第14話 俺達って、ホントのとこどうなのよ


「ひ、ひいお祖父さんに会ってきた?」

 小林は、エリスの言ったことを復唱した。エリスが答える。

「そう、真壁玄水、ウチの真謳会の教祖様……」

「そんな人が、まだ生きてるんだ」

「ううん、そうじゃない。ちょっと過去へ旅をしてきたの……」

「なぬ?……………」


 その時、道の下の方で、聞きなれた教員の声がした。

「おうい!そこの二人、何処へ行く!ちょっと待て!」

 指導部の教師、石田の声だった。他に体育教師の松宮、制服の警官も一人いた。

石田は声をかけたものの、口を開けて言葉を失ってしまった。“そこの二人”ではなくて、明らかに異様な人間がもう一人いるからだ。ピエロのような被り物を着ている。しかも、背中に猟銃を背負っている。教師二人は顔を見合わせる。そして警官の方を見る。

「あれって、まさかライフルですか?」

「いや、ちょっとここからでは………でも、かなり古い猟銃のように見えます」

「モデルガンっていうことは?……」

「サバイバルで使うソフトガンは、マシンガンタイプが多いと思うので、あれはちょっと有りえないですね。もちろん猟銃は許可制だから、この地域で持ってる人はいないでしょう」

 教師二人は、また顔を見合わせる。

「あの変な奴、ウチの生徒だろうか……」

 石田に言われて、松宮は腕時計を見る。

「クラスごとの朝礼はまだ始まっていない。早急に、担任に欠席者を含めた人数の確認をさせないと……」

 石田はスマホを出して、教頭に電話をかけ始めた。警官もその場を離れて、下に停めてあるパトカーの方へ戻って行った。今ここにいる三人の立場としては、それぞれの上の者に確認が必要な事態となったことは明らかだった。


 石田や松宮が聞いている話は、小林という生徒が、昨夜から行方不明になって、警察から学校に連絡があった。担任の教師高山が自宅に行くと、小林は帰ってきたが、また家を飛び出し、コンビニの前で喧嘩騒ぎを起こした。そして小林を追っていた教師高山が交通事故を起こす。さらに小林と思える生徒が、学校で消火剤をまき散らして、校長室にいた女子生徒、真壁エリスを連れ出したことなどだった。しかし、ここに来て全く未確認の第三の人物が現れた。しかも、その人物は、極めて危険な凶器を保持しているかもしれないのである。これは、当初の予想を超えた事態である。

 確かに、目立たない生徒だった小林が、一度にこんな事件を起こした背景に、誰か別の人物がいて糸を引いたということは大いに考えられる。これは、学校幹部を呼んで、対策を練り直さざる負えない、と石田は考えた。


 俺達は、教師たちが追ってこない様子なので、また滝ノ水公園の頂上広場を目指して歩き始めた。あ、でも………なぜ、俺達は頂上の広場へ行こうとしてるんだろう。

確かによく考えてみると、何の理由もない。まるで自分の意志とは関係なく動かされてるような気がする。思い出してみると、今日はずっとそんな感じだった。

 俺は振り返ってタルポを見た。ただ見ただけなのに、タルポは即座に「何だよ」と言う。表情は分からないが、百パーセントおやじ声で、嫌な感じは変わらない。俺の思いに気づいて、小林も自分の中で話しかけてきた。

「そうだよな、俺達何しに来たんだ?」

「動かされてるような気がしない?」

「する。それに、あの人類滅亡はどうなったんだろう……」

 小林が、そうつぶやいた時、エリスのスマホが鳴った。

「あっ、おかあさん?」

(エリス、あなた何処にいるの?大丈夫?)

「大丈夫だけど、今、滝ノ水公園にいる」

(やっぱりそうなの?それで、そこに、ひょっとして……危ない人いない?)

「いる。めっちゃ危険な人がいる」

(逃げ出すことは出来ないの?)

「わからない………」

(今、わたし、そっちへ向かってるから、無理はしないで。警察にも連絡してあるからね……くれぐれも無理はしないで)

 電話は一方的に切れてしまった。俺達とエリスは、自分たちが自らの意思に関わりなくここまで来てしまってる事実をあらためて考えている。そして、ここから逃れるためには、目の前の、猟銃を持った正体不明の宇宙人の許可が必要なのに違いない。

 タルポは、俺達の思いに気づいたらしく、下から追い立てるように歩を進めながら言った。

「逃げ出そうなんて思うなよ。特にエリス、お前は必要な人間だ……」

 タルポはそう言うと、背負っていた猟銃を前に回し、両手で持ち直した。

「この銃がオモチャじゃないことは、お前は知ってるはずだ」

 このタルポの脅しを聞いて、エリスがおびえるんじゃないかと俺は思った。でも、とんでもない思い違いだった。エリスは、今まで見たことのない鋭い視線でタルポを見下ろし、「こいつ、蹴り入れてやろうかな……」と言った。

エリスが真謳会の道場で拳法をやっていることは聞いたことがある。エリスならやりかねない。小林があわてて手を振る。

「こいつ、変な力持ってるから……」

 小林は、最初にタルポに会った時、触れられただけで倒れてしまったことを思い出しているみたいだ。俺は、思い切ってタルポに訊いてみた。

「この上に行って、何があるんだ?」

 タルポは一瞬の間をおいて答えた。

「お前らはここで………母船が来るのを待つんだ」

「ぼせん?……」

「宇宙船だよ」

 俺達は少し考えていた。エリスも俺達の方を見ている。俺は、一番訊きたいことを口にした。

「お前、本当に宇宙人なのか……」

「ワシは、最初からそう言ってる。何度も言わせるな」

 エリスは、ついさっきの不思議な出来事を思い出していた。会ったことのないひいお祖父さんに会ったこと。そしてその時、このタルポは私に、その人が殺人者になることを思いとどまらせた。それは、私にとって有意義で充実した時間だった。それはいいことだったに違いない。でも、今目の前にいるタルポからは、邪悪なものしか伝わって来ない。今は、自分の感性を信じた方がいいとエリスは思った。


 三人は、ついに滝ノ水公園の頂上の広場についてしまった。円形のだだっ広い空間だけがある。確かに、宇宙船が降りてくるには最高の舞台かもしれない。


 エリスの母、真壁蒼幻斎は、滝ノ水公園に向けて走らせているベンツの後部座席にいた。さっきエリスと話したスマホを手にしていたのだが、そのスマホが一度だけ振動して、画面が真っ黒になってしまった。よくあるスマホの不調だろうと思いバッグに仕舞おうとした瞬間、表情がこわばり目の動きが止まってしまう。口だけが動き、

「車を止めて、ゆっくりと……」と言った。運転手が車を止めると、後ろについて来ていたバスも止まってしまった。今度は、蒼幻斎は指だけを動かして、先に行かせなさいと指示した。運転手が腕を出してバスを先に行かせると、蒼幻斎は静かに目を閉じた。横にいるソデは、“お告げ”があることを悟った。


 蒼幻斎の意識の深い所へ届いたのは、また若い女の声だった。


(迷える者よ、汝の血を受け継ぐ者は、人々を導き、人々を救う者となる。されど、今まさに、その者の真価が明かされる時が来た。その者は、人々のために身を捧げるであろう。迷える者たちよ、天の声に従い、お前たちを導き、お前たちを救う者が捧げる真実の愛から目をそらすことなかれ…………)

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