第13話 ドリルを作りましょう
工房の壁にある古びた黒板のところへと歩いていきます。
私はチョークを手に取りました。そして、カツカツと音を立てながら黒板に白い線で絵を描いていきます。
そこに描いた絵は、先の尖ったらせん状の円錐型の魔法道具です。つまり、前世で言うところのドリルですね。ちなみに、この世界では電気を使うことができませんから、魔石の力を使って動かそうと思っています。
ラボットさんは顎に手を当てて真剣な眼差しで黒板を見てくれています。さっきまでの温和な感じはどこかへと行ってしまい、眼光鋭い一人のベテラン職人の顔に変わっています。
「……なんだこりゃ? クルクル嬢、説明をしてもらってもいいか?」
「はい、掘削機……とでも言いましょうか」
ドリルはこの世界にはありませんので、ここでは掘削機と呼ぶ方が伝わりやすいと思いました。
「掘削機? てことは、これで何かが掘れるのか?」
「掘れますね。背景から説明しましょう。……そう、あれは私が、夜のバーでカクテルを何杯も何杯もおかわりしまくっていた夜のことでした」
「やけ酒してたのか……。いろいろあったろうけどさ、そんな飲み方をしていたら身体を壊すぞ……」
「当然、酔い潰れましたわ」
「貴族の女性にあるまじきエピソードだな……」
貴族の女性には品格が求められますので、お店でやけ酒からの酔い潰れなんてあってはならないことですね。まあ、私はやってしまいましたけど……。
「ま、まあいいではないですか。それでそのときに介抱してくれたのが、とても有名なスノーグローブ侯爵様という方だったのです」
「えっ、まさか雪のハリネズミのきみか?」
「ご存知でしたの?」
「俺の妻や娘がファンらしいぞ」
「まあ……、そんなに人気で有名な方だったんですのね……。私、何も知りませんでした」
「ちょっとしたスターって感じだな。超かっこいいのに、どんなに魅力的な女性が迫ってきたとしても、ツンツンした性格で冷たくあしらってしまう。いったい誰があのイケメンを恋に落とせるのかって、俺みたいな高齢の男の間でもけっこう話題になることがあるぞ」
へえー。ハリーはたしかに綺麗なお顔でしたが、まさかそれほどまでに有名だったとは。まあ大きな権力のある侯爵家の人ですから、元々注目を浴びやすくはあったのでしょうけど。
「私はもう少し世間に興味を持った方が良さそうですわね」
「おう。今のクルクル嬢は自由だ。良い男を見つけて、今度こそ幸せをつかみ取るんだぜ」
「って、すっかりハリネズミさんの話になってしまいましたわね。大事なのは彼と出会ったことではなくて、彼が悩んでいた内容についてなんです」
「悩み? 女性問題か? まさかこの掘削機でどうにかできるのか?」
「掘削機でどうにかなる女性問題がこの世にあるとは思えませんが……」
「あはははははっ、そりゃそうだな。で? 何について悩んでたんだ?」
「魔法のダウジングで新しい魔石の鉱脈を見つけたらしいのですが、掘ってみたらとんでもなく硬い岩盤があってビクともしなかったそうで――」
笑顔を見せていたラボットさんがまた職人の顔に戻りました。
「硬い岩盤――。魔法道具の爆弾で爆破するのが一般的だが」
「その爆破を任されたのが」
「クルクル嬢――、つまりロールドーナツ家ってことか?」
「いえ、ビッグバン家ですわ」
「えっ、クルクル嬢はどう絡んでくるんだ?」
「ビッグバン家が任された爆破ですが、結果はどうなったと思います?」
「もう爆破をした後だったのか。クルクル嬢がこんな話を持ってくるってことは、もしかして大失敗したのか?」
私はにっこりとスマイルを見せました。
「ええ、爆破をした結果、岩盤はビクともしなかったそうです」
「あっはっはっは。そりゃ愉快だ。クルクル嬢に不誠実を働くからだよ。こういうところに不誠実のツケは回ってくるものさ」
ラボットさんがすっきりしたように笑ったあと、ふと何かに気がついたようにハッとしました。視線を私の方から黒板へと移動させます。そして改めて職人の眼差しで黒板に描いてある掘削機の絵を見ます。
「クルクル嬢、まさかこの掘削機でその超硬い岩盤を――」
「はいっ、砕いてみせたらスカッとすると思いませんか?」
ラボットさんの目が輝きました。そして、ニカッと笑います。
「それ、最高だな!」
「ですわよね! ラボットさんなら分かってくれると思っていましたわ!」
私はとても心強い味方を手に入れたようです。
ラボットさんはこの道40年の大ベテラン職人。私、いろいろな工房を渡り歩いてお仕事のお手伝いをしてきましたけど、ラボットさんの腕前はこの街に並ぶ者なしって感じです。達人を超えたレジェンド級の腕前だと思っています。
そんなラボットさんが興味を持ってくれるのなら、この掘削機、いえ、ドリルは必ず完成すると思います。
「……だが、クルクル嬢。俺にはこの掘削機の構造がまだよく分からないんだ。このらせん状の円錐の中に魔石を組み込むのか? 爆発系の魔石を組み込むんだよな? だがそうすると、俺にはこの円錐のとんがった先端を何に使うのかが分からなくて……」
ラボットさんの言う円錐のとんがった先端はドリルの先端のことですね。たしかに絵だけを見せられても構造は伝わらないかもしれません。なにせドリルはまだこの世界には存在しないものですから。想像力が追いつかなくても仕方がありません。
ちなみに魔石の説明をしておきますと、火、水、氷、雷、爆発、などなど様々な種類があります。その魔石に魔力を送り込むことで、それぞれ火や水を発生させることができるのです。ただ、それらは全て希少で値段が高いのがネックなんですよね。
しかし、魔石には安価で手に入りやすいノーマルな魔石というものがあります。それは魔力を送り込むことで特定の方向へと強い力を発してくれるだけの地味な魔石なのですが、今回はそのノーマルな魔石を使おうと私は思っています。
「ラボットさん、この掘削機ですが、くるくると回転させることで掘る力を強めていくのですわ」
「は? 掘る? これで? そもそも回転すると掘る力が強まるのか?」
「ええ、たとえば釘を打つときは強く叩かないといけませんが、ネジをくるくる回して締めるときはだいぶ弱い力でもできません?」
「あっ、ああーっ、ああーっ、なるほどな。そういう理屈か。そうか、掘削機っていうのはネジを魔石の力でパワーアップさせて、自動で動かすようにしたものってことか。は~、すげーな。この発想はまだこの世界にはなかった。言われてみればなるほどって感じだよ。いやあ、これは面白い。クルクル嬢、よく考えついたな」
とても興味深そうにラボットさんが黒板に描かれた絵を観察しています。きっとラボットさんの脳内では、掘削機を作るための様々な図面がいくつも描かれていると思います。
「私が思いついたのはここまでですわ。回転部分については効率の良いやり方が思いつかず……。持ち手の部分は回ってはいけませんし。それに安全面についても考えないといけなくて」
「そこは大丈夫だ。俺に任せろ。あ、俺も手伝っていいんだよな。なんだかひさしぶりに職人魂に火がついちゃってよ。早くこれを作ってみたくてしょうがないんだ」
「ええ、ぜひ! 一緒に作りましょう!」
「やったぜ! じゃあ早速、図面に起こして試作からやっていこうぜ」
ラボットさんが面白いものを見つけたときの少年のようにわくわくしています。つられて私も少女のようにわくわくしてしまいました。
ラボットさんは様々な提案をしてくれて、次々に図面を起こしてくれました。そのどれもが、なるほどとうならされるものばかりで、私たちは夜の遅くまで楽しみながら試作をくり返しました。
そしてラボットさんの奥さんに「あんたたち、いつまでやってるんだい」と怒られるまで熱中してしまうのでした。
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