婚約破棄された元聖女、実は魔王の娘で世界最強!? 新しい恋と復讐(?)が始まって、気付いたら終わってた

蒼井星空

第1話 裏切り

「聖女の力を失っただと?それでなぜまだ死んでいないのだ?」

「えっ?」


私は婚約者であり、これまで私をずっと支えてくれていたヘンリー王子の冷たい言葉に耳を疑った。


私は聖女だ。

7歳のころに訪れた王家主催のパーティーで人を癒す力、魔を祓う力を発現した私はそのまま神殿に入った。

聖女の力と言うのはある日突然使えるようになるものらしい。

神殿に入れば不作と両親の浪費によって家計が傾いていた実家が助かるということで両親は歓喜していたのを覚えている。それ以降、会っていない。


それから10年。

私はずっと神殿に所属して病気やケガを治したり、国内で出現した魔を祓ってきた。

100年以上前の聖女のように魔王を倒す勇者を支援する、なんていう仕事はない。魔王が倒された後の世界で良かったと思ってはいた。なにせ魔王城へ向かうたびなど、物語で聞いただけでも大変そうだった。

しかし私には自由はなかった。ずっと聖女の力を使ってきた。同い年の子たちが学院で勉強したり遊んでいる間ずっと。


やりがいはあった。

困っている人たちは私に感謝してくれる。聖女さまと呼んで敬われる。

子爵家の出身でかつ平凡な容姿しか持たない私にとって夢のような話だが、ヘンリー王子とも婚約した。


そうして18歳になる直前。

あと1か月でヘンリー王子との結婚式を控えて、私は聖女の力を失った。


理由はわからない。

そもそもなぜ使えるようになったのかもわからないものだから、再度手に入れる方法もわからない。


だけどお勤めは果たせない。

昨日の病気治療は失敗し、それを聞いた神殿長から体調不良としてしばらく療養することを指示された。


それでヘンリー王子に相談したのだけど、帰って来た反応は酷いものだった。


「どういうことですか、王子?私がなぜ死んでいないと言うのは?」

私は王子に詰め寄ろうとしたが、避けられた。


今までであれば私が辛かったりすれば彼は優しく抱き寄せて慰めてくれた。

今日もそうなる……これはちょっとしたアクシデントで、少し休めばまた力は戻る。そう言ってほしかった。期待していた。

甘えと言われればそう。なにせそんな確証はない。


でもこの反応は予想外だった。

死ぬとは?


「知らないのか?聖女の力は有限だ。使い果たせば使えなくなる」

「なっ……?」

続くのは私にとって衝撃的な言葉。


「なにせ己の寿命を使って人を癒し、魔を祓うのだ。それはそれは感謝されるだろう」

「そんな?」

寿命を使う?そんな話は聞いたことがない。

私に向けて平伏して感謝を述べる人たち……彼らは知っていた?


「あぁ、聖女には教えられないんだったな。だからわざわざ無垢で幼い子供を聖女とし、外界と遮断するのだから」

「なんですって?」

それでは奴隷だ。そんなことが……?


「くっくっく。ようやくこのタイミングで使えなくなってくれてよかったよ。まさかお前みたいな平凡な容姿の女と並んで結婚式を一度やらないといけないのかと思っていたからな」

「どういう……」

嘘よ……こんなの……こんな……。


「お前の親は予想以上に魔力が強い女を拾ってきたからな。そのせいで長持ちしているという予想だった。まったく、変に心配させるな。マリエットの機嫌を取るのに苦労するだろう?」

「マリエット様?……公爵家の?」

「あぁ、そうだ。僕の本当の婚約相手だ。当然来月の結婚相手のはずだったのに、お前が長持ちするせいでお預けになるかもしれなかったんだ。可哀そうだろ?」

「……」

酷すぎる。拾ってきたとは?確かに両親とは私は全く似ていなかったと思うし、小さい頃の記憶はない。


「ん?あぁ、そうか。自分が捨て子で拾われたということも知らないんだったな。笑えるぞ。まぁ、どうせゴミみたいな人生だったのにこうして僕と話せて、聖女と敬われて、良い人生だったろ?」

「なっ……」

「そのまま死ねばハッピーエンドだったのに、なぜ生きてるんだ?まぁいい。おい!こいつを連れて行け。聖女の力を失った抜け殻だ」

衝撃で固まっている私の腕を王子の護衛の騎士が取る。そして引っ張って行こうとする。


「いや、やめて。酷い!王子!?私はこれまで頑張って来たのに……!」

「僕に近寄るな!汚らわしい」

「なっ……」

まさにゴミを見るように王子の淡麗な顔がゆがむ。

それで悟った。私は捨てられた。

いや、そもそもこれまでがただの夢だったんだ。


望んでもないのに見せられた夢。最低よ……。


「王子、地下牢に入れておきます」

「バカなことを言うな!聖女は死んだのだ。これまでのように力を使い果たしてな。エリーナの名誉くらいは残してやれ」

「はっ……」

何が名誉よ。私はまだ生きてるのに……。

そんな思いも空しく、私は騎士たちに連れて行かれた。

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