運命の糸に縛られて
初潮を迎えたことにより、正式にハイド伯爵と婚約することになった。
16歳で初めて生理が来た。今まで来なかったのに、突然、生理が来た理由は分からない。ストレスはないと思う、だって私あまり細かいことを気にしないもん! 春頃から急に体重が増えたことくらいしか心当たりがない。
とにかく!本日6月24日、婚約式があるの!
教会の控えの間に移動し、髪のセットも着替えも終わった。婚約式で着るドレスはさっき初めて見た。時間がなかったので試着の機会もなかった。
お姫様のような淡いピンクのレースドレスが広がり、スカートの部分はラベンダーピンク色の逆V字のように生地が重ねられている。可愛い。
マーサが後ろに回り、私の首にクリスタルのついた黒地のチョーカーを着けてくれた。成人女性として髪を結い上げられているから、いつもよりスムーズに装着できた。耳元で揺れるイヤリングが擽ったいな、と思っているとマカレナが客間へと向かうよう促しに来た。
部屋を出る前に鏡を見ると、まるで舞踏会へ向かうシンデレラのようだった。私だとは思えない。もっとも私がどういう人間なのかなんて分からないけど。
フリーダとアンネリースに付き添われゆっくりと階段を降りていく。足先を覆うまでに長くなった裾に足を引っ掛けないように。
ホールを抜け聖壇の前に着いた。目の前には4ヶ月ぶりに会うハイド伯爵が立っている。閣下はハッとしたようにジーっと私を見ている。だからにこりと笑ってみた。ハイド伯爵は眉間に皺を寄せ、眼尻を緩めた。私とハイド伯爵の間には牧師様が立っている。
「ハイド伯爵、エリザベス・ハイド嬢、この婚約宣誓書を読み上げてからサインを」
ハイド伯爵は聖壇の上に置かれている婚約宣誓書を一読しまっすぐ立ち上がった。
「私ヨハネス・ウィリアム・ハインリヒ・ジェームズ・ド・ハイドはエリザベス・ライムンダ・ルツ・ジュダ・ド・ボーヴァーと婚約いたします」
ハイド伯爵は何の躊躇も見せず宣誓書にサインをした。顎をクイと動かし私にお同じことをするよう促した。私は身を乗り上げて婚約宣誓書に目を通した。
「私エリザベス・ライムンダ・ルツ・ジュダ・ド・ボーヴァーはヨハネス・ウィリアム・ハインリヒ・ジェームズ・ド・ハイドと婚約いたします」
私は慣れない羽根ペンに苦戦しつつもサインをした。視線をハイド伯爵に向けると、彼は私の手を取った。牧師は私達の重なった手にまた手を重ねた。
「ここに2人の婚約が成立したことを宣言いたします。結婚式は翌3月12日に執り行います」
そして牧師は退出した。ロイス・ド・ローレンス様が重そうなケースを閣下に渡した。閣下はケースを開け、私に見せた。
「これを其方に」
首飾り、にしては首の通るスペースがあまりないね。なんだろう? 踊り子とかが着けるエキゾチックなティアラ? ホワイトゴールドに青みがかったダイヤモンドが散りばめられた綺麗なティアラ。そして何より目立つのは垂れ下がる部分に大粒のサファイヤ。
それからアクセサリーケースをフリーダに手渡した。私、婚約式どころか結婚式にも行ったことがないから、どうすればいいのか分からない。プレゼント交換をするの? でも私、何も聞いていないよ!
何も分からないけど、誤魔化すためニコっと微笑んだ。
「ありがとう存じます、閣下」
それから閣下は本邸に、私は別邸に帰った。寝間着に着替えてから、私はベッドに飛び乗った。
「ねえ、フリーダ。婚約式では男側は女側にアクセサリーを贈るものなの?」
「えぇ。結婚式で身につけるものを贈る慣わしがあるのです」
「そうなの?」
フリーダは「ええ」と頷き、私にホットミルクを手渡した。
「青を選ぶとはいい見立てでございましたね。青いものを選ぶ手間が省けますし、何よりエルサ様の瞳の青さをよく引き立てますもの」
私の目、青と言うよりは青っぽい灰色なんだけど。
温かなミルクを飲み、体がぽかぽかとしてきた。
曽祖母様はどうやってゴーディラックを脱出したんだろう? 1017年生まれのエリザベスちゃん。次に分かったことは1027年、ドイツで曽祖父様の実家に引き取られている。つまり10歳になる前にはゴーディラックを出ていた、ということ。どうやって? 監視があっただろう中、女の子1人で国を出たら目立ちそう。支援者がいないと成り立たない。
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