大谷から学ぶ

いしくらひらき

最強の自己管理

大谷翔平の「最強の自己管理」

ざっくりと順不同

アルコールは良質な睡眠を破壊する

アルコールは一時的な寝つきを良くするが、睡眠の質を低下させ、中途覚醒の原因となるため、寝酒は厳禁である。

主食は玄米。白米・パン・パスタ・麺類の徹底排除

主食を白米から玄米へ切り替え、パン・パスタ・麺類などの小麦製品(グルテン)を徹底的に排除することで、体調の波を最小限に抑える。

腸脳相関を起動する「眠りの力」

良質な睡眠こそが腸の活動を最適化し、腸脳相関を通じて脳に「やる気」を司令させるための不可欠な土台である。

荒れた中学から生まれたマンダラチャート

目標達成ツール「マンダラチャート(オープンウインドウ64)」は、原田隆史氏が荒れた公立中学の陸上部を日本一に導く過程で確立された。

運と自信を引き寄せる「善行の行動目標化」

「人間性」の向上として、ゴミ拾いや感謝といった他者への善行を具体的な行動目標に組み込み、揺るぎない自信と幸運を内面から引き寄せる。


01 

なぜ大谷選手は他人に親切なのか

他人に奉仕すれば自分に運が巡ってくる


大谷翔平選手が座右の銘の一つとして大切にしている「情けは人の為ならず」は、彼の野球哲学と人間形成の根幹をなす言葉です。ここでは、このことわざの真意と、大谷選手が体現する「親切」の意味を解説します。

ことわざの真意 — 親切は自分に返る

「情けは人の為ならず」は、「人に情けをかけるとその人のためにならない」という誤解が広まっていますが、本来の意味は真逆です。

情け(なさけ): 親切、思いやり、善意。

人の為ならず: 「(ただ)人のためだけではない」という意味。

したがって、本来の正しい意味は以下の通りです。

人に親切を施す行為は、巡り巡って、いずれはその親切を施した自分自身のためになる。

これは、「見返りを期待せずに人に親切にしなさい。その善行はいずれ、良い報いとなって自分に戻ってくる」という、利他的行動を促す教えです。

なぜ大谷選手は他人に親切なのか — 運とチャンスを引き寄せる実践

大谷選手が常に他者へ親切や配慮を示すのは、この「情けは人の為ならず」という信念を、野球における成功に必要な「運」や「チャンス」を引き寄せるための実践的な行動原理として捉えているからです。

① 他人に奉仕すれば自分に運が巡ってくる

大谷選手は、技術や体力と同じように、人間性の向上を重視しています。他者への親切(奉仕)を積み重ねることは、目に見えない「徳」や「運」となって蓄積されると考えられています。

その「運」が、怪我の回避、重要な場面での好プレー、そしてチームの勝利といった、彼自身の野球人生を支える良い結果となって返ってくると信じていると言えます。

② 環境を整える行動

試合中のグラウンドやベンチ周りのゴミを拾う大谷選手の行動は、この信念の具体的な表れです。

ゴミ拾いは、周囲への配慮という他者への奉仕(情け)です。

この行為によって、自身の周りの環境を整えることが、結果として自分の心も整理され、最高のパフォーマンスを発揮できる精神状態を維持することにつながります。

彼にとっての「親切」は、単なる道徳的な規範ではなく、自己の成功を永続させるための、不可欠な習慣なのです。

まとめ

大谷選手が体現する「情けは人の為ならず」とは、他者への善意が、最終的には自己の運命や成功に繋がるという深い哲学に基づいています。彼の親切な行動は、世界最高峰のアスリートであり続けるための、揺るぎない精神的な土台となっていると言えるでしょう。

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02

何よりも睡眠を重視する理由

大谷翔平選手は、十分な睡眠を取ることを非常に重視していますが、これは単に疲労回復のためだけではありません。睡眠中、私たちの身体は極めて重要な「修復と再生」の作業を行っています。

私たちが休んでいるように見えても、身体は損傷した筋肉や細胞を修復し、ホルモン分泌を調整し、免疫システムを強化するために忙しく働いています。睡眠は、本質的に身体のためのメンテナンス期間なのです。

特に注目すべきは腸の役割です。腸は単なる消化器官ではなく、免疫システムの中核でもあります。睡眠中は腸の活動が活発化し、有害な細菌が抑制され、免疫バランスが回復します。

最近の研究では、がん細胞の増殖と闘うのを助ける特定の腸内細菌も見つかっています。したがって、健康な腸を維持することは、全身の健康だけでなく、病気の予防にとっても不可欠です。

重要なのは、必ずしも一度に10時間眠る必要はないということです。ライフスタイルによっては、複数回の短い睡眠も身体の回復に役立ちます。最も大切なのは、量だけでなく、睡眠の質と一貫性なのです。


一方、アルコールは腸の健康にとって大きな敵です。アルコールを分解するには多くのエネルギーが必要であり、そのエネルギーが細胞修復や免疫機能から奪われてしまいます。日常的な飲酒は腸内環境を乱し、全身の健康を弱体化させる可能性があります。

新谷弘実医師は、著書『病気にならない生き方』の中で、腸に特に有益なものとして、自然の水と新鮮な果物を推奨しています。腸を健康に保つためには、特別な健康補助食品よりも、シンプルで自然な食品の方が効果的です。

大谷選手の身体に対する規律正しいアプローチは、単なる才能の問題ではありません。それは、一貫して自身の身体の声に耳を傾け、ケアし続けた結果です。睡眠を優先し、腸の健康をサポートすることが、最高のパフォーマンスを達成するための土台を形成しているのです。



03

「やる気の源泉」は腸にあり!:超一流のモチベーションと腸脳相関

野球界の常識を塗り替える活躍を見せる大谷翔平選手。その尽きることのない「やる気」と圧倒的なパフォーマンスの原動力は、一体どこにあるのでしょうか。その鍵は、意外にも「良質な睡眠」と、それによって整えられる「腸内環境」にあることが、注目されています。

腸が脳に「やる気」を司令するメカニズム

大谷選手が徹底している「よく寝ること」は、単なる疲労回復に留まりません。睡眠は、腸の活動を最適化するための重要なスイッチです。健康な腸は、自律神経やホルモンを通じて脳に対して「やる気を出す」よう強力な司令を送っているのです。これは、近年研究が進む「腸脳相関(Gut-Brain Axis)」と呼ばれる、腸と脳が密接に影響し合う医学的なメカニズムに基づいています。

最高のパフォーマンスとメンタルを維持し続けるためには、この司令塔である「腸」を最優先で労り、大切にすることが極めて重要となります。



腸の不調が引き起こす心身のリスク

逆に、腸の状態が悪化すると、私たちの心身に深刻な悪影響を及ぼします。

腸内環境の乱れは、

下痢や便秘といった消化器系の不調

セロトニン(幸福物質)の生成低下による不眠や慢性的なイライラ状態

を引き起こします。さらに、これらの状態が続くと、医学的にも、うつ症状や不安障害といったメンタルの不調に発展することが明らかになっています。

大谷選手の活躍は、腸内環境を整える「腸活」が、ただの健康法ではなく、最高のフィジカルとメンタルを両立させるための超一流の習慣であることを示唆しています。


04

アルコールがなぜ「睡眠の敵」なのか

アルコールが睡眠の質を低下させるメカニズム

アルコールを摂取することで引き起こされる、主な睡眠への悪影響は以下の通りです。

1. 中途覚醒と早朝覚醒の増加

鎮静作用の反動: アルコールの鎮静作用によって寝つきは良くなりますが、体内でアルコールが分解されていく過程で、分解産物であるアセトアルデヒドなどが逆に脳を覚醒させる作用を持ち始めます。

浅い睡眠の増加: 睡眠の後半になると、深いノンレム睡眠(ぐっすり眠れている状態)が減少し、浅いレム睡眠(脳が活動している状態)が増加します。この結果、夜中に何度も目が覚める(中途覚醒)、または予定よりも早く目が覚めてしまう(早朝覚醒)原因となります。

2. 利尿作用による睡眠中断

アルコールには強い利尿作用があるため、夜中に尿意を感じて目覚める夜間頻尿の原因となります。一度目が覚めると、その後なかなか寝付けなくなることも少なくありません。

3. 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の悪化

アルコールは、舌や喉の周りの筋肉を弛緩(ゆるめる)させる作用があります。これにより気道が狭くなり、いびきや睡眠時無呼吸が悪化し、睡眠中の呼吸が止まることで脳が覚醒し、質の低下につながります。

これらの理由から、「寝酒」を習慣化することは、睡眠導入の手段としてではなく、慢性的な睡眠障害を引き起こすリスクとして避けるべきとされています。



05 

マンダラは

大谷翔平選手の「心のダム」を築いた基盤でありながら、その背景にある原田隆史氏の教育者としての壮絶なエピソードと、そこから生まれた「原田メソッド」

「荒れた学校」から「日本一」へ:原田メソッド誕生の軌跡

救いを求めた「荒れた中学校」での誓い

原田メソッドの創始者、原田隆史氏の教育者としての出発点は、決して華やかなものではありませんでした。彼が赴任した大阪市立松虫中学校は、当時、多くの問題を抱え、荒廃が進んでいた公立中学校の一つでした。

その学校を前に、彼は教師人生をかけた一大決心をします。それは、単に生徒の荒れた心を収めるだけでなく、「1年で学校を立て直し、3年以内に陸上部を日本一にする」という、周囲から見れば無謀とも思える公約でした。

この公約は、生徒、保護者、そして自分自身への「主体変容」の宣言でした。彼は、目の前の生徒たちの「すさみ」を正すには、まず自分自身が規範となるべきだと考えました。

「生活指導の神様」と呼ばれるようになった彼の指導は、決して精神論や根性論に終わるものではありませんでした。彼が最初に着手したのは、生徒指導の基本である「躾の三原則」の徹底です。

「時を守る(時間厳守)」

「場を清める(清掃)」

「礼を正す(挨拶、返事)」

彼自身が誰よりも早く出勤し、誰よりも熱心に清掃し、誰よりも大きな声で挨拶をする。この「教師の背中」と「環境整備」を通じて、生徒たちに「マジメであること」の価値を教え込んだのです。

「普通の子」を「日本一」にした緻密な計画

原田氏の指導哲学の核心は、「成功は才能ではなく技術である」という信念にあります。この信念を具現化したのが、後に大谷翔平選手も活用した目標達成の手法でした。

松虫中学校の陸上部は、決して恵まれた環境にはありませんでした。校庭は狭く、突出した才能を持つ生徒もいません。そこで原田氏は、誰もが結果を出せるよう戦略的に、そして科学的に指導法を体系化しました。

差別化戦略: 彼は、校庭が狭くてもトレーニングできる砲丸投げなどのフィールド種目に指導を絞り込みました。これにより、運動能力で既に差がついているトラック競技を避け、「誰もがゼロから始められる土俵」を用意しました。

「マンダラチャート」の適用: 彼は目標を「長期目標」「中期目標」「短期目標」に分け、最終目標を「技術」「精神」「生活」「人間性」など8つの側面に分解し、64個の具体的な行動目標に落とし込みました。(これが「オープンウインドウ64」として知られる手法です。)

内面の成長を数値化: 「人間性」の項目に「運」を引き寄せるための行動(ゴミ拾い、感謝など)を組み込みました。これにより、生徒たちは「技術の向上」と「人間的な成長」が両輪であることを理解し、「自分はやるべきことを全てやっている」という揺るぎない自信を内面から築き上げることができました。

この結果、松虫中学校陸上部は、7年間という期間で、実に13回もの個人種目での日本一という、驚異的な実績を達成しました。特筆すべきは、これらの生徒たちが「ごく普通の子どもたち」であったという事実です。原田メソッドは、「誰でも、環境に関わらず、正しい手法を用いれば、自立と成功を掴める」ことを証明したのです。

体系化された「自立型人間育成」への哲学

原田氏の経験と成功は、もはや学校教育の枠を超えた普遍的な「人財育成の技術」として体系化されました。これが、現在企業研修や教育現場で活用されている「原田メソッド」です。

原田メソッドの真髄は、他者からの評価や批判に左右されない「自立型人間」を育てることにあります。

目標を細分化し、自分の行動に集中する構造を持つことで、外部の雑音は、日々の行動チェックリストを前にして無力化されます。

「人間性」や「感謝」を日々のルーティンに組み込むことで、心が折れない強固な精神的土台(心のダム)を築きます。

大谷選手が高校時代から「ブレない軸」を持っていたのは、この原田メソッドによって、「成功は偶然ではなく、細分化された行動の積み重ねである」という哲学が、彼の血肉になっていたからです。彼の静かな強さは、この緻密な計画と思考法が、無意識の習慣となった賜物と言えるでしょう。


原田氏の壮絶な教育現場での挑戦と、その結果生まれた体系的なメソッドは、単なるスポーツ指導の成功例ではなく、「どうすれば人は真に自立し、目標を達成し続けられるのか」という問いに対する、明確な回答となっています。



06


「パン・パスタ・麺」を徹底排除

主食を白米から玄米へと切り替え


小麦不食と玄米:

ストイックな食の哲学が築く「心のダム」

大谷翔平選手の規格外の活躍を語る際、私たちはつい、彼の圧倒的な才能や練習量を想像します。しかし、彼の並外れたパフォーマンスの裏には、「食」という最も身近で、最もストイックな自己管理の哲学が貫かれています。それは、常識的な「食事」の枠を超え、自らの身体を最高の精密機械として扱い続けるための、揺るぎないルーティンなのです。

転機となった「玄米」への決断

大谷選手の食生活が劇的な変貌を遂げたのは、プロ入り後、ダルビッシュ有選手と合同でトレーニングを行ったエピソードが知られています。そこで受けた栄養学の指導は、彼の食に対する意識を一変させました。

特に印象的なのは、主食を白米から玄米へと切り替えた決断です。アスリートは大量のエネルギー源として炭水化物を必要としますが、白米ではなく玄米を選んだのは、単に栄養価が高いからという理由だけではありません。玄米に含まれる豊富な食物繊維は、血糖値の急激な上昇を防ぎます。これは、インスリンの急激な分泌を避け、食後の眠気や集中力の低下といった「パフォーマンスの波」を最小限に抑えるための戦略的な選択でした。

一流選手が数時間の試合の中で、常に最高の集中力を維持し続ける。その秘訣は、この地道な「玄米」という燃料選びに集約されているのです。

「パン・パスタ・麺」を徹底排除するストイックな食の習慣

さらに、大谷選手の食の哲学で特筆すべきは、パン、パスタ、麺類などの小麦製品を避けるという徹底した食習慣です。

彼のメニューから、一般的な小麦粉で作られたパンやパスタ、麺類は基本的に排除されています。これは、彼が「グルメ」よりも「ボディのメンテナンス」を優先していることを示す、最もストイックなエピソードの一つです。

彼が小麦製品を避けるのは、それらに含まれるグルテン(小麦タンパク質)が消化器官への負担を増やし、身体の炎症を誘発する可能性があるためです。アスリートは常に激しい疲労と戦うため、体内で起こるわずかな炎症や消化不良は、翌日の疲労回復を大きく遅らせる要因になります。つまり、彼がパンやパスタ、麺類を口にしないのは、今日の疲れを明日に持ち越さないという、勝利への細部にわたるこだわりなのです。

ルーティンと自己管理の徹底

アメリカでの生活で、大谷選手が外食をほとんどせず、自炊をメインとしていることも有名です。そして、その自炊のメニューは、シーズンを通して「基本的に同じものを同じ量だけ食べ続ける」という驚異的なルーティンで構成されています。

このストイックさは、彼が高校時代に原田メソッドを通じて学んだ「成功は偶然ではなく、細分化された行動の積み重ねである」という哲学が、食生活にまで深く根付いていることを物語っています。

玄米を主食とし、パンやパスタなどの小麦製品を避けるという食の土台は、彼が外部の雑音や体調の波に左右されない「心のダム」を築くための、目に見えないセメントのような役割を果たしています。彼がマウンドや打席で常に冷静沈着でいられるのは、最高の燃料と最高の環境を自ら選び取り、「自分はやるべきことを全てやっている」という揺るぎない自己規律に裏打ちされているからに他なりません。


07

心を揺らさない:「心のダム」の作り方

私たちは、他者からの批判や悪口に直面すると、多かれ少なかれ心がざわつきます。その根源は、外部の言葉ではなく、自分自身の内側にある「本当にこれでいいのか?」という小さな疑念にあるからです。

しかし、大谷翔平選手がプレッシャーの中で見せるあの驚くほどの冷静さ、そして批判に全く動じない姿は、この内なる疑念が徹底的に排除されていることを示しています。彼の「心のダム」は、いかにして築かれたのでしょうか。

その秘密は、「技術の向上」と「人間的な成長」という、一見無関係に見える二つの要素を毎日、確実に実行するというシンプルな哲学に集約されています。

誰も見ていない場所での「善行」というエピソード

大谷選手が高校時代に目標達成のために使用したマンダラチャート(原田メソッド)には、「技術」「メンタル」と並んで「人間性」という項目がありました。これは、人間としての成長なくして、真の成功はありえないという哲学に基づいています。

単なる精神論ではない行動化: 重要なのは、この「人間性」の目標が抽象的な「感謝する」で終わっていなかったことです。それは、毎日実行し、チェックできる具体的な行動に落とし込まれていました。例えば、「グランドに落ちているゴミを一つ拾う」「すれ違う人に必ず挨拶をする」といった、誰も見ていない場所で、誰の評価にも繋がらない「善行」が、彼の毎日のタスクリストに入っていたのです。

誰に見せるわけでもない、誰も評価してくれない行動を毎日続けたという事実は、彼に「自分はやるべきこと(人間としての成長)を怠っていない」という強固な自己承認を与えました。

「疑念」の余地を徹底排除する両輪のタスク

私たちは、努力をサボった時や手を抜いた時、外部から批判されると一気に心が折れます。それは、「やはり自分は間違っていたのではないか」という内なる疑念に批判が突き刺さるからです。

しかし、大谷選手は「技術の練習」と「人間的な成長」という両輪のタスクを毎日「YES」で埋めていました。

最高の自信の源泉: 最先端の技術トレーニングを完璧にこなした上で、さらに誰も気づかないゴミを拾い、誰にでも大きな声で挨拶をし、謙虚でいる。この二重の努力と実行により、「自分はやるべきことを全てやっている」という絶対的な確信が生まれます。

この確信こそが、彼の「心のダム」のセメントです。外部から「実力がない」「態度が悪い」といった批判(水圧)が押し寄せても、彼は「いや、私はやるべきことを全て実行している」という内なる証拠を持っているため、ダムは微動だにしないのです。

結論:行動が思考を支配する

大谷選手が批判に動じないのは、生まれ持ったメンタルの強さだけでなく、「行動が思考を支配する」という哲学の勝利です。毎日、細部にわたる「技術」と「人間性」のタスクをクリアし続けることで、彼は「自分は間違っていない」という揺るぎない自信を築き上げました。

この内面から湧き出る確信こそが、超一流であり続けるための、最も強固な土台なのです。


08

父のノートと母の安心感


大谷翔平選手が野球界で成し遂げている偉業は、単なる才能や努力という言葉では説明がつきません。彼の尽きることのない「やる気」と、外部の批判に一切動じない「心のダム」は、高校時代に学んだ目標達成技術と、それを支えた家庭環境という二つの強固な土台の上に築かれています。彼の成功は、天賦の才ではなく、家族が共同で設計した「自立型人間育成」という壮大なプロジェクトの勝利であると言えます。

序章:規格外の成功を支える「見えない土台」

大谷選手の成功を裏付ける哲学は、非常にシンプルでありながら、徹底されています。それは、肉体と精神の土台を最優先するというものです。

睡眠と腸脳相関の重視:アルコールを避け、質の高い睡眠を追求します。これは、良質な睡眠こそが腸の活動を最適化し、脳に「やる気」を司令させるための不可欠な土台であるという、科学的な知見に基づいています。

戦略的な食の選択:主食を白米から玄米へ切り替え、パン・パスタ・麺類(グルテン)を徹底的に排除します。これは、血糖値の安定と消化器官の負担軽減による、パフォーマンスの波を最小限に抑えるための戦略です。

これらのストイックな自己管理を「継続する力」こそが、彼の核心です。そのルーツは、幼少期の家庭環境に深く根ざしています。


父・徹さんの哲学:思考力を鍛えた「野球ノート」という遺産

父・徹さんは元社会人野球の選手であり、大谷選手が中学時代に所属したチームの監督を務めるなど、技術指導に熱心な指導者でした。しかし、徹さんの教育哲学は、単なる技術論で終わるものではありませんでした。

【エピソード:野球ノートによる自己対話の習慣】

徹さんが翔平選手に与えた最大の遺産は、「野球ノート」にあります。翔平選手は、試合や練習が終わるたびに、その日の「良かったこと」「悪かったこと」、そして「次に何をすべきか」を詳細に書き出すよう指導されていました。

徹さんは、このノートに面と向かって叱る代わりに、文章で丁寧にコメントを書き添えました。この親子間の「交換日記」は、幼少期から「自分の課題を整理し、解決策を自ら見つける」という自己分析の訓練となりました。

これは、後に原田メソッドで実践する「目標設定と行動の細分化」の素地です。徹さんは、翔平選手に「教え込まれる」のではなく、「自ら考える力」を徹底的に身につけさせ、規格外の自己管理能力の土台を築いたのです。


母・加代子さんの哲学:心のダムを築く「安心感」という名の土台

一方、バドミントンの元国体選手である母・加代子さんは、家庭の中で「精神的な安定」を提供することに注力しました。

【エピソード:居心地の良いリビング】

加代子さんが最も大切にしたのは、家庭の雰囲気づくりです。大谷選手は「実家のリビングは居心地がよかった」と語っています。これは、外の世界でどれほど激しいプレッシャーや批判にさらされても、家の中だけは常に安心できる「心の避難所」であったことを意味します。

アスリートは常に高い緊張状態にありますが、加代子さんは技術指導ではなく、栄養管理と精神的なケアに専念することで、息子の自己肯定感を育みました。この揺るぎない安心感こそが、大谷選手が外部の雑音に動じない「心のダム」を構築するための、強固なセメントとなりました。

また、ご自身が「フツーのOLと変わらない」と語る謙虚な姿勢は、息子がスーパースターになっても、地に足の着いた生活態度と価値観を伝え、過剰な特別意識を持たせないという、大谷家の優れたバランス感覚を物語っています。


「ブレない軸」の完成

父の「論理的な思考力」と母の「精神的な安定」という両極の教えは、高校時代に原田メソッドと融合し、「ブレない軸」として完成します。

【エピソード:幸運を引き寄せる行動】

原田メソッドの目標達成シートには、「技術」だけでなく「人間性」の項目が組み込まれていました。大谷選手は、「ゴミ拾い」「挨拶」「感謝」といった、他者の評価には繋がらない「善行」を、毎日実行する具体的な行動目標に落とし込みました。

これは、「人間性」の向上を通じて「幸運」を引き寄せるという哲学の実践です。

批判の遮断: 毎日、「技術の向上」と「人間的な成長」というやるべきことの両輪のタスクを全て実行しているという事実は、彼に「自分は間違っていない」という絶対的な確信を与えます。

心のダムの完成: 外部から「実力がない」「態度が悪い」といった批判(水圧)が押し寄せても、彼は「いや、私はやるべきことを全て実行している」という内なる証拠を持っているため、ダムは微動だにしないのです。

彼のストイックな食生活(玄米、パン・パスタ・麺類の排除)も、この哲学の延長線上にあります。それは、最高の技術を維持するためには、最高の燃料と最高の体調という、論理的に正しい行動を徹底する必要があるという、父の教えと母のケアが融合した結果です。


結び:成功は才能ではなく、自己規律の勝利

大谷翔平選手の成功は、単なる「よく寝る」とか「ストイック」といった言葉では片付けられません。それは、家庭で培われた自己対話と安心感という土台の上で、体系的なメソッドによって行動を支配し、「技術」と「人間性」という二つの車輪を毎日確実に回し続けた、自己規律の勝利です。

彼がマウンドや打席で常に冷静沈着でいられるのは、最高の燃料と最高の環境を自ら選び取り、「自分はやるべきことを全てやっている」という揺るぎない哲学に裏打ちされているからに他なりません。彼の成功物語は、私たちに「行動が思考を支配する」という、普遍的な真理を教えてくれています。



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