第三話 みんなみんな、夕焼けよりも赤く染まって その23/プロフェッショナルの憂鬱
……全員で、退職したくなっちゃうかも。警官たちも、この動画を見てしまっただろう。あの気持ち悪い絵は、不思議と心に踏み込んでくるから。虐待された子供がいたらしい。それを、周りの誰も助けてやれなかった。警官も、出ていた。警察は、隠ぺいしたのかも。
「ちくしょう」
私たちカウンセラー部隊を十倍に増やして、働き方改革に逆行した二十四時間セラピーを強行したとしても、トラウマから解放されるとは限らない。
空が。
夕焼けで真っ赤だ、燃やされてるみたい。
仕事を辞めたくなるのは、ゴールデンウィーク明けの名物みたいなものだけれど。今日ほど、失業したいという願望が湧いたことはない。みんなが、傷つけられて、追いつめられている。化学物質の増量と、休暇が必要だ。でも、それだけじゃ、足りないかも。
『カウンセラー先生、あんたは限界だよ。無理するな。無理せずに、休め』
「……休んだら、そのまま鬱病発症しそう。ミイラ取りが、ミイラ……あるあるだけど。でも、でも……もう少しだけ、がんば―――」
銃声が響いた。
午前に聴いたものとは、ぜんぜん違っていた。ニセモノじゃない。本物だった。なんて、大きな音だろう。本物の拳銃は、こんな音を響かせてしまうのか……。
『先生、カウンセラー先生!?』
「……ちくしょう」
『おい……』
叫び声だ。女の警官が、見つけたのかも。「救急車、早く!」。助かればいいのに。脚でも撃っていればいいのに。「頭から、血が!」。「AEDを持ってくるんだ!」。ダメだ。助からない。
「この、動画のせい……?」
……結果的には、そうじゃなかった。
サイアクの一日は、まだ続いていたから。
サイコな狂信者の丸焼け自殺よりも、もっと、彼個人には響いた事件があった。いや、事故かな。どっちでもいい。臨床で大切なのは、定義じゃないもの。電話の向こうで、救急車のサイレンが鳴っていた。警察署に向かうためじゃない。
あのサイコパスみたいな医学部中退が、泣きそうな声で叫んでいる。「早く! 学校に! 真帆ちゃんが、いるんだぞ!」。誰だろう。でも、関係性の予想はついた。
どんなに打ちひしがれているときでも。
私はプロフェッショナルだ。知的な職業人は、いつだって分析しながら状況把握をしていく。まあ、物騒な言葉を検索するだけだから、それほど難しいことじゃない。検索エンジンにぶち込んだ悲しい単語はふたつ。『学校 自殺』。
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