第20話 ギャラリー







  3回の表、守備についた俺たちは、再び流しそうめんを楽しみたいところであったが、セットの前に集まる観衆たちで賑わっているため、どうやら俺たちの分まで回ってくる様子もない。


 昼休み終わりも近く、生徒の数はまばらだが、ランチ難民になった教職員、近場の企業のサラリーマン、果ては38式歩兵銃のモデルガンを背負ったおじいちゃんたちは……多分、老人ホームから脱走してきた模様。


 流しそうめんを楽しんだら、職員に見つかる前に帰るといいぜ?


「敬礼!」


 そのうちの1人のじいさんが、俺を見るなり直立不動の姿勢から見事な敬礼を送ってくれたのだが、俺はあなたの上官ではないし、そもそも年代が違うし、なによりも前前世、前世と違って俺はただの高校生だ。


 あなたたちが国を守ってくれたから、俺は平和な世界で過ごせるんだ。


「軍曹どの! 今のところ異常はありません!」


 ああ、御苦労……俺、誰と間違われているんだろうね?


 じいさんズにいくら人違いと説明しても埒があかないので、話を合わせておいて、原隊(老人ホーム)に復帰するよう促し、ほどほどのところでこの場から離れるよう伝えた。


 当時とは違う意味で、弾(球)が飛んでくるかもしれず、危ないのでついでに民間人(流しそうめんを食ってるギャラリー)たちを避難誘導するように付け加えた。


 命令を受領したじいさんズたちは、忠実に任務をこなしてくれたので、一先ず安心と言ったところ。


『CRACK!』


 ああ、噂をすれば本当に球が飛んでくるもので、打てない・走れない・守れない9番DHを自称するセンターの俺だが、無難にキャッチしてスリーアウトチェンジ。


 今回は三者凡退に抑えたサウスポーウィラの本領が発揮された。



 3回の裏の攻撃は、クソチビポメ柴から始まる。


 前の打席では三冠王の最終打席のようなファーストゴロだったが、今度はうまく流し打ちでライト前ヒット。


 ピッチャーを交代したバナナボール部の披露した、新たな大道芸、燃える球を投げてきたもののクソチビポメ柴は臆することなく、涼しげな表情で芸術的なバッティングを披露したのだ。


 続くナギ姐は、クソチビポメ柴の盗塁を援護し、空振り三振に倒れたもののワンアウト2塁とチャンス拡大。


 このチャンスを広げるべく、ウィラはセーフティバントを試みたが……ああ、またしてもバナナボールのルールにより、アウトをコールされて抗議したのは言うまでもない。


 バナナボールにおいて、バントを試みる行為は、アウトを宣告されるのがルール。


 通常の野球のルールという先入観から忘れがちだが、ウィラはしぶしぶとベンチに引き上げる他なかった。


 続く兄貴は、またしても内股が特徴的なスコーピオン打法を披露し、シングルヒットで出塁したが、打球は浅いところだったのでクソチビポメ柴は3塁でストップ。


 ガニ股打法のカズサさんは、ファールフライを打ち上げ、燃える球をギャラリーにキャッチされてスリーアウト、チェンジ。


 しかし、よくもまあ、観客は燃える球を捕球したものだよね?————。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る