第六話 『東京ワルプルギスと螺旋の改造獣』 その37


「どうした、弟子よ。たしかに、昔言ったな。もしも何か重大なトラブルがあったときは、この電話にかけろと。だが、あまりにも状況が悪いだろう。電話をかけてくるヒマがあるのか?」


『うるせえ。どこにいやがる!』


「数時間前まで、大阪にいたよ。ずいぶんと大勢を、そこで殺した」


『どいつもこいつも、事件ばかり起こしやがって! そんなだから、仲良く、手も組めない!』


「宗教団体の常でね。教祖が死ぬと、組織が分裂しやすいものなんだよ。倫理観が肥大していくと、自分の正義とわずかにでも異なるものに対して、異常なまでの敵意を抱くものさ。どの宗教も、分裂してきた。仏教もキリスト教もイスラム教も……我々もそうだ」


『うるさい! オレの、願いを叶えろ!』


「ランプの精か何かと勘違いしているのか? ワシは精神病院の住人に過ぎない、かわいそうなおじいちゃんだよ?」


『核を、どうにかしろ!』


「はあ。それか」


『代わりに、『アナスタシア』はどうにかする。オレと、姉で』


「……そいつは、楽しみだ。勝てないと、思っていたが」


『とにかく、やれ。これ以上、悲惨な状況にしてたまるかよ! 『オラトリオ』、通信終わり!』


「……切っちまいやがった。はあ、我が弟子ながらあわただしい。いきなり電話をかけてきて、核を止めろだって? じじいにかけるような言葉じゃないよ」


「……似た者同士じゃねーか」


「コレットくん。君とも、似ているだろう。原材料に、共通項がある。君らは『家族』だ」


「ふん」


「だから、くだんの『オラトリオ』も使いこなしている」


「『グランマ』にぶち込んだ人格データの結果だ。『オラトリオ』は人類と共存したがっているから、サービス精神旺盛なんだよ」


「昔からおしゃべりなところもあったが、死後ますます社交性を獲得したか。本物の彼ではないのかも」


「再現度は高い。誰よりも本人さ。本人よりも、本人だよ。不死を得て、かつてより自由に己を表現しているだけ。体という檻から、解き放たれた」


「なるほど。最近の機械はよくできている」


「自分の内側に引きこもる時代は終わったんだよ。これからは、電子情報の世界で、キメラみたいにみんなでひとつ。境界線のない自由な『天国』を、私たちは創ったんだ」


「そいつはいい子だね。だから、拷問したくない。君はワシをハメてくれたが、殺しはしなかったからね。素直に、状況解決のために協力してくれたら、解放してやってもいい」


「……弟子からのお願いに甘すぎるぜ、おじいちゃん」


「魅力的で、かつ知的な女性との会話は楽しいものだが……核攻撃なんて真似は、君だってしたくないだろ。せっかく、政治的な侵食を完了しつつある状況なんだ」


「あんた、私のパトロン候補を殺しちまっただろう」


「だからこそさ。ワシなら、『新しいパトロン』を紹介してもやれる。国防産業に興味がある金持ちと権力者は、いくらでもいるんだよ。日本を愛している気になっている連中がね。そういう連中は、とても操りやすいぞ」


「……だろーな」


「『追われることのない安全な身分』も提供してやれる」


「……私は整形なんてする気はない。自分の顔、気に入っているから」


「何にせよ。協力したいなあ。『アナスタシア』はインパクトをあたえ過ぎてしまったからね」


「そうなる時期だっただけ。機は熟していた」


「教団は、勝利している。ここから追加で、世界中を敵に回すリスクを取るべきじゃない」


「なに? せっかくの核を、ロシアにお返ししろって?」


「『アナスタシア』の制御下から、奪うだけでいいよ」


「まあ、暴発させるとすれば、あいつらだけだもんな。他とは、過激さが違う」


「どうせ、君が噛んでいる。黒幕とは言わないが、君の能力と地位をフル活用しなければ、核兵器など日本に持ち込めなかったハズだ。それとも。作ったのは、君かね?」


「……CIAが買いたがっていた『行方不明の核物質』を、『アナスタシア』の護衛についていた元KGBの大佐が、テロ組織と付き合いのある武器商人から奪いやがった。作ったのは、私じゃない。密輸には手を貸してやったけどね。死を連想させる核物質こそが、『聖典』に使うべき素材だとも考えていたから」


「君が?」


「アイデアの祖は、もちろん『作者』に決まっている」


「興味深いね」


「とにかく。核兵器を作ったのは、大佐の部下の科学者だ。拉致ってきた科学者もいるかもだが。あの派閥は、とにかく強烈だったな」


「作ったのは君じゃないと言い張るんだね」


「おじいちゃん。十二才の子供が、自宅で核融合炉を作れちまう時代なんだぜ」


「危なっかしい天才が、君以外に山ほどいるからといって、君を疑わずにいられる証拠にはならんさ」


「ふん。信じるか信じないかは、あんた次第だ。でも、私はいつでも、こう言うだろう。私じゃない、と。『アナスタシア』の命令のもとに、お抱えの科学者どもが作ったんだ」


「白々しく聞こえるのは、気のせいかな」


「大企業の社長なんだよ、私は? 核兵器なんて、そもそも好みじゃない。だが、状況は利用しなくちゃね。我々は、世界で数少ない核武装した宗教テロリスト集団になれた。誰も、逆らえんよ」


「圧倒的な力を得たのかもしれないが、使い勝手がいかにも悪い」


「素直に言えよ」


「ふむ?」


「『核を持っていると断定されない方が有効なカードになる』って」


「賢いじゃないか」


「人類でいちばん賢いランクにいるからね」



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