第12話 起きていたこと

アスターは一人ぼんやりと歩く。

結局アルペは戻っては来なかった。かろうじて船から脱出できた兵士の一人がアルペの持っていった貝殻を手に涙ながらに何が起こっていたのかを話した。


「こちらの兵の中に、裏切り者がいたんです。だから敵にはこちらの作戦も全部筒抜けで……。そいつらが船内で暴れて、手当たり次第に兵士たちを斬りつけていきました。アルペストリス様もそのうちの一人に腹を刺されてしまって。このままではアスター様の身も危うくなると気付いたアルペストリス様が、ご自身で船中に酒や油を撒かれ、せめてもの道連れに敵将が乗っていると思われる船に横から突撃するとおっしゃって、そちらへ向かって行かれました。アスター様ならばその時に上がるはずの炎を見れば分かるはずだ、と。私も最後までご一緒するつもりでしたが、いよいよ火をつける直前になって、アルペストリス様は怪我の浅かった私にこの貝殻をアスター様に渡してくれと託されました。アスター様……アルペストリス様をお守りできずこのようなことになってしまい、申し訳ありませんでした……っ!」


最後は悲痛な声で叫ぶように言い切る。


「そんな、味方に裏切られていたなんて……これは気付けなかった私のせいでもあるわ。全部を伝えてくれてありがとう。アルペの、……最期を、聞けてよかった。あなたが戻って来てくれて、よかった」


唇を強く噛んでじっと堪えるように震える彼にアッシュが努めて優しく声をかけると、彼はその場で泣き崩れた。

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