第5話

金曜日の22時過ぎの電車内はさほど混んでおらず、座席に座ったマスク姿の私はうつらうつらとしていた。


不意にバッグの中に入れていた携帯のマナーモードのバイブ音が聞こえた。手早く携帯を取り出して確認してみればよく知った男からのメールだった。


【今から家に行ってもいいか?】


浅くため息をひとつついて素早く返信した。



自宅の最寄り駅に着き足早に夜道を駆けて行った。普通に歩いたら10分かかるところを3分も早く着いた。するとマンションのエントランスにその姿を見つける。


「……早かったね」

「おぅ。メール、此処で打ったんだ」

「え」

「インターホン鳴らしても出なかったからさ、メールした」

「相変わらずだね」

「悪ぃ」


セキュリティーを解除してエレベーター前まで進んだ。その後をついて彼もやって来る。


「飲んで来たんか?」

「うん、部署の先輩と」

「それって男?」

「違う」

「ふぅん。寂しいねぇ~金曜の夜だっていうのに」

「余計なお世話。あんただって私の処に来ている時点で寂しいのは同じでしょう」

「俺は違うよ。ここ数日ずっと残業でさぁーまともに家に帰ってないんだよ」

「じゃあ今すぐ帰りなさいよ」

「えぇーダメ。もういちいち電車乗ってとか……気力が持たない」

「だからってうちをホテルか何かと勘違いしないで欲しい」

「そんなつれないこというなよ~ジュジュ」

「その名前で呼ばないで」

「おぉっと、地雷踏んだ? ごめんごめん」

「……」


軽口を叩きながら6階の自宅に着き玄関を開け中に入った途端いきなり押し倒された。

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