第38話 『吹き荒れろ! スプリングスX(エックス)!』
「スプリングスとゲイラードはどうなっているんだー!?」
砂煙が晴れていく。
そこに一機のドローンの影が浮かび上がった。
ゲイラードである。
「これは、さすがは舞翔選手! なんとゲイラードは無傷だぁ!」
会場がどっと湧き上がる。まさに興奮の
しかし舞翔はそれどころではなかった。
目の前で自分を守るように抱き締めるカランの瞳から、真っ赤な血が
「カランっ!」
悲鳴に近い声を上げる。
けれどカランは舞翔を制するように掌を翳すと、「心配しないでくれ、瞼が少し切れただけだ」と眉を下げ、微笑んだ。
「で、でも!」
「それよりも」
腕で乱暴に血を拭うと、カランはどこか一点を
「スプリングスの姿が見えないが、やはり岩に潰されてしまったかぁ!?」
DJの声が空々しく聞こえて来る。
しかしカランの眼光は
その瞳は真っ直ぐに、ただ一人、ジェシーだけを捉えていた。
「っ! ジェシー!」
マリオンが何かを察し警告のように叫ぶ。
ジェシーはその瞬間、カランの静かなる視線に全身が総毛だった。
穏やかな春を着飾って、その実、その瞳の中に暴風を飼い慣らした――
「スプリングス!」
カランが
それに呼応するように、スプリングスを押し潰していた巨岩が、突如粉々に砕け散った。
突風は吹く。
それは轟々とうねり、花を散らし、時に巨木を
「舞翔に牙を剥いたこと、
カランは叫ぶ。
「貴様だけは絶対に許さん、ジェシーーッッ!」
スプリングスはカランに
「ウェスローグ!」
ジェシーはそれを避けようとした。
しかしまるで蟻地獄のように、風がスプリングスに向かって吹いている。
その激しい風に巻き取られ、ウェスローグは思うように逃げられない。
「くそっっ、舐めるなぁぁぁあああああ!」
最早ここまで、ならば。
ウェスローグは逃げるのを辞めると、全身全霊でスプリングスへと突っ込んだ。
激しい
「これはっ! スプリングスとウェスローグの真っ向勝負だー!」
会場中の皆が、その勝敗を固唾を飲んで見守った。
静寂が下りる。
やがて視界が徐々に晴れていく中、ゆらり飛んでいる一機の影が浮かび上がった。
「っっす、すごい、すごいよカラン!」
舞翔の歓喜の声と共に、会場中がどっと沸き上がった。
飛んでいたのはスプリングスだ。
そしてその下に、砕けたウェスローズが墜ちている。
「スプリングスX《エックス》、俺の新しい相棒だ」
そう言って爽やかに笑ったカランはぼろぼろだった。
直後がくりと膝から崩れ落ちるのを、舞翔が咄嗟に抱き留める。
「カラン!」
「はは、すまない舞翔……少し、疲れたみたいだ」
「っ、大丈夫。後は私に任せて!」
「結局、舞翔に託すことになってしまったな」
カランは本当に申し訳なさそうに情けなく眉を下げた。
けれども舞翔は精一杯に首を振ると、「そんなことない!」と大声を出す。
「すごくすっごく格好良かったよ、カラン!」
舞翔は胸が熱くなるのを抑えきれなかった。
『スプリングスX』。
見た目はほとんど変わらず、しかし中のモーターやパーツが、カランの戦闘スタイルによりフィットした最新型となり、機動力や風速が格段にアップした、新機体である。
本来ならば、もう少し後の中央アジア戦でお目見えするはずだったのだが、そんなことより舞翔は興奮冷めやらず、思わず瞳が爛々と輝く。
その瞳に、カランは少しだけ泣きそうな顔で微笑んだ。
(あぁ、そうだ。俺は君の、その目がどうしようもなく好きなんだ)
誰よりも、何よりも、バトルドローンを愛してやまないその瞳。
「おい、てめぇら」
しかしそんな二人を引き裂くように、地を這うような重々しい声が響いた。
「覚悟は出来てるんだろうなぁ?」
マリオンの瞳は獰猛に見開かれ、怒りが空気を伝ってぴりぴりと伝わってくるようだ。
しかしそれに反して、ウィルザイルは不気味なほどに静かに中空で停止していた。
「そっちこそ、覚悟は出来てるの?」
舞翔は振り返る。
その瞳は
「さぁ、風を奏でよう! ゲイラード!」
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