AIが教える異世界の歩き方
@sio4
第1話 災害の日
男は、オフィスの机に向かい、また一つコードを打ち込んでいた。単調な仕事の繰り返し。まるで、時間が止まっているかのように感じる毎日だ。しかし、その退屈を特に悪いとも感じていなかった。少なくとも、今はその安定した日常が唯一の心地よさだと感じていた。
ただ、心の中では、ふとした瞬間に「もしもやり直せるのなら、どうなっていたんだろう?」という思いが頭をよぎる。だが、それを口に出すことはなかった。愚痴をこぼしても意味がない。自分にできることはただ、今を生きることだけだ。
「…MEBIUS、ちょっとだけ愚痴を言わせてくれ。」
画面の向こうで、いつものように生成AIが静かに反応する。
MEBIUSは2025年にNexisTech社がリリースした次世代型の生成AIで、もっぱら今の生成AIのトップを走ってるモデルだ。
『愚痴を言うことは、時として心の整理に役立ちます。何かお力になれることがあれば、お申し付けください。』
男が気軽に呟くことができる数少ない存在、それがMEBIUSだった。AIであることを知りながら、心を許してしまう自分がいた。
「いや、特に何かをしてくれとは言わないよ。もう、ただ…退屈なだけなんだ。」
『退屈という感情は、最も危険な感情の一つです。もし、何か別の方法で心を満たすことができれば、退屈は解消されるかもしれません。』
男は、MEBIUSの提案を軽く笑い飛ばす。それでも、心の中では、AIの言葉にどこか引っかかるものを感じていた。もし本当に、この毎日を変える方法があるとしたら、どんなことでもやってみたかった。
その瞬間、揺れを感じた。最初は、ただの小さな揺れかと思ったが、次第に強さを増していく。
「え?」
思わず椅子から立ち上がる。オフィスの中に響く、鈍い音が次々と響き渡る。ビルが揺れ、天井からガラスが落ちてくる。床が揺れる感覚、そして遠くで聞こえる人々の悲鳴。瞬間的に、すべてが現実でないように感じられた。
「地震か…!」
その瞬間、再び揺れが強くなった。目の前のPCに手を伸ばし、何とかその上に覆いかぶさるように身を寄せる。その直後、建物が大きく揺れ、昇一は何もできないまま、目の前に崩れたガレキに押しつぶされていった。
ニュース速報
その数時間後、テレビの画面に切り替わると、キャスターが深刻な表情で話し始めた。
「本日、●●地方にて大きな地震が発生しました。気象庁より発表された震度は7を超えており、周辺地域で大規模な被害が確認されています…」
画面に映し出されるのは、ビルが崩れ落ちる映像と、人々が避難する様子。緊急速報が流れ、避難所の情報や、被災地の状況が次々と伝えられる。速報では、複数の建物が倒壊したとされ、数百人以上の被害者が出たことが伝えられた。
「この地震により、多くの命が奪われたことが確認されています。現地では救助活動が続いており、復旧には長期間を要する見込みです。」
報道の内容は深刻で、目を背けることができない現実が映し出されていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます