俺は彼女を装備する
神成ヨハネ
序章
00.【忘却と魔王】
「来ると思っていたぞ――いや、貴様を待っていたと言っても過言ではない」
気味の悪い程に情深い声が俺を出迎える。その低い声の響く方へと、俺は歩みを進めた。
石壁と石畳が広がるだけの殺風景な空間。
「さすが魔王……とんでもねぇ魔力だな。この装備が無かったら、まともに立ってらんねぇだろうよ」
俺は襟足の髪留めを握りしめながら、心を沈めることに努めた。
「なるほど……ともすれば、掛け替えのないものを全てかなぐり捨てて、ここに立っているのだな。貴様は」
最奥、玉座と呼ぶにはあまりに粗雑な腰掛けに背を持たれながら、その声の主は笑みを浮かべていた。
魔王。つまりはこの世の害悪であり、
「お
毒づく俺に、魔王は、ふぅと溜め息をつきながらも話を続けた。
「若い身空で随分だな。言い尽くせぬ程の犠牲を払ったろうに……大層な防具達がそれを物語っておる」
魔王は、何やら含みを持たせるような物言いで俺の全身を眺めている。
「思い
「ほぅ、それはつれない話だな。私の話には興味が無いと?」
「……いつまでもお喋りを続けたいっつぅんなら、好きにしたらいい。だが俺は、あんたがお話の最中だろうが、お構い無しに叩っ斬るぜ」
俺は背から抜いた大剣の切っ先を向けて言い放つ。
魔王は少し考えると、ゆっくりと玉座から立ち上がった。
「貴様が、勇者の子孫なのは、確かか?」
魔王が俺を真っ直ぐ見つめながら尋ねる。何か腹を
俺はそれに応えるように、大剣を構え直しながら答えた。
「ヴィクター・ラウルス。焔の一族の末裔だ」
「そうか、ヴィクター……」
俺の名を呼ぶと、魔王はゆっくりと天井を指差した。
「間もなく『
「ああ。魔王……それが、あんたの最期だ」
「だがヴィクターよ、それは同時に、貴様にかけられた呪縛も解かれるということだ」
「あ? 呪縛だと?」
「貴様、ここ数年に渡る記憶が無いのであろう?」
その言葉に、不覚にも己の剣先が
「へぇ、物知りだな。んで、それが失墜の刻と何の因果がある?」
「失墜の刻とは、つまりは
「あんたも俺も、魔力の源が、日輪ねぇ……」
大剣を握るその拳に、俺は、より力を込める。
「それなら尚のこと、俺はあんたを許せねぇな……一族の因縁だ。討たせてもらうぜ」
魔王は少しの間、軽く目を瞑ると、やがて何か意を決したかのように、ゆっくりと目を見開いた。
「……さぁ、訪れるぞ、失墜の刻が!」
その言葉に応えるかのように、僅かに雲間から指していた光が、段々と薄らいでいく。
俺は神経を研ぎ澄まし、魔王に睨みを利かせる。
だが、次に俺がひと呼吸する間のほんの一瞬で、たちまち辺りは暗黒に飲み込まれてしまった。
「これが、失墜の刻……」
呟きながら、腰の
突然の
何かが頭の中に流れ込んでくるのを拒めない――いや、これは元々、俺の中に在ったものだ。
それが、
「これは……俺の、記憶?」
「そうだ。受け入れろ、ヴィクター……私を討つのは、それからでも遅くはあるまい」
闇の奥、魔王の声が、やけに遠くに聞こえる。
そんな、意識が
「ルビー……シシィ……ダリア――」
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