第47話 竜の里
崖沿いの危険な道を暫く進んでいくと道が山へとなだらかに続いている。山に入ると木々も認められ今までの危険と隣り合わせの道に比べれば随分と快適に通行することが可能となる。合わせて分かれ道なども出てくるが、アルディナの指示の元進んでいく。
「う、うーん……」
「あ、おねーちゃん!」
「こ、ここは?」
「目が覚めたかい? 魔力切れでぶっ倒れたんだよ」
「そうだったの……それにしては、目覚めが……」
「一応魔力を補充したんですけど、問題ないですか?」
「魔力を補充? 一方的に? いや、でも、確かに……って、え、なに、この気配……」
「周囲に魔力に似た気配を感じるようになってると思います。それはマナと言って、魔力の……元? 原始的な力です」
「え、なに? 私に何をしたの?」
「おねーちゃん、二人は助けてくれたんだよ、まずはありがとうでしょ?」
「あ、ああ、そうだったわね。私はサリューシャ。
妹のアルディナと私を助けてくれて、本当にありがとう」
「間に合って良かったぜ」
「それにしても、牛人と人間って、どういう組み合わせ……、それに、こんなところになんの用なの?」
「話すと長くなるんだが、まぁ、口利きしてもらったほうが良いからな……」
それからマリスは今までの旅や今回の竜の里に向かう理由などをサリューシャに説明する。
「確かに、ここ最近うちの里もおかしなことがたくさん起きているし、長老の言葉も腑に落ちた。そう……世界が、危ないのね……」
「理性的だね竜人はラゴン」
「うるせぇやい」
「それに、このマナ、非常に興味深い……もっと詳しく教えて欲しい!」
どうやらこのサリューシャという人物は非常に好奇心が旺盛のようだ。
マリスにあれやこれやと質問を投げかけ、試し、そして理解していく。その理解力の高さにはマリスも舌を巻いた。
「またおねーちゃん周りが見えなくなってる……」
「いつもこうなのか?」
「うん、今回も本当は崖の方まで行っちゃダメだったのに調べ物してたら崖まで出ちゃて、アイツラに襲われて」
「そうか……マリスがたじたじなのは初めて見たな……」
「あ、そこ右に入ると川に出るから後は川を登っていけば里に着くよー」
「そうか、ありがとなアルディナちゃん」
「えへへ」
がっちがちの問答をしている姉と対象的に妹はのんびりとラゴンと車に揺られている。アルディナの言う通り暫く進むと小さな川に並行した道に出る。そのまま川を登るように道を進んでいくと石が組み合わさるように積み重なった壁に囲まれた都市が現れた。
「おお、こんな場所に立派な壁で守られてるじゃねーか」
「このあたりは魔物が多いから、だから竜人は強いんだよ」
「すごいなー。魔法も使えるんだよな?」
「あ、ちょうどいいから見てて」
アルディナは周囲を見渡すと森の中に魔物を発見する。ラゴンやマリスも気がついていなかったので、それには驚いた。
「チケは気がついていたよ。それ、アーススパイク」
アルディナが魔法を唱えるのに合わせてチケが速度を緩める。魔物の下の地面が槍のように尖って魔物を貫いた。
「……すげーな」
うさぎ型の小型の魔物だが、だからこそ魔法を当てるのは難しいだろうと簡単に予想ができた。移動しながらの馬車から正確に魔物を射抜いたアルディナの才能に二人は驚くしかない。
「アルディナは天才だから、あなた達が来なかったら仕方ないからアルディナに助けてもらうつもりだったんだけど、色々と試したら魔力切れになっちゃった」
この姉、最初の印象とは異なり、中身は結構なポンコツである。
「あ、もうすぐ門が見えるよ」
石の壁を回り込むように走っていくと衛兵に守られた門に到達する。
「止まれ!!」
門から少し離れた場所で止められ、魔法使い風の装備に身を固めた竜人が警戒しながらこちらを観察している。しかし、アルディナの姿を認めると警戒心は溶ける。
「アルディナ! 帰りが遅くて心配したぞ、どうせサリューシャの世話をしてたんだろ? それで、こちらの人たちは?」
「私達を助けてくれた人間のマリスと牛人のラゴンよ。悪い人じゃないし、大事なことをお知らせに来てくれたの」
「そうか、アルディナが言うのなら心配ないだろう。お客人、遠路はるばる大変だったな」
「随分と様子がちがくないか?」
「ああ、俺も驚いている」
「さぁ。とにかく壁の中へ入ってから話そう」
門が開かれチケのひく車は街の中へと入っていく。
竜人の里は石が緻密に積み上げられた美しい建物が並んでおり道もしっかりと石引で非常に洗練された町並みになっている。川を街の中に取り込んでおり水路も綺麗に整備されている。牛人の里よりもかなり都会な印象を受ける。
「これは凄いな、今まで見た街の中で一番綺麗だ」
「魔法による加工は熟練の技術に勝るってのは本当なんだな」
マリスもラゴンも町並みに感心しきりだ。
「一番奥の一番大きい建物が里長の館、そして私のお家」
「……あー、なるほど」
「つまりお二人は里長の娘姉妹なのかい?」
「孫姉妹だな正確にはアルディナちょっとこっちに来てくれるか?
マリス、さぁ、見せてくれ」
「え、見せてくれって?」
「お前の特殊な回しを見てみたい」
「いや、ちょっとアルディナちゃんの同意がないと……」
「面白そうだしいいよー」
「軽いなー」
「よし、さぁ、マリス君、早く早く」
「まぁ、どうせ広めてもらうから……それじゃあゆっくりやってくね」
マリスはいつも通り魔力を循環させていく、そして驚く、魔力回路の太さ的には拡張を必要としない、あとはマナを感受する感覚のスイッチを入れれば良いような状態だったのだ。
「凄いな……」
「凄いのはマリスさんですよ、私とちゃんと魔力流せる人、里にはいない……
ちゃんと流せると、こんなに、あったかくて、いっぱいになるんだ……」
「ちょっと強くするね」
「ああ、凄い……熱い……くっ……」
幼い竜人でも妙に艶のある声にラゴンは前方に集中するのだった。
こうして、姉妹はマナの真理に触れることになる。
これが後に大きな問題になることを、まだマリスは知らなかった。
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