第17話 再会

 陽が傾いて空がオレンジ色に染まった頃、私とラボットさんは一緒にスノーグローブ家へと向かいました。


「なあ、クルクル嬢。俺、本当にこんな格好でいいのか? いちおうスーツだって持ってるっちゃ持ってるんだぞ?」

 ラボットさんはいつものつなぎ姿です。貴族に会うのに失礼がない格好かを気にしているようですね。


「大丈夫ですわ。プライベートな時間で会うだけですから。正装が必要なときは予め何かしら連絡があるものです」

「ならいいんだが……。雪のハリネズミのきみって性格はツンツンしているんだろう? すぐ怒ったりするんだろうか……」


「ツンツン……? そういう説はたしかに聞いたことがありますけど、実際に会ったときのハリーは温和で少しのんびりした感じの優しいお兄さんでしたわよ?」

「世間の評判とはだいぶ違うな」

「会えば印象が変わると思いますわ」


 ……あら? とてもしょんぼりしている若い女性とすれ違いました。なんだかとても悲しいことがあったみたいで、声をかけた方がいいのだろうかと思うほどにしょんぼりしていました。


「はあ~あ……。私じゃあやっぱりダメかぁ……」


 すれ違った女性がそう呟いたのが聞こえました。とても綺麗に着飾った女性だったのですが、何がダメだったのでしょうか。私、気になります。


 ……って、あらあら? さきほどの女性と同年代の女性が、これまたしょんぼり顔で歩いて来ています。着飾っているのも先ほどの女性と同じですね。


「はあ……。死にたい……。いけると思ったんだけどなぁ。私って自分で思ってたほど可愛いくなかったのかなぁ……」


 どんより曇り空みたいな表情をしていました。

 ……あら? あらあらあら? さらに向こう側から明らかに落ち込んでいて、下を向きながら歩いてくる女性がいました。この女性もやっぱり着飾っていますね。


「はあ……、運命の人……、絶対に私だと思ったのになぁ……」


 何かのイベントでもあるのでしょうか。このすぐ先はもうハリーの家しかないのですが……。

 うちとは比べものにならないほどに大きな家へとやってきました。ちょっとしたお城のような感じかもしれません。

 その家のドアの手前で、騎士のコートを着たハリーと、着飾った若い女性が何やら会話をしているようでした。


「雪のハリネズミ様っ」

 女性が照れ過ぎているような声でハリーのことを呼びました。

「いや、それ俺の本名じゃないし、あだ名ですらないんだけど」


 ハリーは北極の氷河に匹敵するような冷たい表情で女性のことを見ています。……もしかして、あれが雪のハリネズミのきみと呼ばれているハリーですか。以前とはぜんぜん印象が違いますね。


 以前会ったときのハリーは温和で話しやすいお兄さんという感じでした。ですが、今のハリーは雪国のクールなイケメン王子様という感じです。


「ツンツンしている方がかっこいいですわね……」

 特に目つきがかっこいいです。私の呟きがラボットさんに聞こえたみたいです。


「なあ、本当に温和でのんびりなのか?」

「ん~……。お酒が入ったときは、あんな感じではなかったのですが……」

「素面だとああなのか。やっぱり格好を間違えたかもな……」


 あわわわわっ、とラボットさんと二人で慌て始めます。そんな私たちには気がつきもしないで、着飾った若い女性とハリーの会話は続きました。


「お願いしますっ。私を彼女にしてく――」

「ごめん。帰ってほしい」

「せ、せめて最後まで言わせてほしかった……」

「俺、誰とも交際する気はないんだ」


「私、いっぱい尽くすタイプです」

「二日に一人はそういうタイプの女性に交際を申し込まれてるね」

「こ、好みの女性ってどういう感じでしょうか」

「南国で育ったハムスターみたいな人かな」


 ……。……。……んんん~?

 どういう人でしょうか。私は首を傾げました。ラボットさんを見てみると、これまた難しい顔をしていました。


「わ、私、そういう人になりますねっ」

「ごめん、ギャグのつもりだった。真に受けないでくれ。雪のハリネズミのきみって呼び名にかけてみただけで――」

 ハリーが私とラボットさんに気がつきました。すまなそうにします。

「ごめん、お客さんだ。もう帰ってくれ」


 着飾った若い女性が私に気がつきました。私はスマイルを送りましたが、彼女は親の仇を見つけたみたいな表情を返しました。そして、ハリーに心配そうな表情を向けます。


「まさか彼女ですか?」

「いや、ちょっとした仕事関係の人たちだ」


 ラボットさんも一緒にいるからか、着飾った若い女性はすんなりと納得したようでした。邪魔にならないように、今日はこれで帰るようですね。


「雪のハリネズミ様っ、次に来るときは、あなたとお似合いなハムスターコスプレをして来ますねっ」

「えっ! はあ? ちょっ、待っ!」

「それではごきげんよう」


 着飾った若い女性はハリーに背中を向けると、がっかりした様子で私の横を通っていきます。その瞬間でした。ギロリと怖い視線を私に向けてきました。


「抜け駆けをしたら絶対に許さないから」


 こわっ……。女性ってホラー映画のオバケみたいに怖くなれるんですね……。決してあの手のタイプの女性とは関わるまいと思う私でした。

 ハリーが温和でのんびりした表情を見せつつ、私たちに手を小さく振ってくれます。


「ごめん、待たせてしまって。あと、わざわざ訪ねて来てくれてありがとう」


 あっ、私の知っているハリーに変わりましたわ。銀髪オールバックの優しいお兄さんって感じです。背は高いですけど何も怖くはないですね。


「ごきげんよう、ハリー。いつも女性が家に押しかけてきてるんですか?」

 ハリーがいっきにげっそりしました。

「うん。わりとしょっちゅうだね。今日は連続で何人も来てしんどかったな……。ははは……」


 連続……。道中ですれ違った着飾った女性たちのことですね。みなさん、ハリーに交際を申し込んでフラれてしまったんでしょう。


「大変すぎますわね……。同情しますわ……。1日に何人もフラないといけないだなんて……」

「なんかね、俺の運勢を勝手に占ったらしいんだよ。そうしたら今日、俺が運命の女性と再会するとか出たらしいんだよね。それで私こそはって思ったらしくて」


「彼女たちとは交流があったのですか?」

「ないよ。ぜんぜん知らない人たち」

「うわあ……、それでよく運命の相手が自分だなんて思えましたわね……。自惚れって怖いですわ……」

「ね、怖いよね……」


 恋は盲目とはよく言いますが、彼女たちは実際そうなのかもしれませんね。私はそうならないように気をつけましょう。

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