第2話 デタラメの英雄譚 その1
例えばさぁ……。か◯はめ波を打つ練習ってしたことある?
そんなの誰だってやった事あるじゃんね。そう。寝てる時とかに、ベットの上で照明のスイッチに向かってさ。お腹に気のエネルギーをいっぱいに貯めて、両手を前に突き出して「ハァーッ」ってやるの……。
でもまぁ、結局は何が起こるわけでも無くて。その時に現実のつまらなさってやつを実感しちゃうわけなんだけど。皆んなもさ、ベットに寝転びながら試したことあるでしょ?だから当然知ってるよね。現実ってやつをさ。
でさぁ……話は元に戻っちゃうんだけど……。あれって本当はどうやって修行するんだっけ?亀の甲羅を背負って毎日牛乳配達をするんだっけ?
あぁ……。やっぱり、もっとしっかり覚えておけば良かったなぁ〜。
「だってさぁ、ここだけの話。あれって本気で修行すれば絶対に出来るようになるよ。この異世界って所ならね。」
◇◆◇◆◇◆◇◆
さて。
それを知ってる俺は……。そう。もちろん現代日本からファンタジー世界へと転生した転生者。
「オープンステータス!!!」
って言っても何も出てこなかった系の……。そして女神や神様にも会えなかった系の。
いやいや、今さらそんな事は、どうでも良いじゃないか。それはそれで俺は今が充分に幸せなんだから。
なんたってこっちの世界の俺には目に入れても痛くない、むっちゃくちゃ可愛い妹がいるんだぞ。まぁ住んでる場所は田舎だし、両親が行方不明だし、薬草採取が仕事のド底辺だけど。
そんな事どうだっていいじゃないか。俺は多くを望まないタイプなんだよ!
でもさぁ……俺。妹に好かれたいあまり……ちょっと調子に乗りすぎちゃったんだよね。
きっかけは龍の鱗だったんだ。
そんな最高級ドロップアイテムがそうやすやすと手に入る訳無いんだけど……たまたま道に落ちてたんじゃぁ仕方ないよね。
そりゃ、そんなのが落ちてたらもちろん誰だって拾うだろう?
そして……。
やっぱり誰かに自慢したいよね。
でもさ……。
嘘はいけないよ。嘘は。
例えば、そんな貴重なアイテムを家に持って帰って、大好きな妹に――。
「ほら見てみろ。龍の鱗だぞぉ。実はなぁ、みんなには内緒なんだけど兄ちゃんは腕利きの冒険者なんだ。お前も北の国境付近に出たドラゴンが退治されたのは聞いてるだろ?あれを倒したのが兄ちゃんだ」
などと言ってみろ。
妹はその日からクリクリのお目々をランランと輝かせて、超〜尊敬の眼差しで見てくるぞ。それで、事あるごとに「どうやって倒したの?」とか「お兄ちゃんの剣術を見せてよ〜」などといってくるんだぜ。
本当……調子にのってゴメンナサイ……。たかだか薬草の行商人が、出過ぎた嘘をついてしまいました……。
今日も、山に薬草を摘みに行くだけなのに
「お兄ちゃん。今からドラゴンやっつけに行くの?」
なんて言って、妹が無邪気に俺の後ろをついて来てさ……。正直言って罪悪感が半端ないです。あぁ~。今さら嘘だとは言えないよね……。
だって俺さぁ。本気で絶対に妹のレイラにだけは嫌われたくないんだもん。
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