6人目の行方不明者

みららぐ

①:生徒が行方不明になりました。

「2組の木下紗季さんが行方不明になりました」


ある日の朝礼で、担任の男性教師、岩塚先生があたしを含む生徒たちにそう言った。

先生がそう言った瞬間、一クラス30人ほどいる共学の生徒たちがざわつき始める。

2組の木下さんは、とにかくごく普通の高校二年生。

部活はテニス部に入っていて、普段は誰と話すにもニコニコと笑顔の絶えない良い子だった。

そんな子が、行方不明になったなんて。


「え、また?」

「これで何人目だよ」

「親と喧嘩して家出したとかじゃなくて?」


生徒達は口々にそう言っては、さすがに戸惑いを隠せない。

だってあたしが知っている中で、行方不明者は今回の木下さんで…。

あたしがそう思って頭の中で行方不明者の人数を数えていると、岩塚先生がチョークを手に持って黒板に名前を書き始めた。


“飯田真央”

“中井理恵”

“渡辺歩佳”

“井上勇美”

“木下紗季”


そしてすべての名前を書き終えると、チョークを置いて言った。


「…これで5人目。全員女子生徒か。

皆、決して自分は大丈夫なんて思わないように。今日から当面の間は部活も早い時間に切り上げて、絶対に一人きりで帰らないこと。特に女子、知らない人に声を掛けられても絶対について行くなよ」


岩塚先生はみんなにそう言うけど、あたし達女子生徒は「子供じゃないんだから」と口を開く。


「知らない人になんてついて行かないよー」

「それくらいの常識はあるよね」

「あ、でも相手がイケメンだったらついて行っちゃうかも」

「わかるー!」


岩塚先生は真剣に言っているのに一部の女子生徒がそんなことを言うもんだから、そんな女子生徒の言葉に岩塚先生が不機嫌に目を細めた。


「再度忠告しておくけど、知らない人には絶対について行かないように。たとえそいつがイケメンであってもだ」


怖い目に遭いたくないだろ、と。

岩塚先生はそう言うと、先ほど黒板に書いたばかりの行方不明者の名前を消していく。

するとそのうちに一時間目が始める予冷が鳴って、今日の朝礼はここまでとなった。

一時間目は移動教室の化学だ。

しかしそう思って教科書とノートを準備していると、岩塚先生が言う。


「あ、そうだ。笹倉、ちょっと」


岩塚先生はそう言ってあたしの苗字を口にすると、顔を上げたあたしに手招きをする。

…呼ばれる理由なんてわかってる。

あたしがそんな先生にため息交じりでそこに行くと、先生が声のトーンを落として言った。


「お前今度の三者面談のプリントは?提出期限昨日までだけど?」

「…それは、」

「両親が忙しくて聞けないのはわかるけど、なんとか都合のいい日を聞き出して、明後日までには持ってこい。な?」

「…はぁい」

「…ま、最悪個人面談みたいになったら、俺がお前の悩み聞いてやるから」


先生はそう言うと、あたしの頭をくしゃ、と優しく撫でる。

…あたしの両親は基本仕事が忙しくて、2人とも夕方出勤の真夜中に帰宅、あたしが朝起きて学校の支度をしている間は睡眠時間のため、全くといっていいほど会話をする時間が無い。

そのため、来月に行われる秋の三者面談のプリントを学校から貰ったけれど、親には全く話すら出来ないでいるのだ。

それなのに「なんとか都合のいい日を聞き出して」なんて、簡単に言ってくれるんだから、先生は。

あたしがそう思いながら自分の席に戻ると、岩塚先生が出て行ったのを見計らってクラスのとある男子生徒が言った。


「行方不明者がこれだけ出てるとさすがの岩塚も雰囲気ピリついてるよなー」

「ね。普段は気さくでこの学校で唯一のイケメン先生なのにー」

「でも怒った顔もカワイイわ」

「はぁ?俺の方がイケメンだろ」


女子生徒の岩塚先生に対する「カワイイ」の言葉に、ちょっとイラついたらしい男子生徒が不機嫌にそう言う。

実は岩塚先生は現在まだ25歳の独身で、この学校内の教師の中では唯一の若いイケメン先生だったりする。

厳しい時もあるけど普段は気さくで優しいし、たまりこっそり自販機でジュースとか奢ってくれるところが一番大好きだ。

「他の生徒には内緒な」なんて言って。

だから、このクラスはそんな岩塚先生が担任だから正直「当たりのクラス」なんだと思う。

少なからず女子生徒達はあたしを含めみんなが喜んでいる。


「知ってる?今日岩塚先生見回り当番らしいよ」

「どこの?」

「なんか、近所のコンビニとかカフェとか、夜生徒が出歩いてないか見回りするんだって」

「うわー、先生タイヘーン」

「行方不明者が5人も出てるもんね」


でも実際はただの家出じゃない?

あたし達生徒はそんな会話をしながら、やがて移動教室の為教室を後にした。







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