俺の寝室がいつの間にか【女神が転生者を異世界に送る白い空間】になってた…。~転生の女神は今日も俺と添い寝する~

八゜幡寺

1:俺の寝室が白い空間になっていた件

 布団の中で、俺の地肌をまさぐる、細い指……。

 心地よいくすぐったさが、なんだか焦れったくて、思わず振り払う。


 しかしその意地悪な指先は、甘えるようにふふっと笑うと、再びシャツの中へと侵入してきた。へそから喉元までゆっくり上ってゆき、そこでUターンして、何かを探すように、胸板を蛇行する。


 背筋にゾクゾクと甘い電流が走る。

 心の内で、指先の探しものが見つかることを期待して……それでも男としてのプライドが、今この瞬間は、わずかばかり勝った。


 彼女の細い腕を掴んでシャツの中から引きずり出す。

 眠い目をこじ開けて、桃色髪の美女を睨みつける。

 シングルサイズのベッドに二人で横たわっているものだから、めちゃくちゃ顔が近くてドキッとさせられるが、ここは男として、このベッドの所有者として、断固たる意思表示をせねばなるまい。


「……安眠の邪魔すんなって、いつも言ってるだろ!」


「えへっ、ごめんね。抱き枕くん♡」


 睨みつけながら文句を言えば、全然反省なんかしてない口ぶりで謝り、そしてまた悪びれもせずにシャツの中に侵入してくるのだった。


「うぐ……っ」


「はぁ、癒やされる……。抱き枕くんの喘ぎ声サイコー……」


「喘いでねーし!」


「ほんとぉ? 抱き枕くんがザコ乳首なの知ってるんだぞぉ? うりうりっ!」


「んなに……ぐぁっ!」


 男のプライドは、とっくの昔に敗れ去っていたようだった……。

 桃色髪の女神はそんな俺を慈しむように抱き寄せて、頭をよしよしと撫でた。


「ごめんごめん、意地悪だったね。さ。私はこれから仕事があるから! はい、起きた起きたっ」


 釈然としないまま女神に叩き起こされて、俺は仕方がなく、ベッドから起き上がる。


 ――眼前に広がるのは、どこまでも続くような真っ白な空間。

 どこを見渡しても白く明るく、そして、春の陽気のように暖かだ。

 

 そして、この白い空間に、俺たち以外にもう一人……。

 若い青年がぽつんと立っていた。


「え、あれ? ここは……?」


 青年は途方に暮れてキョロキョロとあたりを見渡し、そして、俺と女神に目を向ける。


「あんたら、誰?」


 見るからに年下の青年から不躾な言葉が放たれる。こっちが聞きたいが、いつものことだ。

 この白い空間に、突如として誰かがやってくるなんざ、日常茶飯事なのだ。


 ……ここ、俺の部屋だってのに。

 元々は俺の寝室であり、パソコンもあって、ポスターとかフィギュアとか飾ったりもしていたオタクルームだったってのに。

 今ではベッド以外は消え去り、ただただ真っ白な世界に生まれ変わっていた。


 なぜか、俺の寝室、【女神が転生者を異世界に送る白い空間】になっていたのだった。

 桃色髪の美女はまさしく女神で、この世で死んだ人間(主にトラックに轢かれた十代から二十代の男性)に特別な力を授けて異世界に送り出すのだ。


 だから、この青年のように、こうして死んだ人間が白い空間に現れると、女神はその役割を果たすのだ。


「はいはい、朝ごはんまだだから、巻きでいきますねー! あなたには【腕を回した回数に比例してパンチ力が青天井で上がる】チートを授けましょう!」


「え、なにそのゴミみたいな……」


「勇者よ。それでは旅立ちなさい。その与えられしチート能力で、異世界を救う冒険へと……!」


「いや待って待って! もっと譲歩させて……あーっ!!!」


 そして青年は、光とともに消えた……。




 どうしてこんなことになってしまったのか。


 ある日、仕事を終えてアパートに帰った時だ。

 終電まで残業して、ヘトヘトになりながら、風呂も晩飯もすっぽかしてさっさと寝ようと寝室に一直線。


 寝室のドアをガチャリと開ければ……。

 そこは、真っ白に明るい空間だった。


 ……は?


「勇者よ。それでは旅立ちなさい。その与えられしチート能力で、異世界を救う冒険へと……!」


 脳みそバグったかと思ってフリーズしていたら、突如として、そんな声が聞こえた。

 真っ白なこの空間に、桃色髪の美女がいた。彼女はそう言って杖を振ると、辺りはたちまち目を開けていられないほどの光に包まれて……そして、再び目を開けると……やはり白い空間に美女が一人、立っていた。


「ふう、今日はこれでおーしまいっ! あー疲れたっ!」


 美女はうーんと伸びをして、清々しい笑顔でそう言った。彼女は白くて薄いローブ一枚羽織るのみで、地肌が透けて見えている。

 伸びたものだから、透けるところがばっちり透けていた。


 そういえば、あまりにも薄着な美女に目を奪われていたが、光に包まれる前に、美女の他にも誰か男が一人居た気がする。光が収まると、忽然といなくなっていた。


 ……なにこれ?


「あら?」


 伸びをした美女と目が合う。

 俺も彼女の目を見る。きれいな淡桃色の瞳だった。薄いローブから、雪のように白い地肌が透けて見えた。

 美女は俺を見るなり、慌てて弁明してきた。


「あーっ、ごめんなさい! あなたも転生者ですよね! 異世界でチート能力無双したいんですよね!」


「え、違うけど」


「では【物理ダメージ無効】と【魔法反射】のチートを授けます! あ、体技と息には注意してくださいね!」


「なにクエの技ジャンル?」


「勇者よ。それでは旅立ちなさい。その与えられしチート能力で、異世界を救う冒険へと……!」


 彼女が先程と同じセリフを唱えて杖を振ると、辺りはたちまち目を開けていられないほどの光に包まれて……そして、再び目を開けると……やはり白い空間に美女が一人、立っていた。


「……へ? 転生しない……?」


 頭にハテナを浮かべて彼女は仰天していた。

 ここ、俺の部屋なんよ。

 その反応は俺こそするべきなんよ。


 ……まあいいや。

 寝よ。

 先程の男が消えた光景より、ほぼ裸の美女より、そんな美女の意味深な発言より……睡眠欲が遥かに勝った。

 それになんだか、ここ、白くて明るいけど、暖かいし空気が清々しくて、心地よいのだ……秒で寝れる……。


 幸いにも、白い空間に変わったこの寝室にも、ベッドだけは元の位置に設置してあった。いつものようにズボンを脱ぐ。パンイチになるのが俺の就寝スタイルだ。

 ベッドに向かう数歩の合間に脱衣を完了させて、無駄なくベッドに潜り込んだ。


「あ! 仕事が終わったら寝ようと思って残してたベッド! ずるいです、私も寝ます!」


「いやなんでだよ!」


 ベッド・インした瞬間に意識が飛びかけた矢先に、美女もわめきながらベッド・インしてきやがった。

 シングルサイズなものだから、もぞもぞと動かれる度に振動が伝わってくる。というか、普通に肌と肌が密着して、柔らかな感触が押し寄せてくる。

 なんてこった。美女のすべすべお肌、気持ちいい……!


「え、な……なんですかこれは……! めちゃくちゃ抱き心地がいい……!?」


 美女も何が思うところがあったらしく、驚きの声を上げて、そして、ぎゅっと抱きついてくるのだった。うわちからつよい!


「決めました! あなたは、私の、抱き枕に任命します♡」


 人肌の暖かさと、気持ち良い柔らかさと、最上級の眠気に抗えず、俺は意識はシャットダウンするのだった……。彼女の不穏な言葉を、聞こえないふりをして……。




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御一読ありがとうございます!

出してほしいチート能力や絡みがあればどしどしコメント頂ければ反映したいと思います!

よろしくおねがいしますうううううううううう!!!

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