ。


わけがわかりませんけれど、少なくとも死んで消え去ってはいないのでしょう。


だったら、こうなった以上、どんな姿になろうとも生き延びてみせるだけ。


(私、シャルロッテ・フォン・アストリアが、たかが弱小スライムで終わるわけがありませんわ!)


そう心に決め、私はこの未知の空間を見回しました。


金属の壁面に怪しく光るライン、気味の悪い植物……聞いたことのないタイプのダンジョンか、それとも別世界そのものか。


とにかく、ここでじっとしていても仕方ありませんもの。


私の好奇心が、再び胸――いえ、今は胸などありませんけれど、魂を騒がせるのを感じましたわ。


(さあ、行くといたしましょう。このスライムの体で、私がどこまでやれるのか――試してご覧に入れますわ!)

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