小春日和の並行世界 「不動の男」

vega猫

第1話

暖かい小春日和の日差しが注がれている道を子供達の愉しげなざわめきが通り過ぎてゆく。


「……動くな」


 下に見える艶やかな髪の男の頭から響いてくる。


昨夜の冷たい風はおさまり、

 静かな休日の昼前に、外の陽光の世界とは別の

薄暗い部屋の中、T美はベッドに腰掛けている。

 

 剥き出しの下肢は両側から腕に掴まれていて動けない、

 右太腿に絡まる男の左指が、右手指と絡み合っている。

 男が導く快感に波打つ震えが止まらない。


 1週間前初めて会った男の腕にチカラが入る。

「ちゃんと濡れてる……な、」


 微かに笑いを含んだ声に続けて、ジュルッと吸い上げられた音、

 チュっ 濡れた響きに、頭の芯と子宮の奥に快感を伴った痺れが走り、何も考えられなくなってくる。

 駄目としか言えない女の声を無視して、男の舌が更に強く吸い上げてくる。

 

「何が駄目なんだ、こんなに赤く固くなってるのに、」

 長い指が入ってきた、

 両方からの刺激

 

 

  その余りの気持ちよさと羞恥に、駆け上がってくる絶頂に耐えられなく、

「あぁ、……んぐッ、もう、ハッァアァー!」

 と、女はその腕にしがみついて甘酸っぱい爆発の中、果ててしまった。

約束通りに、 女の右手と男の左手は繋がれたまま、握り合って、離れない。

 ――――――――

 U紀雄は、艶のある黒髪と切れ長の瞳、人によっては振り向かれる涼しげな顔で程良くガッチリとした体躯なので、割とモテる。

 なのに、恋愛が下手くそなのである。


 向こうから告白されて付き合い始めて、好きになってきたな、と言う時期になると、相手から

「何を考えているのか?分からなくて辛い」

 と別れを切り出されてしまう。


 先週もまた振られたようだった。

 相手から連絡が来ないので、段々と立ち消えになっていき、終わる。いつもと同じだ。


 IT仕事は何とかこなせているし、大学を出てからずっと1人で生きて来た。


 でも、しかし、

 自分は何も変化して無いとため息まじりに自嘲する。

 

 30歳越えてマトモに女性と長く付き合えてない


 いや経験はある、両手ではきかない女性たちを抱いて来た。

 けれども、どれも同じ事しかしてない。

 過去の体験は薄っすらとしたモノにしか見えない。

 (だいたいは悦んで貰ったと思うのにな……)

 それでも、どの女性たちも顔をハッキリと思い出せない、

 いや覚えていないのだ、

 俺は失礼過ぎる。


 苦笑する。


 自分はこれからどうしたいのかもわからない。

 (機械的ですらあるな)

 何か違うような気がするのに、何をどうすれば良いのか?

 これって生きてるわけ? 波のあまり無い感情が珍しく低空に漂って、いつまでも揺れている。

 

 日々の生活の下に溜まってくる泥がある、その下に埋まってるモノを探す手立てすら、不明なのだ……。


 ある閉鎖系SNSに参加してみた、成人しか入れない「節度を持った大人の会話が成立する場」という趣旨だった。

 社会生活ではおいそれとは語れない性の話とか悩みなどが展開されてる。

 SMのパートナーとの出会いとか、赤裸々な物語や、軽いエッチな会話が続いていたり、趣味の話が盛り上がってる時もある。


 U紀雄にしても、なかなか興味深いので、自分からは発信せず眺めていた。

 その内、面白そうな会話には少しずつ参加させて貰っていた。いつの間にか毎晩通うサイトになっていた。

 

 U紀雄は職種柄パソコンやネットに詳しいので、その方面でコメントなどを主にしていた。


 女性と思しきアカウントも勿論存在するが、まぁ、本当はどうだろうなとネット世界に生きる身としては、話半分に見ていた。


 そんな中にT美が居た。


 彼女は時々、本の感想や同棲してるパートナーとの話、時には官能的な自由詩をアップしていた。

 それは読むと胸の奥が刺激された。


 刺激し合える相手が居るのが羨ましい、、。心底思った。

 

 なので、ある時、彼女の官能的な詩に自分なりの返歌もアップしてしまった。

 (お邪魔かも知れないが、此処はこう言う場所だし……)


 あにはからんや、返歌ありがとうと言われた。

 くすぐったい気分になった。

 そして、たまに会話をする間柄になっていた。


 ――――――――――――

 有る時、個人のメッセージボックスに彼女から連絡と言うか相談が入っていた。


 どうやら、個人的なメッセージを何回も送りつけて、付き纏う輩がいるらしい。その相談だった。

 あぁ、こう言うサイトでは何も発言せず眺めているモブ達がいる。

 そして、己の歪みと欲望を相手にぶつけて、無茶な望みを弱そうな相手に押し付ける野郎が湧き出てくるのだ。

 ネットの世界で生きてきたので良く知っている。

 

 T美は初めてそんな輩に絡まれて、怯えている様子だ。

U紀雄がネットに詳しそうだったから相談してくれたらしい。

 少し意外だったが、頼りにされて嬉しかった。


 ――――――――

「T美さんは悩まないで居て欲しいです、もしも◯◯でしたら◯されると良いと思います」

 対策と自身の経験など入れて返信した。

 数日後、丁寧なお礼のメールが届いていた。

 本当にホッとしたらしい。

 こんな交流も新鮮だ。自分が感謝されるのはくすぐったいが、嬉しかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

小春日和の並行世界 「不動の男」 vega猫 @lila_rose

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ