15.キックオフ2

 薬の服用で自分の秘密を喋らされて、好きなように遊ばれてしまった。俺たちは部屋に通されて休憩を挟んだ後、彼らに呼ばれて、大きな部屋に通される。壇上があって、椅子が疎らに配置され、大きなテーブルに食卓が並べられていた。

 俺はそのまま塩見に並ばされる。その横にも段々と人が来ていくのは、同じような参加者が来ている。

 顔の暗い人が自分の膝同士をこすってあう人や、過剰に転機が高く踵立ちしている。階段の手すりにある冷たい温度を指先で感じ取るために横移動するように、顔ぶれに触れていくと、居た。


「たけうち?」


 竹内の濁った瞳がすり足を引き摺るように合わせていた。鼻下に伸びた毛。よだれのついたままの唇が、過酷な経験を滲ませていた。


「あ、ああっ」


 列をはみ出てきた彼は、二人に歩いてくる。服装は破れたままで配給するフォーマルなスーツではない。

 3人は誰も口を開かないから、他者からみて気まずい静けさが肌を素通りしていく。しかし、その振る舞いや汚れが、何をされてきたのかを言葉よりも饒舌に教えている。竹内は2人よりも早く収監されてしまった。薬以外にも恐ろしいことを経験させられたのだろう。黒岩のような見世物だって経験したかもしれない。これから2人に襲いかかる恐怖の予感があった。


「おつかれ」

「うん」


 塩見とおれの間に竹内は体を押し込んできた。周りの人は迷惑そうな目もむせず、無気力にスペースを開けてくれる。


「2人もされた?」


 俺は注射器を打つ演技を大袈裟に振る舞って、歯をあからさまに食いしばってうううと唸った。

 どうやら二人は意図を掴んだらしく、竹内だけが脇腹をつついてくる。目元を隠しつつ、それでもこみ上げるおかしさは出していた。


「よくやるよ」

「あれ気持ちいいな」

「嫌がってただろ」

「和白は気持ちよかったか?」

「まじでもう嫌だ」

「僕はもう打ちたくないです」

「ほんときつい。やめてえな」


 強がりで気張っているけど、薬の倦怠感が拭えることはない。頭痛が友達のように居座られていて、洗浄したいぐらいだ。


「僕、キックオフ飲んじゃった」

「打った」

「キックオフ打ってしまった。これで犯罪者になってしまった」


 片手をあげ静止させる竹内。2人に抱えた疑問を残した。


「ていうか、伊三郎は薬打たねえの。強くなるなら、自分でやれば良いじゃん」


 筋骨隆々な伊三郎を想像してしまった。あの空気の抜けたサッカーボールみたいな顔に付けたような身体は、笑いを我慢できない。


「してたらうける」

「しててほしいよな」

「車椅子からスタッと立つと思います」

「やめろおまえ」


 視界の隅に古谷が止まる。俺らに介せず設営を手伝っていた。雑用は任されると判断していたのに、商品のように横付けだ。


「ていうか、あの不良も捕まってたの」

「伊三郎側だぜ」

「え、そうなの?」

「俺たちを泳がせてたんだって」

「はー、長男計画ってのはマジでゆるいし、遊びなんだな」

「竹内、これだるい」

「でも、伊三郎側とは思えなかったな」


 彼は自分らよりも早く参加していて、内部で古谷の行動も把握していたようだ。時間を見て外に出ることもあれば、会話していくうちに歯がゆさもあったらしい。


「伊三郎の世話をしていた明河って女いただろ。アイツのこと気になってるらしいよ」

「僕たちは嘘をつかれました。あの人は、他の職員のことを妹と偽って自分たちの懐に入り込んできました」


 首を傾げて疑う姿勢は、崩さなかった。


「本当に嘘なのか?」


 がやがやと食卓に人が腰を下ろしていく。年配の夫婦や老人が介護を受けながら集まってきた。明かりが灯しだして、窓越しに惨劇を眺めた場所だと驚いた。再利用して彼らの歓談に使われている。

 彼らは自分らが並列してあることに気がついて、指をさして話したりしていた。両手の甲を目元に当てて、俺がないたことを示すようなジェスチャーを対面の相手にしている。

 周囲が暗闇に満ちていき、壇上から伊三郎が車椅子に押されて、光を集めていた。右手にあったマイクのスイッチをオンにした。


「皆さんご参加ありがとうございます」


 長男計画の概要が終わったら、今回の参加者として竹内、塩見、俺の順番に周知させていく。

 誰が生き残るのかを話題としてあげていた。


「今回は誰が成功しますかね」

「古谷くんレベルいますかもですよ」

「この中から、ですか? どうしても成功するとは思えないメンツですね。ほら、俺たちを見てる和白くんなんて情けなかったですよ」

「あはは。聞きました。彼みたいな人は初めて見ましたね。彼は無理でしょうね」

「やっぱ、成功する人って挑戦して経験を収めてきた人じゃないですか? 彼の父親から提出されたファイルに書かれた通りなら、ホントなんのために生きていたって感じでしたよ」

「そんな人が生き残るから熱いんじゃないですか」

「ほんと、あなたは消費するのがうまいね!」


 勝郎が遮ってきた。

 彼は自分らに対して長男計画のシステムを教えてくる。


「長男計画は3点とれば出られる。まずここで接客をしてもらう。評価が良ければ1点もらえる。せいぜい抜けだせるように頑張れ」

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