第5話
四月一日。世間ではエイプリルフールだ。
だけど私にとってこの日はエイプリルフールじゃない。誕生日。
本来なら祝ってもらって一年で一番幸せの日なはずだ。
なのにおめでとうの言葉が、たいして親しくない人達の嘘で、どんどん塗りつぶされていく。幸せの日が、苦しい日になっていく。何が辛いって、たいして親しくない人には悪意がないってこと。その日が私の誕生日なんて知るわけがないし、私だってたいして親しくない人に『誕生日』なんて言いまわるようなこと、したくない。
これがもっとうまく立ち回れる人なら、エイプリルフールも楽しめるかもしれない。だけど私は不器用で。嘘と本当を見抜けない。
だからこの日はシャットダウンすることにしたんだ。そうすれば私も傷つかないし、周りも気にしなくていいから。
そんな私の様子にいち早く気づいたのは春希だった。ほっておいてくれていいのに、毎年この日になると押しかけてきて。やがてお母さんもそれに気づいた。私が中学に入ってから働きはじめたお母さんは、この日だけはお昼に私と春希の分を用意するようになった。私の大好物のハンバーグを。
それ以外に特別な事をするわけじゃない。
特に会話が盛り上がるわけじゃないけど、春希はずっとそばにいる。
だらだらとゲームをした年もあれば、今年みたいに配信ドラマを観続けるということもある。
そうして夕方、「じゃあな」って帰っていく。
中学に入ってからは学校でも家でも、お互い疎遠になっていたのに、この日だけは、春希は絶対私のところへやってくる。
そんな春希を、私はどこか心待ちにしているのだ。
春希は絶対に、嘘をつかないから。
エイプリルフールでも、春希だけはいつも、本当のことしか言わない。
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