義妹とその母によるNTRのエチュード2

 翌朝。いつもの通りに時間ギリギリに起きてリビングに降りる。茉莉たちが来てからというもの随分と朝の生活がだらしなくなった。


「ごめんアオ。今日はお弁当作れてないの。ちょっと熱あるみたい」


 朝、パジャマ姿のままで俺のトーストとコーヒーを用意しながら茉莉は言った。

 顔全体が少し赤らんでいるのがわかる。


「だいじょうぶか? いいよそんなこと。朝食くらい自分で作れるから。ちゃんと休んでおけよ」


「うん、ありがと。まかせた」


 ふらつく足取りで二階へと上がる途中で一度振り返り、「あ、今日は学校休むから」とつぶやいた。


「ああ、わかった。担任には俺から伝えておく」


 担任の須藤は俺たちが兄妹になり一緒に住んでいることも知っているし、そのことをクラスの皆には秘密にしていることも把握している。


 そう言えば、父も食卓にはいない。もしかすると父もまた熱を出して寝込んでいるのかもしれないな。どっちがどっちに風邪をうつしたのかは知らないが、きっとそういうことだろう。


 学校に行き、昼休みの時間。茉莉の弁当はないからコンビニで安い菓子パンを買ってきた。


 鞄から取り出して食べようとしたときに斎藤さんが話しかけてきた。


「ねえ、折田君。お昼、一緒しようよ」


「え?」


「だってさ、今日茉莉いないし。あたしひとりぼっちなんだよ」


「そりゃあそうだろうけど、だからって」


「君、茉莉の彼氏でしょ。茉莉が風邪で寝込んでいるんならあんたが代わりにフォローしなさいよ」


「どう言う理屈だよ」


「つべこべいわないの」


 斎藤さんは俺の腕を引っ張り半ば強引に連れ去る。新校舎と旧校舎をつなぐ渡り廊下の下のひとけのないところに連れてくる。おそらく茉莉たちはいつもここで食事をとっているんだろう。


 当然ながら会話は弾まない。斎藤さんは華やかな弁当をつつきながら、その横で無言のまま菓子パンにかじりつく俺を斎藤さんが見つめる。


「なんか、わびしいもん食ってるね」


「今日は茉莉がいないからな。でも、茉莉と付き合う前はいつもこんな飯しか食ってなかったし、別に大した問題じゃないよ」


「ふーん、そーなんだ。あたし、茉莉と付き合う前の折田君なんて全然気にしていなかったから知らなかったよ」


「ああ、いや……まあそれはわかる話なんだけどさ。俺なんてクラスで目立つような奴じゃないわけだし。だからと言って正面切ってそんなこと言わなくってもよくないか?」


「あはは。傷ついちゃったかな? 折田君もいっちょ前に傷ついちゃったりするんだね」


「ほっとけよ」


「ごめんごめん。あたしのおかずあげるから許してよ」


 斎藤さんは自分の箸でつまみ上げたから揚げを俺の目の前に差し出す。


「え?」


「ほれ、ほれって」


「あ、うん」


 から揚げを口に入れ、咀嚼した。


「どう? おいしい?」


「うん。うまいよ」


「茉莉のとどっちがおいしいよ?」


「え、あ……いや……」


「あー、その反応はあたしの負けらしいなー。じゃあ、こっちはどうだ」


 斎藤さんは箸でつまんだ玉子焼きを差し出す。俺はそれを口に入れて味わう。


「うん……美味しいよ。卵焼きは、斎藤さんのほうが上だな」


「そう? ほんとうに?」


「ほ、ほんとうさ」


「嘘だね。わかるんだよ。あたしにはさ」


「……」


「折田君は優しいよね」


「別に……」


「ところでさ、折田君。最近、茉莉と何かあった? なんか最近二人、よそよそしい

よね」


 ――するどい。と思った。学校で俺と茉莉は付き合っていることにはなっているが、初めからそんなにべたべたしているわけでもなくて(付き合っていないのだから当たり前だ)、だからあの日告白してフラれて、気持ちの面で疎遠になってもそれほど変化はないと思っていたんだが……さすがは親友ということか。


「実は今日茉莉が学校休んでんのも、折田君との痴話げんかが原因だったりして」


「い、いや、そんなことはないよ。今朝だって赤い顔をしていて熱っぽかったし」


「今朝? あーれー? もしかして、今日は朝まで一緒にいたんだー。それで熱って、裸で寝てたんじゃないの?」


「あ、いや……そういうことじゃなくってさ……」


「わかってるって。本当は茉莉が昨晩から熱っぽくって、朝まで看病していたとか、そういうことなんでしょ?」


「え、えっとまあ……」


「でも、よく茉莉の親は許したよね。そんな結婚もしていない男女が夜通し看病するなんて……」


「え、あ、いや……」


「いいよいいよ。あたし知ってるから。茉莉のお母さん。夜の仕事しているからあまり家にいないんでしょ? その話なら聞いたわ。だから料理とか上手なんだって」


「そ、そうか……知ってたんだ……」


「でも、今の話でちょっと別の疑惑が出てきた」


「疑惑?」


「折田君ってさ、本当に茉莉と付き合ってる?」


「え、いや、つ、つきあってる……けど……」


「うーん、それにしてはなんかよそよそしいというか、うぶなんだよね。受け答えが」


「そ、そうかな?」


「ねえ、折田君は最近、いつ茉莉とえっちした?」


「え、エッチって……」


「別に驚く話じゃないでしょ? 普通、つきあってるならえっちくらいするでしょ。

あれ、もしかしてまだ?」


 どう答えるべきか迷った。

 当然茉莉とセックスしたことなんてあるわけがない。だけど、したことがないと言えば付き合っていることを怪しまれるだろうか。かといってそのくらいやっていると虚勢を張って、突っ込んだことを聞かれてもうまく返せる自信はない。俺は童貞なのだから。


 だが、すぐに答えを言わないということで斎藤さんは自分なりの結論を出してしまったようだ。


「あー、まじでないんだー。我慢できてる? さすがにそれはしんどいよね」


「いや、べつにそれ目的で付き合ってるわけじゃないし……」


「でも、したいよね? 男の子だもん」


「まあ、そりゃ……」


「じゃああたしとする?」


 口に含んだお茶を思わず噴き出した。


「じょ、冗談は……」


「別に冗談で言ってるわけじゃないよ。別に、あたしは全然かまわないんだけどな」


「いや、茉莉の友達じゃん」


「茉莉がえっちしないんなら問題なくない? それはそれとして割り切っちゃえばいいわけだし」


「だ、だからといってそういうわけには……」


「だーよねー。折田君ってそういうところ真面目だよね。でも、そういうところに茉莉は惚れたのかもだけど……」


 なんだ、やっぱり冗談だったのかと胸をなでおろす。もし、本気で言っていたのならば断ったことを後々後悔していたかもしれない。俺だって毎晩のように茉莉の喘ぎ声を聞かされて(盗み聞きしているのだが)理性を保っているのは苦しいのだ。


「真面目か……言われて喜ぶ男はいないけどな……」


「まあそれもそうか。不真面目でもえっちできる人間のほうがうらやましいよね。つかさ、折田君のほうも少しは茉莉に危機感くらい持たせてもいいんじゃないかな」


「危機感?」


「いつまでも、自分が独占なんてできないんだっていう危機感」


「いや、独占もなにも」


「いやいや、折田君ってさ、最近株急上昇なのよ。まあ、きっかけは茉莉と付き合ってるっていうことが有名になったからなんだろうけど、よく見ると優しくていいやつっていうの感じで、今ならその気になればやらせてくれる女子なんていくらでもいるわけ。あたしだって、折田君がその気ならいつでも相手するよ」


「ほ、本気だったのか?」


「それはさておき、茉莉に危機感を持たせてみるのはありなんじゃないかって思うわけよ」


「危機感を持たせるって、でもどうやって……」


「そうね。とりあえず今からあたしのことは『美和』って呼ぶようにしなよ。あたしも『蒼君』って呼ぶからさ。別にあたし達、元々友達なわけだし何か言われてもそんなに変じゃないでしょ? でも、そうやって周りでちょっとした変化があれば茉莉も少しは危機感もつんじゃないかな?」


 ――なんてな、そんなことに気を遣われたところで事実は別のところにあるわけだが、だからと言ってなまじ断りにくい提案でもある。下手に断ってビビっているなんて思われるのもごめんだ。


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