第15話 非難

 マリスは少しづつ敵を街から離れさせるように立ち回っていた。

 すでに周囲の魔獣も倒され、衛兵も冒険者たちもただマリスが巨大な魔獣を倒すのを眺めているだけだった。魔法による攻撃による援助も逆にマリスの立ち回りを邪魔する形になってしまい、本当に見ているだけになっていた。


「獣人の宝ってあんなにすげーのか」


「いや、俺はあれがあったとしてもあんなことは出来ねぇ」


「死ぬのが怖くないの……」


「あんなことをずっと続けてきたってことだろ……狂ってる」


「自分の命が惜しくないのか」


「やめろっ!!」


 冒険者たちがマリスに浴びせる言葉に我慢ができず、フォルスは声を荒げた。


「今マリスは俺たちの、俺たちの街を守るために頑張ってるんだ!

 感謝こそすれ、避難するなんてみっともない真似をするな、共に戦えない自分たちを恥じろ!」


「あ、ああ……、そう……だな」


「何も出来ねぇ自分たちを……情けねぇ」


「す、すまねぇ……」


「俺たちはできることをする、まだほかにも魔獣はいる可能性がある!」


「よし、周囲を警戒するぞ!」


「おおっ!」


 不穏な空気が流れかけたが、フォルスの檄によって冒険者たちは街の周囲の警戒に当たる。


 一方マリスは死と隣り合わせの戦いを続けていた。敵の攻撃がかすりでもすれば、もし防いだとしても防ぎ方ひとつ間違えるだけで致命的な状態になる戦闘。

 そんな強敵に臆することなく敵の間合いに飛び込み一撃を放つ、そんな作業を繰り返していた。力も早さも体力も圧倒的に相手が上、霊獣という手段を最大限に生かしてなお劣勢は覆りようもなかった。唯一の優位は、魔獣オオジャキの知性が高くないこと、ただ力を振り回し生者を喰らおうとする獣に過ぎないということだ。

 ぼさぼさの黒髪は動くごとに乱れ、真っ赤な瞳は目の前の小さな敵に怒りを露わに輝いている。丸太のような腕、筋肉の鎧の上にぼろぼろの布をひもで巻き付けたような原始的な服、地面を踏み割る勢いの巨大な大木のような足、攻撃は腕と足を力の暴力で振り回すだけ、それでも、その肉体と魔獣としての力が圧倒的な破壊力と速さを産み出している。


「くっ……でも、懐に入れない!」


 体の大きさも大きく差があり、さらに相手の方が早い。大きな敵を相手にするときは端から攻めろ、戦いの教科書的には正解だが、現状敵の末端は攻撃してくる腕であり足である、そこに攻撃を与えることは至難の業、その内側、そこに攻撃をするためには敵の攻撃の内部に入り込まなければならない。

 霊獣たちも魔獣の攻撃が直撃し粉々に霧散するほどにダメージをうけてしまうと、瘴気に喰われてしまう。完全に喰われてしまえばもう霊獣としての死を迎える。

 無謀なおとり役や捨て駒のような使い方ができるような便利なものではない。

 むしろ強大な敵と対峙する際に複数の霊獣を出しての戦闘は精細な指示出しなどマリスの負担が大きくなる傾向さえある。熊霊の2体は戦士としての熊族の魂が宿っているために自由に戦わせることが可能であった。鼠や小鳥、狐の霊獣たちは斥候などの仕事が主体であり、戦闘中に敵の的を分散させるために使今は非常に危険な状態と言える。霊獣を犠牲にするような戦いをするものに今後霊獣たちは安心してその身を任せなくなるからだ。

 共に並び立ち戦うに足る存在であることがマリスにとっては命題。

 そして霊獣も自身を対等と扱ってくれる人物だからこそ自らの力を貸してくれる、そういう共生の関係を作っている。

 強敵との戦いの中でマリスは霊獣たちをどのように運用していくのがいいのか、自分自身がどのように振舞うのがいいのか、過去、前世のオルディアスから学習したことを実践の中で混ぜ合わせ自分自身の力へと昇華していく。夢の中で幾度となく見た仲間たちと肩を並べ戦うオルディアスの姿と自分の姿を重ねて……


「目も慣れてきたっ! いくぞ、皆!」


 マリスの指示で霊獣たちはいっせいに動き出す。空中の鳥は上からの視点で死角をみつけ安全を確保しながら嫌がらせのような攻撃をする。鼠はマリスの死角となる範囲のカバー。狐は地上での嫌がらせ攻撃担当だ。熊二匹は一つとなり巨大化、強化しマリスと共にガチンコの戦いを繰り広げる。現状の最強シフトだ。


 敵の強烈な攻撃を熊が全力で攻撃を叩きつけ逸らせる、その瞬間大きな隙ができる。ここに3点同時攻撃、うち2点は陽動だが、を加えることで不可避の攻撃を敵の間合いの内に叩き込むことに成功する。

 魔獣にとって受けやすい攻撃、受けにくい攻撃を幾度となく探り、すべての霊獣の動きをコントロールしながら、ようやく敵に深手を与える方法を見出した。

 マリスの集中力はいささかも衰えを見せず、むしろこの苦境の中で磨かれていく。

 魔獣の力を力で受け流す熊霊のような戦い方はできないが、早さを見切り、技で受け流す手段を編み出していく。

 熊が受けマリスが斬る、マリスが流して熊が刺す。

 獣の暴力を人の武が抑え込む展開になり、熊の爪が敵の腕を肘から削り取る、マリスの剣が横っ腹を深く切りつけ臓腑が地面にだらんとぶら下がり、最後の一撃が首を落とすと魔獣はその身体を大地に伏すのであった……


「はぁ、はぁはぁ……」


 灰と化して風に消えていく敵の姿に、ようやく一息をつくとマリスの全身は悲鳴をあげはじめる。集中力を極限まで高め、自らの限界まで肉体を酷使した反動は軽いものではない、知恵熱に惨い頭痛、思考がぼやけるような最悪な状態だ。霊獣の維持もできずに消えていく。

 しかし……


「マリス!! 街にも魔獣が!!」


 彼に休む暇は与えられなかった、衛兵はマリスの戦闘が終わったことを見ると急いで駆けつけ街の窮状を訴えてきた。


「わ、わかりました……!」


 マリスは街に向かって体にムチ打ち走り出した。







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