第36話 スルト、パーティーに加入する

「……とにかく、これで戦力は大幅に向上したな。スルトが来てくれた事でこちらの戦力は圧倒的に有利になった。向こうも追撃を選ばずに撤退を選択したという事はこの奥で何かしらの対策を練った上で待ち構えているのは間違いないとは思うが、さっきまでの様に直接対決に持ち込めれば今度こそこちらの勝ちだろう」


 そう自分が言うと、自分から引き剥がされて簀巻き状態になって地面に転がっているスルトが言う。


「……相変わらず冷静な判断と分析能力だなアイル。それだけに何故あいつらに不覚を取っていたのかが疑問だな」


 フウカがため息を吐きながら会話を引き継ぐ。


「……様子を見ていたなら分かるだろう。あいつら……特にアイルが対峙していた方の魔族は中々の手練だ。鉱山を極力傷付けずに戦っていたアイルの苦労も察してから口を開け。あと、隙あらばアイルに抱き着こうとするのも止めろ。だから今そんな目にあうのだ」


 自分から離れようとしないスルトをフウカとどうにか力尽くで引っ剥がし、会話を進めるためにスルトを拘束してようやく話が先に進み始めた。そんな自分たちを見ていたオルリアが不意に話に加わる。


「……ねぇ、落ち着いたところで一つ聞いて良い?スルトって言ったわよね。あんた、どうやって私たちの後をつけて来たの?時々、ほんの少し違和感を感じたけれど、あんたの気配は一切感知出来なかった。さっきもそう……まるで、何もない所からいきなり現れた様に感じたんだけれど」


 オルリアの言葉に自分もフウカも驚くが、何よりも驚愕していたのはスルトだった。寝転がった状態でオルリアの方を見ながら口を開く。


「……オルリアと言ったか?アイル、彼女は何かの『祝福ギフト』持ちか?でなければ今の言葉に説明が付かないのだが」


 スルトの問いに自分が答える。


「……さぁな。俺にもよく分からない。ただ、オルリアが俺たちとは比べ物にならないくらいに気配の探知能力に優れているのは確かだな」


 そう言ったところでスルトが自分に向かって言う。


「アイル、こいつを解いてくれないか?オルリアには見てもらった方が早いだろう。今は……少なくともこの件が片付くまではお前に迫らないと誓うからどうだ?」


 今は、ではなく未来永劫迫らないで欲しいと思うものの、スルトの言葉に嘘が無い事は分かったし、スルトの言う通りだと思ったので拘束を外してやる事にした。自由の身となったスルトがオルリアの方に向かって言う。


「ふぅ……じゃあ説明するとしようかオルリア。俺の気配が感じられなかった理由は……こいつだよ」


 そう言ってスルトが取り出したのは少し薄汚れたフードの付いたローブだった。それを見てオルリアが言う。


「何それ?ただのローブじゃない。それが何なの?」


 オルリアがそう言ったところで、スルトに変わって自分が会話を引き継ぐ。


「まぁそのままスルトを見てろよオルリア。すぐに分かるからさ」


 自分がそう言ったと同時にスルトがローブを羽織る。それと同時に自分たちの目の前からスルトの姿が一瞬で消える。


「……えっ!?ちょっ……?な、何が起きたのアイル?スルトの姿が消えたんだけど!?」


 目の前で起きた光景が信じられないのかオルリアが動揺して自分に声を掛けてくる。


「落ち着けオルリア。すぐに出てくるよ」


 自分がオルリアにそう答えた次の瞬間、再びスルトが目の前に姿を現す。オルリアが言葉を発するより早くスルトが口を開く。


「こいつが俺の気配を完全に消せる秘密だ。この『隠者の外套』の効力でな」


 羽織っていたローブを肩から外してスルトが言った。


「えっ!?……じ、じゃあスルトがいきなり消えたり姿を現したりしたのはそのローブのお陰って事?」


 オルリアの言葉に頷いてから答える。


「あぁ。このローブを羽織ることで完全に自分の気配、いや存在を消す事が出来る魔術道具マジック・アイテム。それが『隠者の外套』の効力だよ」


 その目で見てもまだ信じられないといった表情のオルリアにスルトが声をかける。


「俺の気配が感知出来なかったのは分かったかな?……だがお前たちの後をつける際、俺はこれを完全に脱いではいない。せいぜい風を通す際に少し前を緩めて開いたくらいか。考えられないが、その時僅かに漏れた気配を察知したという可能性があるが」


 スルトの言葉に自分もその可能性が高いのではないかと思った。自分たちには及びもしない僅かな気配をオルリアが敏感に察知したのだろうと。


「もしかしたらオルリアにも何かしらの『祝福ギフト』が備わっているのかもな。まぁそれはおいおい調べてみれば良いさ」


 そんな風に話していると、オルリアが口を開く。


「……ねぇ、スルトのそのローブをアイルが着て、あいつらに特大の威力の技や魔法をぶっ放すっていうのは駄目なの?気付かれないならそれでいけるんじゃないの?」


 オルリアの言葉に首を振る。スルトの方に向かって声をかける。


「そう出来たら話は早いんだけどな。スルト、ちょいとそいつを貸してくれ」


 スルトから『隠者の外套』を受け取り、オルリアに手渡しながら言う。


「ほれ。こいつを着てみろオルリア。いいか?ローブを着たら絶対その場から動くなよ」


 自分の言葉に不思議そうな表情を浮かべつつも受け取り『隠者の外套』を羽織るオルリア。その瞬間オルリアの姿と気配が目の前から消える。姿がかき消えるその瞬間、オルリアの声が響く。


「なっ……!」


 オルリアの声が消えると同時、間髪入れずに叫ぶ。


「落ち着けオルリア!焦らずそのローブを脱ぐんだ!」


 そう自分が声を上げたその数十秒後、ローブを脱いだオルリアが姿を現す。その顔には汗がじんわりと浮かんでいた。


「お、自力で脱げたか。お前なら大丈夫だと思っていたけど、万一の事もあるからその場から動くなって言ったけど取り越し苦労だったな」


 そう自分が声をかけるとオルリアが即座に叫ぶ。


「何!?何なのこれ!?羽織った瞬間とんでもない重さがのしかかってきたんだけど!動くどころかこれを脱ぐのがやっとだったわよ!?」


 そう言いながらローブを叩き付けるように地面に投げる。それを拾ってオルリアに声をかける。


「分かったか?こいつは確かに姿を消す事が出来る魔術道具マジック・アイテムなんだが、纏った者の身体をとんでもなく重くさせる『呪い』が付与される曰く付きの代物なんだよ。いくら気配と姿を消せたとしても、その状態じゃまともに動く事は出来ないって訳さ」


 自分の言葉にオルリアが怪訝そうにスルトを見て言う。


「それは分かったけど……じゃあ何でスルトはそれを纏ったのに普通に動けるのよ?」


 オルリアの問いにスルトが会話を引き継ぐ形で答える。


「あぁ。それは俺の持つ『祝福ギフト』のお陰だな。『耐重力』と『神速』。この二つの能力で俺はこいつを自在に扱えているって訳さ」


 スルトの答えにオルリアが再び口を開く。


「……『耐重力』と……『神速』?」


 スルトの代わりに自分がオルリアに説明する。


「『耐重力』は簡単に言えばどんな重圧や振動にも耐えられる能力さ。俺たちが立っていられないような地震や重力の中でもこいつは平然とスキップ出来るって感じって言えば伝わりやすいか?」


 オルリアが頷くのを確認して言葉を続ける。


「で、『神速』は言葉通りその場で瞬間的にとんでもない速度で移動や跳躍する事が可能だ。ま、呪いの道具である『隠者の外套』を使いこなすにはスルトはこれ以上ないくらいの『祝福ギフト』持ちって訳さ」


 それを聞いてオルリアがスルトとローブを交互に見ながら言う。


「なるほどね。……つまりスルトだからこそそれを使いこなせるって訳ね。納得よ」


 オルリアの言葉に頷き、再び会話を続ける。


「よし。それじゃあ改めて奥に向かう前に作戦を立てよう。向こうも何の策も無しに俺たちを迎えるって事は考えられないからな。まず、考えられる事としては……」


 それから最小限の時間の中で、四人で奥に向かう前に待ち構えているであろうカーミたちに向けて対策を練る事となった。

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