○第10章 とりあえずカミングアウトする

 風呂が終わると、次は食事の準備をするようにとハジメに言いつけるフェリス。完全に下働きの人間と同じ扱いだ。兄だというのに。ハジメは食事の用意を料理人たちにお願いすると、紅茶を持ち、ムリークを連れて散歩に出ることにした。行く場所がなくなってしまったのだ。

 就職して、街へ住もうと思ったのに、大臣の策略のせいで追い出された。今は当然出禁だ。

 妹のこともあるから、街へ入ったらすぐさま捕まるだろう。かといって城にも居づらい。完全に妹の天下だ。父はというと、何とか母の部屋で自体が収集するのを待っている。母はまだ産後の調子が悪いので、言い訳になる。フェリスはずっとワンワと一緒だ。ワンワもそれでよしとしているから問題なのだけど、ワンワもフェリスもどちらとも年上の男のいうことをまったく聞かないから厄介なのだ。それなのに、ワンワは格闘家のスキルを持っているので、フェリスのいい護衛になってしまっているし、フェリスはその気になればいつでも世界を滅亡させられる力を持っている。もう普通の人間じゃ太刀打ちできないどころか、話しすら聞いてもらえないだろう。


「ムリークはさ、なんで諜報兵になったの」

「……もともと兵になってほしいっていうのが、両親の願いだったんだ。でも僕、あんまり素質なくってさ。足が速いことくらいしか自慢できなくって。だから諜報兵ならいけるかなと思ったんだ」

「ふうん。それでも自分にあった仕事に就いたんだから、すごいよね」


 ハジメは大きく深呼吸すると、むせた。空は暗くて、空気もほこりっぽい。こんなところで深呼吸したら、むせるに決まっている。ハジメの背中をムリークはさすってやった。


「大丈夫?」

「……ふふっ、あのときもこうしてくれたよね。学校に通っていたとき」

「え?」


 今までボーッとした表情しかみせなかったハジメが、真剣な顔で振り返る。ムリークはびくりとした。あのとき……学校に通っていたとき。


「ムリークもなかなかだったけど、俺もすごかったでしょ? バカでアホで、何にも知らないニートの役は」

「に、ニートの役……?」


 背中をさすっていたムリークは、ハジメから手を離し後ずさりする。


「父さんに吹きこんだんだよね。使用人に紛れてさ。こんな風かな? 『妹さんができるのに働かないでいたら……一生社会に出られなくなる。そうしたらユタカ様やフェリア様が亡くなった後、どうやって暮らすのか……』なんて不安でも煽った? それとも単純に『ハジメ様も無職だったらまずいんじゃないですか?』かなぁ」

「な、何のこと? ちょっと待ってよ、ハジメ! なんで僕がそんなことを? 意味がわからない!」

「決まってる。俺を街に寄越すためだ。そこで俺と無理やり知り合いになった」


 ムリークは黙る。いつからだったのだろう。ハジメは全部気づいていたんだ。ずっとアホでバカでとんちんかんなことばかりしていたのに。ムリークはそれを本当のハジメの姿だと信じて疑わなかった。自分自身も偽っていたけど、絶対にハジメには見破られない……そんな自信すら持っていたのに。


「君の本名は、スグル・タナカ。母さんの遺伝子と父さんの遺伝子を使って科学者たちの力で作った最終兵器だ」

「は、はは、まっさか! 冗談も休み休み言ってよね。っていうか、ハジメは冗談も本気でいうからわかりにくいって言うか、バカらしいっていうか……」

「バカらしくなんてない。俺の双子の兄弟、だよね。そして同じ学校にいた級友だ」

「………」


ムリーク、いや、スグルは口を閉じた。スグルとハジメの出会いは、子どもの頃。ハジメには『ご学友』というものが必要だった。ハジメには悲しいことに、自分で友達を作ることも許されなかったのだ。どんな思想にも左右されず、悪に染まらないためのまっすぐな人間。そんな人間を『ご学友』として選ばなくてはならなかった。それに選ばれたのがスグルだ。スグルは兵器として作られた人間だが、警備兵の家庭の息子として育てられていた。

級友になったスグルとハジメはすぐに仲良くなった。だが、あっという間に離されることになる。スグルが本当に作られた理由。それは、魔王の力が大きくなり、再び世界を滅ぼそうとしたとき、母の細胞に埋め込まれていた膨大な魔力を使い、魔王とその一族を殺すという理由だった。元々は国王の兵器だったが、今は違う。自我を持ったスグルは、諜報兵として動くと同時にある計画を練っていた。国王の兵器? 自分はそんなくだらないものだったのか。だったら魔王が一生国を襲わなかったら、自分の存在価値はなくなる。それだったら……それだったら自分が戦争を起こしてやる。そう思ったスグルは、まず魔王城に忍び込み、ユタカを焦らせた。バカ息子だと噂のハジメに取り入って、城の情報を聞き出す。ある程度仲よくしておいてもいい。そのために名前もムリークと名乗った。まんまと引っかかっると、グッドタイミングなことに、うっかりハジメは国王を殺していた。これで全面戦争のシナリオは書けた。でも、王国に勝たせるわけにはいかない。くだらない理由で、自分という兵器を作ったことは許さない。かといって、魔王を助ける? そんなことするわけがない。

魔王の遺伝子は入っているが、自分を育ててくれた親でもなんでもない。だったらやることはひとつだ。自分の魔力を使って、この世界を乗っ取る。魔王にも国王……今は大臣だが、そいつらにも奪われることはない。自分だけの世界を作るのだ。


「……ははっ、ハジメじゃないみたいだね。間抜けでもバカでもアホでもないキミは、なんだか別人だ」

「俺は『とびっきり』のバカだよ? ……ま、真のバカは天才にしかなれないけどね」


 持ってきた紅茶を注ぐと、それをスグルに渡す。ハジメも自分の分をいれると、それを口にした。ハジメが飲んだのを確認すると、スグルも紅茶を飲む。


「ハジメは全部知っていて、なんで僕を放置してるの?」

「面倒だから、っていうのが今までの俺だよね。でも違う。本当の意味は他にある」

「教えてもらえないの?」

「……教えられるかな。命がけにはなっちゃうけど」


紅茶を飲み終えると、ハジメは立ち上がってズボンについた草をパンパンと落とす。命がけってどういうことだ……? スグルも思わず立ち上がり、臨戦態勢に入る。


「俺の能力は知ってるよね」

「ああ、お菓子の材料が出てくるってやつだよね」

「スグルは自分の能力について、知ってるの?」


 そう問われて、無言になってしまうスグル。自分が、膨大な魔力を秘めていることは知っている。色んな大人から言われていることだ。きっとこの城も王国も破滅させることができる力だ。よくは知らないが、きっとそうだと信じている。それに例の呪い。ハジメにはかけられていたけど、自分はかかっていない。初めっからこの世界で能力を使うことができるはずだ。今までずっと、虎視眈々と『そのとき』を待っていた。それが今だ。


「僕の力を見せてほしいの? そしたらワンワちゃんとキミの家族たちは全員死んでしまうよ?」

「さあ、それはどうかなぁ?」

「えっ……うわぁっ!!」


 ハジメの腕から出てきた生クリームが、スグルの身体の動きを封じる。


「ちょ、ちょっと待て! これはなしだって!」

「先手必勝だよ」


 生クリームが出てくると、今度はふたつに切れたスポンジがスグルを挟む。さらに生クリームが降り、果物で飾りつけすると、ケーキのできあがり。スグルは完全に動きが取れなくなっていた。


「くそっ……!」

「俺の力はこんなだけど、君はもっとすごい力を使うんでしょ。やってみてよ。できるならね」

「できるに決まってるだろ? はぁぁぁっ!!」


 スグルの周りには、ぽつぽつとフェリアが起こった時のように、鬼火が灯る。だんだんと火は赤から青に変わって、大きくなっていくが――パンッ! と大きな音を立てて、炎は消えてしまった。


「な、なんでだ……?」

「君と俺は『双子』なんだって。君は遺伝子操作をされたけど、母の腹から生まれてきたのは同時だ。魔力は俺とスグルで半分ずつに分けられた。でも双子の魔力というのは不思議なものでね。片方が大量の魔力を使うと、もう片方は相方に使われた分、使える量が少なくなってしまうんだ」

「はぁっ!?」


 ハジメは呆気に取られているスグルにさらに続けた。


「これがスグルひとりの力だったら、確かに兵器になっただろうね。だけど、君につけられた能力っていうのは、お互いの力をコントロールし合うものだったんだ。だから、この世界を手に入れようとしても無駄だよ」

「ちくしょうっ!」


 スグルがキレて、スポンジを思い切り殴ろうとした瞬間。ケーキはぽふんと消えた。


「僕は今まで、何のために生きてきたんだろう……」


 しゅんとして、ひざを抱えるスグル。相変わらず身体は生クリームだらけだ。


「生きてきた意味なんてないんだよ。これからどう生きるかじゃない?」

「無職に言われたくない」

「俺だってこれからはちゃんと仕事に就く」

「何の?」

「……それはまだわからないけどね」

「ダメじゃん」

「……とりあえず風呂、行ってくる?」


 スグルがうなずくと、ハジメは持ってきた紅茶のセットを持って、城へと向かった。


 妹たちは食事を終えて、王国をどう攻めようかと考え中。勇者と魔王の夫婦は、ただひっそりと部屋で休んでいる。ハジメとスグルも部屋で、これからどうするかを悩んでいた。

王国を乗っ取ろうとしていたスグルも、自分の能力が大したことないとわかった今では、何も案がない。フェリスとともに世界を手に入れるということはできるかもしれないが、生まれて0ヵ月の赤ん坊に仕切られたくはない。


「フェリアさんとユタカさんはどうするって?」

「娘の自主性に任せるって」

「さすがに戦争はまずいんじゃないかなぁ?」


 先ほどまで自分が攻める気満々だったはずのスグルが、戦争反対派に回っている。自分のものにならなければ、意味がないと考えているのだろう。その上、妹とそのお付きふたりに好き勝手されるのは、嫌だ。

だけど今のふたりにはフェリスやワンワを止める手立てはない。どうするか。


「……俺、こういうことがあるんじゃないかって実は前から考えてたんだよね」

「そうなの? ハジメが!? 意外すぎるんだけど……」

「もし俺ら以外に弟か妹ができたら。双子じゃない限り、能力はひとり占めだ。そしたら本当に世界はなくなる」

「なくなっていいと思ってたんじゃないの?」

「まぁね。俺にとっては母さんも父さんもフェリスも世界も生も死もどうだっていいんだ。

だけど――俺以外の人は、そう思っていない。だったら俺が勝手に世界なんかなくなってもいい、なんてことも、単なるひとりの意見でしかない。大勢のみんなは、明日も世界があってほしいと思ってる。多数決の論理だよ。だから世界はなくしちゃいけない」

「ハジメって、ボーっと考えてるようで、屁理屈こねてたんだなぁ」


 ハジメは一瞬ムッとした表情を見せたが、またいつもと変わらない顔に戻る。そして紙に

なにやらメモを書きはじめた。


「なになに、小麦粉300g、砂糖150g、卵2つ……って、お菓子の材料? また菓子作りするのか!? この一大事ってときに!」

「一大事だからだよ。スグル、僕らは似てないし、あの小屋のせいで年齢も見た目も違うけど双子だ。双子は対になるものだろ? だから大きな能力を分け合うことになっている。

だけど、フェリスは?」

「魔力をひとり占めにできる……?」

「そう。だけど、兄と妹もある意味対になるものだ。だったらこの手が使えるはず。明日、俺の菓子作りを手伝ってくれ!」


 よくわからないが、これでフェリスの思惑がどうにかなるなら手伝うしかない。スグルは同意すると、ベッドに横たわる。今日は自分がベッドを占領だ。遅くまで起きていたハジメは、ソファに横になった。


翌朝。早く起きたふたりは、食堂の料理人たちに『食後にデザートを出すから、朝食は少なめにしてほしい』と頼んだ。

 予想通りフェリスとワンワは朝食を済ませてもまだ空腹なようだ。そこへハジメとスグルが出てくる。


「フェリス。ワンワちゃんもそれだけじゃ足りないよね。だから兄ちゃんがスイーツを用意したんだけど……食べるか?」


 フェリスは一瞬躊躇した。スイーツは食べたいが、兄は嫌いだ。このやたら身長の高くて、柔らかそうな栗色の髪。少し垂れた目は愛嬌がある……というモテ要素がすべて嫌いだった。


「スイーツに罪はないと思うけど」

「……それなら食べるわよ。持ってきて!」


 ハジメとスグルはニヤリと笑う。ふたりが運んできたのは、大きなチョコレートケーキに、ババロア。エクレアにモンブランとどれもこれもおいしそうだ。


「ワンワから食べてくれる?」

「もちろんです!」


 完全にフェリスの手下になったワンワは、ひとくちずつスイーツを食べていく。


「……異常なところはないと思いますよ? 味もおいしいです」

「そう? じゃああたしも食べようかな」


 菓子作りをしたふたりは、白い帽子を手にして、にやりとゲスな笑みを浮かべる。魔力を持っていないワンワに食べさせても意味がないのだ。なにせこのスイーツは、『食べた人間の魔力を吸い込む』ものなんだから。

 ハジメは考えた。双子は対をなす関係だ。兄妹も同じく。男と女、上と下と対になっている。ということは、ハジメとスグルの能力と一緒だ。どちらかがいっぱい能力を使うと、片方の力はなくなってしまう。だからハジメはあるスイーツを考えることにした。母の持っている魔力の使い方の本を見ながら、必死に編み出したもの。それは『魔力を吸い取ることのできるスイーツ』だ。だが、これを作るのにもたくさんの魔力が必要だ。しかしこの場合、それは余計にラッキーでしかなかった。兄が大量の魔力を使えば、妹の魔力も少なくなる。さらに魔力を吸い取るスイーツを食べたら……?


 食事が終わったフェリスとワンワは、さっそく戦闘装束に着替えて街へと向かう準備をする。ハジメとスグルもだ。フェリアはもう魔力はほとんどないし、勇者であるユタカは、娘を倒そうという気持ちがない。こうなったら自分たちでどうにかするしかない。

 フェリス軍の行進に合わせて、ハジメとスグルもついて行く。街はすでに戦火に包まれていて、大混乱だ。そんなときに魔王軍が来たら……。

大臣のもとについていた兵たちが、一斉に弓を向けてくる。


「ふふふっ、そんな弓であたしを倒せると思ってるの!? えいっ!」


 手をかざし、飛んできた弓を止めようとするフェリス。だが、弓は止まらず、頬をかすめる。


「え!? ちょ、ちょっと待ってよ! えいっ! えいっ!!」

「どうしたんですか!? フェリス様っ!」

「ワンワ、魔力が……魔法が……使えないのっ!」

「えぇっ!? じゃ、じゃあ、ワンワたちが街を征服するしかないじゃないですか!

でも、人数が足りませんし……」

「ど、どうしようっ!!」

「お困りですか? お嬢さん方」


 ふたりの前に颯爽と現れたのは、ハジメとスグルだった。


「クソ兄貴と友達!? な、なんなのよ! あんたたち、あたしに何したの!?」


 慌ててぎゃいぎゃい騒ぐフェリスに、寄り添うワンワ。ハジメとスグルは、先ほどの

スイーツの写真を見せる。


「これは、さっきの?」

「ちょっと細工させてもらってね。このスイーツは、魔力を吸い取るんだ」

「な、何ですってぇ~!!」

「ついでに言うと、俺たち兄妹は3人でひとつなんだ。ひとりが大量の魔力を使うと、他のふたりの取り分が減る。俺はこのスイーツを作るために、膨大な魔力を使った」

「……ということは?」


 スグルが笑顔でふたりに近づく。


「いやああっ!」

「フェリス様はワンワの後ろに!」

「……あのね、正体を隠してたのは、ハジメだけじゃないんだよ」


 そう言いながらスグルは腕をまくる。構えるワンワを見つめると、フッと笑い腕を取る。


「女の子の細腕だと、折れそうだね」


 そのまま後ろに投げようとするが、ワンワも負けはしない。靴に隠していた短刀を手にすると、スグルの腹をめがけて刺す。しかし余裕でかわされると、前髪を耳にかけられた。


「戦う女の子はかわいいけど、髪の毛を振り乱したらセットしたのが無駄になっちゃうよ?」

「スグル、あんなに動けたんだ。俺より電流デスマッチ、向いてたんじゃないの?」


 砂を吐きそうな口説き文句を話しながら、スグルはワンワのみぞおちに一発入れて仕留める。


「で、お弟子さんたちはどう思ってたのかな? 今なら逃げられると思うけど?」

「正直ロリじゃなくなった師匠に魅力なんてなかったんだ!」

「ババアは敵だ~!!」

「あらあら」


 見ていたハジメはくすくすと笑う。残されたのは気絶したワンワとフェリスだけだ。


「あたしの負けよ……どうにでもしなさいよ!」


 その言葉にハジメとスグルは顔を見合わせた。


「負けっていっても、家族間の問題だからさ。まぁ、王国には迷惑をかけちゃったけど」

「とりあえず帰ろう。魔王城に。それから考えようか」


 気絶したワンワを道場に置いて行くと、ハジメとスグルのふたりの兄とともに、フェリスは城へと帰ることになった。



「え、ムリークってうちの息子だったの!?」


まず驚いたのはそこだった。双子を生んだことはさすがにふたりとも覚えていたが、ひとりは研究機関で育てると言われたふたりは、泣く泣く手放した……というわけではなく、跡取りはひとりでいい。もうひとりは普通の家庭で普通の青年として生きて欲しいと思ったのだった。しかし残念ながら、そのもうひとりの息子は自分を『兵器』だと思い込み、ずっと世界を手に入れる日を待っていた。だがそれは失敗した――というところまでを両親に話した。


「ただの吟遊詩人だと思ったら諜報兵で? その本性は勇者と魔王の息子……」

「でもあれよねぇ~、一般の家に育ったせいか、ハジメよりは真面目に

働いてたのねぇ~」

「それ言わないでよ」


のんきな3人といつの間にかそのメンバーに加わって笑っているムリークことスグルを見たフェリスは、ひとりむっつりしながらあぐらをかいていた。


「なによ! みんな平然と笑っててっ! あたしは魔力が戻り次第、また王国を……」

「いや、それはやめたほうがいいんじゃないかなぁ?」


 フェリスを止めたのがスグルだった。


「だって考えてみてよ。何回も魔王軍が王国を襲ったら、さすがに魔王城に兵が乗り込んでくるよ」

「そうねぇ~……どうする? ダーリン」

「俺にひとつ考えがあるんだけど……みんなはどう思うかな」


 ハジメがゆっくりと手を挙げる。

 ハジメたちが家族会議をしているなか、王国はというと――。


「ええいっ! まだニートしか出てこないのか!? 1000人を超したぞ!」


 兵たちはニート以外の勇者を探そうと必死だ。それでもまだ見ぬ勇者を探すために、異世界へのゲートをごちゃごちゃとかき回す。

腕利きの格闘家であるワンワが倒されて帰ってきたと噂を聞いた国民たちは、勇者ユタカを信じず、新しい勇者が現れることを心待ちにしていた。


「くっそ……これでどうだぁっ!!」


 兵たちが引っ張り出してきたのは……。


「こ、これは、いけるんじゃないか!?」

「ああ、彼なら魔王にもまけない勇者になるっ!」

「なんですか……? おたくたち」


 兵たちが引きずり出したのは、瓶底メガネにスリッパを履いた白衣の男だった。

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