第30話 魔族、能力を発揮する

祝福ギフト』とは、魔族に限らず一部の人間が保有する本人独自の固有スキルである。


 本来のスキルや魔法のように修行の末に身に付ける類のものではなく、生まれながらに持った資質というより才能である。『祝福ギフト』の発動条件は人も魔族もそれぞれ異なり自然に発動出来る者もいれば、ある日突然何らかのきっかけで発動する者もいる。


 それ故に発動した能力が己の資質に上手く噛み合う者もいれば、相性が悪いという次元を通り越して何の役にも立たないスキルを発動する者も存在する。だが、どんなスキルであれどもそれを保有しかつ自在に発動出来る者はかなり希少な存在となる。更に言えばごく限られた一部の者はこの『祝福ギフト』)を複数所持している。


(『硬質化』のスキルは人間も魔族も発動可能なスキルだ。文字通り自分の防御力を飛躍的に高める事が出来るという単純明快なものだ。……しかし、ただでさえ物理に耐性のある魔族がそれを所持しているとなると、相当厄介だな)


 事実、カーミもトーサも『硬質化』のスキルを発動させてからはかすり傷程度のダメージしか与えられていない。その時点でこの二体の魔族が保有する『硬質化』のレベルが相当高い事を証明している。


(……こいつら本来の資質と相性が上手い具合に噛み合ったパターンだな。俺たちからしたら最悪の状況だな)


 カーミとトーサを見る限り、どちらも近接戦を得意としているようだ。魔法や遠距離系の攻撃を制限なく使える状況ならともかく、鉱山という限られた空間の中で崩落を避けつつ戦わなければならない自分たちにはかなり分が悪いと思った。


「……なるほどな。お前たちのどちらも『祝福ギフト』を持ち合わせている訳か。こりゃ、ますますやり辛いな」


 そう言いながらトーサと対峙しているオルリアとフウカの様子を見る。二人の前に立つトーサはカーミと違い、その全身をどす黒く変色させている。どうやら体の一部ではなく全身を『硬質化』する事が可能なようだ。


「……まさか能力を発動させる事になるとはな。どうやらお前たちの実力を見くびっていたようだ。特にそちらの魔族よ。半端者と言った言葉は取り消させて貰おう」


 オルリアたちを見ながらトーサがそう言った。


「……急に冷静になられると変な感じね。何か調子が狂うわ。ただ、吐いた言葉は飲み込めないわ。報いは受けてもらうわよ」


 魔剣を構えながらオルリアが言う。フウカも鉄爪を手にしてそれに続く。


「焦るなオルリア。仕掛けるのはまだ後だ。……こいつ、先程までと様子が違う。心して仕掛けるぞ」


 二人の様子を見て、さっきまでの様にはいかない事を察知していた為ひとまず安心する。引き続き二人にはトーサの相手に専念して貰う事にする。


(……さて、あっちは二人に任せるとして俺はこいつを何とかしないといけないな。こいつは何としてでもここで仕留める必要がある)


 そう思って目の前のカーミを睨む。先程まで発動していた『硬質化』によって黒に変色していた右腕は元の色に戻っている。その事からカーミのスキルを推察する。


(おそらく、こいつは自分の望む部位を思いのままに『硬質化』する事が出来るはずだ。攻撃の際には腕を、防御の際には狙われた箇所を瞬時に『硬質化』を発動する事によって攻守の際に巧みに使い分けているんだろう。トーサの様に全身ではなく一部を瞬間的に強化する分、その硬度は桁違いのはずだ)


『硬質化』はシンプルな能力故に応用が利きやすい。相手にするには厄介な能力の一つである。そう思っているとカーミが構えて言う。


「さぁ、戦闘再開だ。お前の強さに敬意を込めて名前を呼ばせて貰う。行くぞアイルっ!」


 そう叫ぶと同時、カーミが瞬時に自分に飛び掛ってきた。


「くっ……!」


 カーミの攻撃をどうにか剣で弾きながら耐える。攻撃の際に『硬質化』での一撃とこちらの反撃に備えながら普通の一撃を織り交ぜてくるためかなり厄介である。


(……分かってはいたが、かなり強い!自分の能力を完璧に把握してそれを最大限に活かして戦えるタイプだ!)


 ここが鉱山でなければ距離を置きつつ遠距離から放てる技や魔法を放つ戦略もあるがそれは出来ない。カーミの猛攻を受け流しながら反撃の一手を考える。立て続けに攻撃をこちらに放ちながらカーミが口を開く。


「……やはりお前は強いな。勇者の名に偽りは無し、だな。ここまで完璧に攻撃を受け流されるとは思わなかったよ」


 そう言いながらも攻撃の手を止めないカーミ。その攻撃を一つ一つ受け流しながらこちらも言葉を返す。


「お褒めに預かり光栄だよ。こっちも久々に本気で戦っているから……よっ!」


『硬質化』で強化された爪で繰り出された一撃を受け止め、勢いを付けて弾き返す。追撃を避けるべくその反動で後ろに飛び退き距離を置く。


(……思った以上にやり辛いな。とにかく攻守共に中々隙がない。一撃で仕留めるのはまず不可能だ。どうにかまずは相手に一撃を叩き込む必要があるな)


 そう思っていると、向こうもそう思ったのかカーミが口を開く。


「……このままでは埒が明かないな。見たところ横の二人もかなりの手練れのようだ。トーサ一人では荷が重いだろうな」


 この状況でそう冷静にカーミが言う。自分との攻防の最中でもオルリアたちの様子を観察していた事に改めてカーミが参謀や司令塔を勤めるクラスの優秀な魔族であ

ることを悟る。だが、自分たちもここで引くわけにはいかない。


「……だろうな。でなけりゃここにはいないからな。それに、お前たちには悪いが俺たちも退くわけにはいかないからな。悪いがここで仕留めさせて貰うぜ」


 そう言って地面を蹴り上げ反撃に移るべくカーミ目掛けて剣を振り下ろした。自分の剣がカーミの首を刎ね飛ばさんとしたその瞬間、カーミが口を開く。


「……流石の速さだ。だが、私の『祝福ギフト』が一つだとは言っていないよな?」


 確実に首を捕らえたと思った自分の剣は空を切り、耳元でカーミが叫ぶ。


「渦巻け!『螺旋』!」


『硬質化』によって硬度を増し、更に『螺旋』を発動したカーミの一撃が自分の胸元へと突き刺さった。次の瞬間、自分の体は勢い良く宙へと打ち上げられた。

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