第13話 冒険者たち

「試合を見ていたが、本当に見事だった。それほどの使い手になるためにどれほどの鍛錬を積んできたか……」


 ギルドマスターは人のよさそうな初老の男性。秘書と思われる落ち着いた女性がそばに控えている。促されるまま正面の椅子に腰かけるマリス。


「実は瘴気だまりを発見したとの報告が来た。町から離れているとはいえ放置すれば北の地が瘴気で穢されてしまう。瘴気の元、魔獣を倒す討伐隊を送らねばならんのだが、どうかそれに参加してもらえないだろうか?」


「もちろんです、私の使命は魔獣をこの世から消し去ることですから……父と母、そして族の皆のかたき、そして命あるものの敵ですから」


「ありがとう、君がこの街に来てくれて本当に助かった……最近では神の加護が弱くなっていると聞くが、神に感謝する」


「……そういえば、海の加護が消えて魔の者が出たって、子供のころ……」


「……15年前の大地震から、そういう報告が上がるようになって、世界中のギルドでも同様の報告が来ている。そうか、マリス君は15歳……もしかしたらこの世界の何らかの危機に神が君を送り込んでくれたのかもしれないのぉ……」


 ギルドマスターはため息をつく、よくよくみればその表情には疲れがにじみ出ていた。


「なんにせよ、頼れる仲間ができたことはありがたい、これからも頼むよマリス君」


「はい、頑張ります」


 ギルドマスターの手は分厚く、明らかに強者のそれであった。


「ああ、わしも昔は冒険者としてそれなりにやっておったからな」


「何がそれなりですか、S級認定されたこの街の英雄がなにをおっしゃる」


「昔の話じゃて」


「S級?」


「そういえば細かな説明もまだ終わっていませんでしたね、マスター私がお話しておきますね」


「ああ、エレナ頼んだ。それではの」


「失礼します」


 マリスはエレナと共にカウンターに戻り改めて冒険者としての基本的な説明を受けることになった。


 冒険者

 冒険者ギルドに所属し、各地での要望、依頼をこなすことで生計を立てる者たち。

 もしくはダンジョンや魔物退治によって素材や宝を得て生活するものたち。

 基本的には荒くれ者だが、崇高な理念をもって社会貢献を目指す人もいるので一定の評価評判は得られている。

 地域貢献の証である依頼、クエストをこなしていくと、冒険者としての格であるクラスが上がっていく。


 新人(N)→F→E→D→C→B→A→S となぜか太古の昔より規定されている。


 ダンジョン探索や魔物素材の売却によってもクラスは上がる。

 虚偽申請は審議の魔道具でわかるし大罪だからお勧めしないと釘を刺されるのだった。

 ギルドに所属しないと弊害も多いのでお勧めしない、ダンジョン攻略ももぐりの冒険者が行うと逆に罪となるなど、ギルドに所属するのには半月ごとにある程度の依頼をこなす必要があり、クラスごとに必要な依頼をこなさないと降格する。F以下はなく冒険者失格となってしまう。

 ただし、B以上になるとそれらの義務は無くなり自由となる。

 他にも細かい説明をいくつか受けて、講習は終了となった。


「結構、お堅い仕事なんですね」


「仕事柄、粗野な人間もいるから、仕方がないのよ。力があれば認められる面は確かにあるからね、ただマリス君は安心ね、貴方は品があるわ、お育てになられたご両親が立派だったのね」


「ええ、素敵な両親でした。そして、今は剣が見てくれてますから」


「意思のある武具も珍しいけど、魔獣を倒すには魔装具か魔法とか気とかが必要だから……その武器を持ったのも一つの運命ね。これからきっと大変だろうけど、頑張ってね」


 説明が終わってエレナに礼を言って振り返るとフォレス達が待ち構えていた。


「もういいよなエレナ?」


「絶対にマリス君に悪いこととか教えないでね!」


「人聞きが悪いなぁ……、そんなことはしねーさ。さーて、マリス君行こうじゃないか!」


「は、はい……」


 がっつりとフォレスのパーティメンバーに囲われてマリスは街へと繰り出すのだった。その後ろにフォレス達に好き勝手させないためにほかの冒険者メンバーもぞろぞろと付いて回っている。皆の基本的な目的は同じだ。マリスを自分たちのパーティに加えたい。それだった。


「とりあえず、この街で飯と酒に困った冒険者はここに来る」


 連れてこられたのはこの街では珍しい木製の歴史を感じる建物だった。

 雰囲気のある外観とは打って変わって、扉を開くと人々の楽しそうな喧騒に包まれる。


「おーい! ここだここ!!」


 その店の一番奥に大きなテーブルがあり、何人かの冒険者風の男が手を振っている。フォレス達は店の中を迷うことなくずんずんと歩いて、一番中央目立つ席にマレスを強引に座らせる。


「主役の到着だ! 期待の新人マリス君!」


 うおおおおおっっと盛り上がる一角、しかし店として全然気にしている様子はない。店員も端から注文を取りまくっていく。

 

「マリス、もう冒険者になれば一人で生きていく大人になったってことだから、これを飲まねばならねー!」


 泡立った液体が揺れる木製の大きなカップがどんとマリスの前に置かれる。

 冒険者の命の水、エールだ。

 すでにその場にいる全員にカップは行きわたっている。


「では、乾杯!!」


 フォレスの仕切りで即座に乾杯、マリスは初めての液体を恐る恐る口につける。


「にがっ、いけど、面白い、小麦のジュースみたいだ」


「お、初めてにしては随分と洒落たこと言えるじゃねーか」


「さぁさぁ若い子はやっぱこっちだろ、好きなだけ食え!」


 テーブルに所狭しと料理が並べられていく、肉料理を中心にとにかく量が多い。

 そしてみんながつがつと喰らっていく。

 こんなにも賑やかな食事はマリスにとって初めての経験だった。 

 そしてそれはとても楽しい時間だった。

 たくさんの先輩冒険者たちと話、そして時におちゃらけ、時に過去の危険な旅の知見を得たり、力比べをしたり、女性からからかわれたり、とてもとても楽しい時間を過ごすことができた。


「マリスちゃん、大変だったわね今まで……」


「ちょっとケイト、なにマリスちゃんとくっついてるのよ!?」


「いや、その、あの……」


「うわ、すご、なにこの筋肉、しかも、近くで見ると破壊力ある顔!!」


「ほんと、将来いっぱい女の子泣かせそうよねー……」


 すっかり女性の冒険者に囲まれ、男たちは端っこでその様子を眺めながら愚痴を吐いている構図が出来上がっていた。


「なんでぇ、あいつら普段は 粗野な冒険者なんてお断りよ! とか言ってるくせによぉ……」


「結局は顔か、顔なんだな!」


 男たちの怨嗟の声が酒場に響いた。

 夜もすっかり更けてきたが、酒場はまだまだ賑やかだった。


 




 



 





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