第15話 ハリーへのお手紙

 掘削機の試運転は大成功に終わりました。私とラボットさんはそのまま工房でワインを開けて、笑顔で祝杯をあげました。


「「いえ~い、乾杯~!」」


 ワインの香りをかぎ、ぐいっと飲みます。

 ああ~、素晴らしい甘味が口の中いっぱいに広がりました。アルコールがほどよく体内に回っていき、私はほっぺを少し赤くします。

 ラボットさんを見てみれば、楽しそうに掘削機を見ながらニコニコしていました。


「いやー、良い仕事ができたなー。凄いものを作ってしまったぜ」

「ラボットさんの技術と経験があってこそです。本当に感謝していますわ」

「お礼を言うのは俺の方さ。面白い話を持ってきてくれてありがとな!」

「こちらこそです!」


 いえーい、と酔っ払いのノリでまた乾杯をしました。ああ~、ワイン、美味しいです~。


「で? クルクル嬢、この掘削機の名前って考えてあるのか?」

「はい、ずっと頭の中で考えていた名称がありますわ」

「お、聞かせてくれ。かっこいいのがいいな」

「ドリル――。と言いますわ。どうでしょうか?」


 ラボットさんの目が少年のように輝きました。


「なんだそれ、かっこいいな! 意味は分からないが胸が熱くなっていく感じがするぜっ」

「ドリル――。素敵な名称でしょう? 私が考えました。私が名付け親ですわ」


 うふふ、ここは地球ではない異世界です。ドリルの名付け親が私だと名乗っても何の問題もありませんわ。

 もしかしたら歴史の教科書に載るかもしれませんね。ドリルを作ったのはクルリーナだと。そうなったら面白いですわ。


 あ、ラボットさんの奥さんが焼いてくれたピザが届きました。3人でワインを飲みつつ、ちょっとしたパーティーを始めます。

 奥さんが「もう掘削機が完成したのかい?」とちょっと驚いています。そして、穴の空いた合金の板を見てさらに驚いていました。


 ちなみに、奥さんはラボットさんと同い年だそうですが、まだ40代後半くらいにしか見えないパワフルな女性です。髪は茶色で少しふくよか。腕のたくましさがとてもかっこいい人ですね。


「この掘削機がスノーグローブ様のお役に立てるといいねぇ」

「あ、そうでした。スノーグローブ様に、ハリーに明日にでも会いに行きましょう」


 ラボットさんが「ちょっと待て、ちょっと待て」と止めます。

 私と奥さんがきょとんとします。ハリーの助けになると思ってドリルを作ったのですから、すぐに見せに行った方が良いと思うのですが。


「なあクルクル嬢、このドリルはさ、胸を張って誇れる立派な発明だろ?」

「ええ、もちろんですわ。会心の発明品だと思います」

「それならさ、他のやつに申請される前に特許をとっとかないとな」


 奥さんが「ああ、それはとても大事ね」と同意します。

 私としても理解できました。他の人に特許を取られてしまったら、その人たちがドリル販売で大もうけができてしまいますからね。それは面白くないです。


「確かに特許申請は大事ですね。……というか、今さら気がついたのですが、ハリーはアポなしで訪問して気楽に会える人ではありませんでしたわ。私、スノーグローブ家にひとまず連絡を出し、ハリーの都合の良い日を伺ってみますわ」


 それがいい、とラボット夫妻が同意してくれました。

 ということで翌日、私はハリー宛にお手紙を書きました。


 スノーグローブ家の場所は分かっているため、時間のかかる郵送ではなくて自分で届けに行くことにしました。執事さんやメイドさんに直接渡そうと思います。

 くるくる縦ロールを揺らしながら歩いて、スノーグローブ家へとやってきます。


「さすが侯爵家……。お城みたいな素敵なおうちですね」


 以前は二日酔いだったのでじっくり見る余裕はありませんでした。今、改めて見ると本当に立派な家です。いつか私のロールドーナツ家もこれくらいの家を持てるようになるといいですね。


 あら、ドアが開いたと思ったら、ハリーの妹さんが家から出てきました。長いふわふわくせっ毛の少女ですね。名前はライラさん。パッチリしたお目々が可愛いです。


「あら、クルリーナ様、数日ぶりですね」

 貴族らしくちょこんと膝を曲げて挨拶をしてくれました。私も挨拶を返します。


「ライラ様、先日はお世話になりました」

「いえいえ。あ、私のことはライラと呼び捨てにして頂いて構いませんよ。私の方が年下ですし」

「では、ライラちゃんとお呼びしますね。私のことはクルリーナと呼び捨てにしてください」


「あだ名はあります?」

「クルクルって呼ばれていますわ」

「では、クルクルさんで」

「最高ですわ」


 二人で笑顔を見せ合います。なんとなくですが、ライラちゃんとは仲良くなれそうな気がしますね。ただの乙女の勘ですけどね。


「それでクルクルさん、今日はうちにどういったご用件で? お兄様ならお仕事の時間ですから、今はお城にいますが」

「ハリーにぜひご覧になって頂きたいものがあるんです。それでご都合の良い日を教えてもらいたくて、お手紙を書いて持ってきたのですが」


「あら、お兄様へのお手紙ですか? それはダメですよ」

「え? ダメ……なんですか?」

「はい、ちょうどここにポストがありますよね」


 あらたしかに。なんともバッチリなところにポストがありました。


「これを開けてみるとこんな感じに……」

 ダバーッ、とポストの中から可愛らしいお手紙が、意味が分からないくらい大量に出てきました。


「このように、毎日のようにお兄様に宛てて、ラブレターやお見合いを申し込むお手紙が届いていまして。クルクルさんの手紙もきっとこの中に埋もれてしまうと思いますよ」


「な、なんと……。ハリーに連絡をとりたいときはどうしたらいいのでしょう……」

「私に宛ててくださるのがよろしいかと。私に宛てたお手紙は珍しいですからね。クルクルさんのお手紙を見つけたら、お兄様にお届けしますわ。それ以外でお兄様と連絡をとりたい場合は、王城の前で出待ちをすると会えるかもしれませんね」


 で、出待ち……。ハリーは人気芸能人みたいなものなのでしょうか。


「とりあえず、今回は私がお手紙を受け取ってお兄様にお渡ししておきますね」

「ありがとうございます。ライラちゃん、よろしくお願いしますね」

 はーい、と良い子の返事がありました。

「あ、でもいちおう確認ですけど。このお手紙って、お兄様に愛をささやくようなものではないですよね?」


 あら、ライラちゃんがオバケみたいな怖い表情になっていますね。……もしかしてライラちゃんはブラコン? いやまさかそんな。創作物の世界にいる妹キャラじゃあるまいし……。


「はい、安心してくださいませ。そのお手紙には、ハリーのお仕事関係の話しか書いていませんわ」

「でしたら大丈夫です」


 ライラちゃんがニコッと可愛くてたまらないスマイルをくれました。


「では、よろしくお願いしますね」

「任されました~」


 お互いに貴族らしい挨拶をして別れました。

 ハリーからの返事がすぐに来るといいですね。私はこれからラボットさんのところへと行って、特許申請書類をまとめるお手伝いをしましょう。

 私は自慢のくるくる縦ロールの髪をひとさし指でくるくる絡めて遊びながら、ラボットさんのところへと優雅に歩いて行きました。

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