転生特典で日本刀と最強戦闘センスを貰ったと思ったら、カミサマに「え、戦闘センスとかあげてないよ……こわ……」といずれ言われる男の異世界冒険譚

イのカンア

第1話「転生特典?」

 俺、近藤円莉こんどうえんりは二十七歳の社会人として証券会社でバリバリに働いていたが、あまりにも根を詰めて働きすぎたせいで残業中にぽっくりと心臓発作で死んでしまった。


 だが、幸運にも世間一般で言う所のカミサマと呼ばれる存在に三途の川に辿り着く前に会うことができた。


 転生、生まれ直し、第二の人生、セカンドチャンス。呼び方は色々とあるがカミサマによって第二の人生を与えられた。カミサマは魂の再利用、停滞した世界の潤滑油、枝葉の選定などよく分からないが色々と難しい事を呟いていた。


 カミサマの計らいで年齢は十五歳まで若返らせてもらって、文字の読み書きや会話なども出来る状態で次の世界に転生したのだが……。


「いやいや神様、よりにもよってこんな森の中に放り出さないでくれよ」


 神様から次の人生もガンバッテネー!と声を掛けてもらい転生して出てきたのはどことも分からない森の中。頼むよカミサマ、こういうのって普通は街の中とか街の近くとかに出してくれるものじゃないの。


 周りを見渡してみても見えてくるのは木と草、小動物と木の実。まったくもって人の気配は欠片もない。


 ん、いや、違う。木々だけではない。転生して目覚めた場所の近くに何かが地面に突き刺さっている。近付いて地面に刺さった何かを確認してみるとそれは鞘に入ったままの日本刀らしきものだった。


 えぇ、なんだこれ。まぁ、十中八九、俺を転生させてくれたカミサマによるものっぽいが。鞘に入ったままの日本刀が刺さっている周りの地面を確認してみると、一枚の紙も落ちていた。拾って紙を確認してみると可愛らしい丸文字でこう文字が書かれていた。


『エンリくん。お誕生おめでとうございます。ささやかな品ではありますが身を守れるモノを送っておきます。ちゃんと使いこなせないとすぐ死ぬので、ガンバッテネ』


 と。物騒な書置きが残されていた。勘弁してくれよ、カミサマ。刀とか刃物とか剣なんて前世では扱ったことなんてないぞ。いいところ料理で使う包丁くらいだ。


「えぇ、どないせいっちゅうねん、神様よ。しかも使いこなせないとすぐに死ぬって」


 ドン引きしながらも地面に刺さった日本刀を引き抜き両手で持ってみる。日本刀は見た目よりもずっしりとかなり重く、当たり前のことだが鞘の中に金属の重いものが入っているのだと実感できる。


 だが、やはりというか、前日本男児の憧れというべき日本刀。それを目の前にしてみるとどこか胸の高鳴りを感じる。日本刀の柄をしっかりと右手で握り、左手で鞘を抑えるようにしてゆっくりと鞘から日本刀を取り出す。


「うぉ、おっも!」


 鞘から取り出した日本刀は想像の三倍程度には重かった。片手で持とうとすると、重さのせいでふらふらと震えてしまう。これを片手で扱えるとか、やはり武士って戦闘民族だったんだなぁと前世の祖先に畏怖の念を覚える。


「ギギギギギィ!!」


 日本刀を眺めていると不意に後ろから聞いた事もないような声が聞こえてきた。恐る恐る後ろを振り返ると身長一メートルよりやや小さい小人のような生き物が数匹、俺を取り囲むようにして木々の間から近付いて来ていた。


 ……前世の知識から勝手に推測させてもらうとこの亜人というべき存在はどこからどう見てもザ・ゴブリンという感じの生き物だ。肌はやや緑かかっていて、耳や目はするどく尖っており、手には撲殺以外の用途を導き出せない太い木の棒を持っている。


「あー、あー、こんにちは?えーっと、背の小さい人たち?」

「ギギギギ!ギギギギ!コロス!コロス!メシ!」

「もしかして俺のこと、お昼ご飯とかにしようとしている?」

「ギギギ!ギシャ!シャッシャ!!」


 言葉を投げかけてみるとゴブリンと思わしき生き物は意味のある言葉を返してくれそうにはない。いや、マジで困った、これいきなり俺死ぬのでは。なんか言葉のあちらこちらでコロスとか物騒な単語混じってるし。


 日本刀を両手で持ちながらも重すぎてまともに構えることができない。例え構えられたとしてもロクにこのクソ重い刀身を振り抜ける気もしない。


 刀を前にしたゴブリンは最初こそやや距離を取っていたが、俺が何もしてこないあるいはできないと分かるやいなや、奇声を発しながら狩猟をするかのように複数体で包囲網を作ってどんどんとその網を小さくしていく。


 頭いいなこの仮名称ゴブリン共。ちゃんと逃げ道塞ぎながら距離を縮めてきている。


「ギギ……ッシャァ!!!」


 こらえ切れなくったという感じで一匹のゴブリンが棍棒を勢い良く振りかぶって飛び込んで来る。反射的に目を閉じてしまい、これから来るであろう痛みを想像するがいつまで経っても木の棍棒による痛みはやって来ない。


 恐る恐る目を開けてみるとなぜか『縦に真っ二つに斬り裂かれた』ゴブリンが目の前に転がっていた。斬られたゴブリンのその表情は獲物にありつける恍惚の表情で固まっている。もう一つ驚くべきことがあった、いつの間にか自分の体勢が変わっていた。


 さっきまではへっぴり腰で日本刀を引きずるようにして持っていたはずなのに、目を開けてみると片手で日本刀をしっかりと握っており、何かを斬り裂いた後のような体勢になっている。


 もしかして、目の前のゴブリンの斬殺死体って俺がやった?


「「「ギギギギギ!ウッシャァー!!!!」」」


 五、六体のゴブリンが仲間の仇を取るために一斉に襲い掛かってる。だが、しかし、恐怖心はまったくない。まるで自転車に乗るような気軽さと慣れた動作で身体が勝手に動く。


 すり足で前へ踏み込み、重心移動。腰まで下げた刀身を一気に頭上まで振り上げ、バットを振りぬくような感覚でゴブリンを斜めに一刀両断する。臓器、緑の血、目玉、指の欠片、ぽろぽろとぼろぼろと解けるようにゴブリンを次々に斬り裂いて行く。


「うわぁ……これってもしかしなくても転生した時のチート能力ってやつ?」


 こうして、俺の異世界生活はゴブリンの返り血を浴びる所からスタートした。

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