義妹たちによるノクターン4
バイトを終えて家に帰り、茉莉と手紙のことについて話し合った。
芹香さんが俺にあてた手紙の中で、俺と芹香さんの関係について触れていなかったことは意図的だろう。おかげで手紙と通帳をそのまま渡すことができた。そしてこのとは、今の家主となっている美和にも相談しないわけにはいかないだろう。
リビングの隅には美和の義母でもある碧さんがいたが、話はそのまま進めることにした。
同居人となっている碧さんにも話を聞く権利があるし、聞いておいてほしい話でもある。
「つまり、お金の心配はないから早々にここを出て行く、ということなの?」
「なるべく迷惑をかけるわけにはいかないから、早いうちにそうするべきだとは思っているんだ。だけど、高校生の俺たちの名義でアパートを貸してくれるところはなかなかないだろうから、すぐにはむつかしいと思う」
「あのさ、そりゃあふたりが新婚生活をイチャイチャしたくて二人きりになりたいという気持ちはわかるよ」
「いや、別にそういうわけでは」
「ごめん。それはちょっとした厭味なんだけどね。でも、あたしとしては、できることならもうしばらくは、いや、ずっとでもいいからここで一緒に住んでもらったほうが嬉しいとは思うのね。前にもいったけど、あたしは一応天涯孤独で寂しい立場でもあるんだ」
奥の方で話を聞いていた碧さんが口を挟む。
「ちょっとおばさんに口出しさせてもらうよ」
そう言いながらカウンター席を立ちあがり同じダイニングのテーブルにつく。
「まあ、そんなに急いでここを出て行く必要はないんじゃないかなってアタシも思うよ。まだ学校に通うならいろいろとやることも多いだろうしさ。それに何よりまつりちゃん、だっけ? 子供育てたことないでしょ? 案外大変なのよそれがさ。助けてくれる人は一人でも多い方がいいわけ。だからさ、少なくとも子供が生まれて、落ち着くまではここにいてもいいんじゃないかな」
たしかにそういわれれば一理あるように思える。そしてその言葉に美和が反応した。
「あれ、そういえば碧さんって子供育てたことあるの?」
「子供なら生んだことあるよ。でも、子育てはしていないかな。あまりにも過酷すぎてね、アタシは投げ出しちゃったんだよ。まつりちゃんにはそうはなってほしくないからね」
「はっはーん。ちょっとわかったかも」
「なにが解って言うのよ、美和ちん」
「よ―するにあれでしょ。碧さんは子育てがしてみたいんじゃない? その、自分の子育てを投げ捨てたことを今でも悔いているから、茉莉の子育てを手伝うことでその意趣返しをしたいとか?」
「まったく、勘のいいガキはこれだから嫌いだよ」
「図星なんじゃん」
「あー、そーだよ。だからさ。アタシにもその子育て、手伝わせてほしいんだよ。それにさ、茉莉ちゃんの作るごはんはおいしいからね」
「えー、ちょっと碧さん? それはあたしの作る料理がおいしくないってことですか?」
「そんなこと、居候のアタシが言えることじゃないだろ?」
「それ、ほとんど言ってるも同じだから。つか、普通は碧さんが料理つくってくれてもいいくらいなんだよ。一応あんたはあたしの義母なんだからさ」
俺たちは新しい居場所を見つけることができた。しばらくはこの場所で、うまくやっていけると思った。
月曜日になり、何事もなかったように制服に袖を通す。茉莉も学校へ行くかどうかについては少し悩んだが、とりあえず行くことにしたようだ。
「いつまで行けるかはわからないけれど、思い残すことはないようにやりたいことは今の内にやっておきたいかな」
その言葉を今は尊重したい。学校ではすぐ近くに俺も美和もいるから、きっとどうにかなるだろう。
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