第26話 アイル、戦いに備え準備する
「……近いな。ここから先はいつ向こうから襲い掛かられるか分からない。気を付けて進もう」
自分の言葉に二人が無言で頷く。オルリアの気配探知能力がいかに優れていようと油断は禁物だ。魔族や一部の人間は完全に気配を消せる隠密スキルを持ち合わせる者がいるし、こちらの予想もしない行動を取る事も充分に考えられる。
(……加えてここが鉱山っていうのも条件が悪い。攻撃の幅に制限が加わるのも厄介だ)
ここや洞窟のようなダンジョンの場合、自由に動き回れる平地との戦闘とは違うため攻守ともに距離を取りづらい。加えて下手に魔法や大技を放てば落盤や崩落の恐れもある。
(元々格闘スタイルのフウカと剣で戦うオルリアにはあまり支障はないが、俺の魔法や道具は色々考えて使わないといけないだろうな。それなら……)
鉱山という場所柄、爆発系や振動系はご法度。自分や仲間を巻き込む恐れのある広範囲系の魔法も使わない方が良いだろう。そんな事を試行錯誤しているとフウカから声を掛けられる。
「あまり先に考え込まない方が良いぞアイル。大丈夫だ。結果としてお前が判断を誤った事など過去にほとんどなかっただろう?」
まるで思考を悟られたかの様にフウカが言う。自分が何を考えているのかを見通されていたようだ。
「……あぁ。そうだな。対峙してみなけりゃ分からないよな。……っていうか、そんなに顔に出てたか俺?」
苦笑しながら言葉を返すとフウカも少し笑って言う。
「ふふっ。どれだけの付き合いだと思っている?一つの目的に対して数通りの手順を想定してから動くお前の事だ。おそらく戦う前から自分の攻め手を絞る事でも考えていたのだろう?」
完全に思考を読まれていたようである。自分の表情を見たフウカが苦笑する。
「……まぁ、それがお前の長所でもあるのだがな。事実、お前のその判断で私達は何度も危機を脱する事が出来たし命を救われた。それが積み重なった結果、こうして魔王を倒してここにいるのだからな」
フウカの言葉で少し緊張がほぐれる。確かに思考がデメリットばかりに囚われていた気がする。そうだ。逆にこの地形を利用する手段や攻め手を考えていけば良いのだ。
「ありがとな。ちょいと煮詰まっていたけど少し発想を変えて考えられそうだよ。助かったよフウカ」
そう礼を言うとフウカが無言で頷き笑う。その流れを後ろでオルリアが何故かジト目で不機嫌そうな口調でつぶやく。
「……なーんか、プチ二人だけの世界になっているところ悪いんですけど、そろそろよ。向こうもこっちに気付き始めたみたい」
オルリアの言葉に意識を切り替える。確かに魔族の気配が先程までとは違う。こちらの存在に気付いたのか、向こうでも何やら動きがあるのを察知した。この時点でこの奥に控える魔族たちが今までとは違うのを肌で感じる。
「だな。ここから先の魔族は今までとレベルが違うみたいだな。二人とも気を付けてくれよ」
二人が頷いたのを確認し、更に奥へと歩みを進めた。隣を歩くオルリアが歩みを止めて声を掛けてきた。
「来たわ。ゆっくりだけどこっちに向かってくる。しかも一気に数体。ここに来たと同時に迎え撃つわよ」
オルリアが剣を構える。自分も戦いに備えるため『賢人の皮袋』を広げて腰に携えていた『王者の剣』をしまい、代わりに一本の剣を取り出す。
「え?何で武器を変えるのアイル?今あんたが持っている剣、かなりの業物じゃないの。それにその剣、何か光の刃みたいなのも出せるしその剣のままで良いんじゃないの?」
袋から取り出した剣を鞘から抜き、刀身を眺めつつオルリアに言葉を返す。
「あぁ。お前の通り単純な威力や切れ味ならさっきの剣が強いし物理的な破壊力も上だよ。だが、こいつには特別な効果があってだな。ちょっと待ってくれ。今からすぐにそれを見せてやるよ」
そう言って剣を握り魔力を込める。発動出来る条件が整ったところで魔法を唱える。
「……魔法剣『対魔光』!」
次の瞬間、先程まで銀色だった刀身の色が鮮やかに白く光り輝く。その光が徐々に弱まり、淡く白色に色を変えた刃が姿を現した。
「……えっ?どういう事?剣の色が変わったわよね?それに魔法剣って……」
自分の剣をしげしげと眺めながら尋ねてくるオルリアに回答する。
「そうだよな。説明しなきゃ分からないよな。簡単に言えばこいつは『魔法を宿す事が出来る剣』なんだよ。ま、厳密に言えばこの剣だけじゃなくても純度の高い銀や白金の剣とかでも可能なんだけどな。ただ、こいつは特殊な金属で作られた剣で、ほぼ全ての攻撃魔法を剣に込める事が出来るのさ。しかも何回もな」
厳密に言えば込められる魔法にも例外もあり、普通の剣では一度かけた魔法をかけ直す事はまず出来ない上、剣が魔力に耐え切れず使っている内に壊れる事もあるのだが、魔族が迫る中でその様な詳細は一旦省略する事にして話を続ける。
「って事で今回はほとんどの魔族に通用する魔法『対魔光』をこの剣に宿したのさ。これで物理や一部の属性に耐性がある魔族でも普通の魔物を相手にするように戦えるようになったって訳だ。『王者の剣』よりも軽い分、片手でも扱えるし立ち回りも楽だからな。さ、向こうの襲来に備えるとしようぜ」
オルリアに話している間にも徐々に迫る魔族の気配を感じ、剣を構えながらそう呟いた。
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