第二話 双子探偵 その24/天使の信徒


「……まあ。長々と推理を語っちまったが、これもポイントだよ。『皮をはぐのが上手かったり、人体を加工するのが得意だったりする、違法行為に手慣れた犯罪者』ってのと、今回のアレは、いかにも関わりがありそうだろ」


「そうだ。繭も、皮を……はがされていた!」


「怒るな。冷静に。すべては、シロウトの推理なんだ」


「あんたの予想って、外れたことは?」


「ごくまれにはあるだろ」


「なら、当たってるんでしょう」


 こいつは、言葉足らずだ。自分の本心を、隠していることも多い。『目的』について、嘘をついているのかもしれない。でも、起きた事実や繭の巻き込まれた人間関係までは、疑っていない。


 だって。繭が大嫌いな故郷に戻るとすれば、「『タトゥー/絵』のためだけ」。じゃあ、殺されたのはそのせいで、そもそも『絵』のせいで殺されるってなんだ……『絵』に、どういう価値があるっていうんだ。私にとっては、宝物だ。繭の『絵』は。この肌に刻んでもらったタトゥーは。『絵』って、殺される動機になるはずがない。「でも、殺されているの」。


「……正直、ヤツの……麻生繭という引きこもりメンヘラ女に『価値』があるとすれば、『三つ』しかねえ。それのひとつが、タトゥー彫るのが上手いってだけだ」


「それでも、悪くない推理。気持ち悪い推理だけど。てか、価値が三つしかないとか、クソ失礼なんだけど!」


「噛みつくな! 前を見て運転しろ、ペーパードライバー!」


「それで」


「……なんだよ。他の二つを聞かされて、怒りたいのか?」


「違う」


「じゃあ、なんだ」


「……どうして。そこまで、推理できていたのなら、あの勅使河原とやらに言わなかったんだ?」


「言えるか、ボケナス。オレとお前が、関わっているようにも解釈できちまうだろうが。ただでさえ、疑われてるのに。感情的な動機もあって、技術と知識とコネもあって、その上、ビジネス的な理由までそろったら、裁判で勝てん……まるで、ダークで『邪悪』なビジネス組織の一員みたいじゃないか!」


「安心した」


「どこにだ?」


「あんたが冷静だってところ。自分のために、考えられてる」


「まあな。クズだから。オレは、自分のためにやってる。いつもね!」


 それが、いちばん信じられる。クズ弟には、夢があるからだ。こいつは小説家になりたいらしいから。逮捕されてるヒマはないはずだし。


「まあ、獄中出版も、珍しくないか」


「うるせえ。オレはいつだって無実だ」


「はいはい。次は、どっち?」


「右…………はあ!?」


 クソ弟がペーパードライバー相手に、おかしな声で叫びやがった。運転ミスりそうになるが、どうにか無事だ。右折は危険だってのに……!?


「なに、あれ!?」


「そりゃあ、あれ。火事だろうなあ。もしかしたら……」


「画廊なの?」


「場所的に、そうかもしれねえ。やべえな。証拠隠滅か。じゃあ、ほとんど推理完璧に当たっていたのかもしれん。『脳内世界をワールドワイドに拡大してみるもんだぜ』。ああ、さすがは、オレ。アタマ良すぎんだろ……いいぞ、『それ』なら、いいんだ。うげえ!?」


 ハンドルを、思い切りぶん回していた。ドリフトもどきの現象が起きて、レンタカーが中央車線を横切りながら百八十度回転する。


「何やってるんだよ、田舎道でも、対向車いるんだぞ……死にかけた……っ」


「いた」


「だから、対向車が―――」


「すれ違った車に、あいつがいた。運転してたんだ!」


「……社長。マジか」


 見えた。私の動体視力をなめるな。プロのボクサーにだって、なろうと思えばなれる。あいつらのパンチはどいつもこいつもスローだ。私の運動神経は、「神さまがあたえてくれたギフトだね!」。その通り。繭、行こう。


 アクセルを思い切り踏みつけた。


「おい、本当なのか? この暗がりで見えたのか?」


「あいつの顔、光ってた。『赤く』」


「ああ。動画見てやがるんだ。カーナビで。その光が、顔に当たって……」


「動画? まさか!」


「『赤い天使』の大ファンかもな」


 ブチギレそうになる。当然だ。今このときも、あいつは繭を見ている。どんな感情なのか、知りたくもない。でも、わかる。ゆるせないってことだけは!


「しかし。軽自動車かよ。社長っぽくない。つまり、乗り換えた。なるほど……誰かの車を借りたのか、奪ったのかも」


「殺して、画廊ごと焼いたとか」


「ハハハ。可能性は、あるような気がするから怖いんだよなあ……っ。『そっち』だったら、マジでやべえんだ。クソ、クソ、せいぜい、小悪党であってくれ!」


 やっぱり。クズ弟は、私に言っていないことを隠していそうだ。


 かまわない。


 こいつは昔から、ぜんぶは言わない。あの熊のときだってそうだった。繭に話してあげたら、言われたからな。「見たのって、本当に爪痕なのかなあ」。じつは、私も……。


 まあ、いい。なんであれ。最優先はあいつだ。あいつ……目の前を走る軽自動車は、こちらに気づいたのか。速度を上げやがる。


「逃げるなんて、悪人のすることだ!」



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