第3話 黑
ガチャガチャ、ガッコン・・・・・・
「はーいお疲れさまでしたー足元ご注意くださーい」
そうしてあっという間に終わる甘い時間と空間を、乗る前にはバカにしていたその観覧車の『箱』という二人の世界が終演し、私たちは別に悪いことをしている訳でもないはずだが、そそくさとその場から逃げるように主役たちは小さな二人だけの舞台から捌けていった。
私たちは手を繋いだままお互いに目を合わす事も無く、屋上から階段を使って一階下の飲食店が並ぶフロアへと降りて行こうとする。
「・・・いやぁ~、意外と良かったよね」
私は沈黙が続くのを恐れて階段の階層途中の踊り場で気分と雰囲気を変える為に、振りかえって笑顔を振りまいた。すると、そこには別人の女性が俯き付いてきていた。その途端に繋いでいた手も冷たく感じて、誰かも分からない人の手を振り払い、ドッキリにかけられた人のように驚き叫んだ。
「うわっ!・・・だ、だれ?!」
黒のワンピースを着たその女性は、何の返答も微動もせずに俯き、佇んでいる。私は気持ちが悪くなり、さっきまで居たはずの彼女のことも忘れ一心不乱に階段を駆け下りて行った。
三階下まで止まらずに降り、少し振り返る。黒の女は追いかけてくることは無く、私は少し冷静になろうとした。ぐるぐると螺旋では無く交差し続くその階段は誰かとすれ違うこともなく、必死で焦り、汗だくな自分を見られる心配は無かった。そんなことを考えながら心を落ち着かせ、さっきまであの女の冷たい手を握っていた右手に掴む手摺りを引き寄せるように身を寄せて、少し階段中央、吹き抜けた細い空間の上を覗いてみた。すると、下を覗き込むようにしてさっきの女が髪を垂らしながらこっちを見ていた。私は改めて悪寒を感じ、冷や汗とともに再度その場を走り去って行った。少し遠くからだったから定かではないが、黒の女の顔はニタニタと笑っていた気がする。
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